第七十九話 聖域チョークと海洋の守護像
累計PV数100万突破、総合評価7000pt突破、ブックマーク件数2400件突破、評価者数250人突破しました!
これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
「え?! いつの間にここに!?」
「だ、誰だお前?!」
「…………!?」
「やあやあ二人とも、久しぶりじゃないか。そっちの子たちは初めてだね」
「おう、久しぶりだな」
「お久しぶりです」
取り乱す女子三人をよそに男子二人は事も無げに挨拶する。もう考えるだけ無駄と諦めているともいえる。
「いやはや、今回も君たちが一番乗りだよ。流石にこの私が見込んだだけのことはある!」
「ふざけんな! 何がこの私が見込んだだけのことはあるだお前! 大丈夫だの大して被害出ないだの適当な事ばっかり言いやがってこの野郎! 思いっきり被害出てんじゃねーか!」
「ちょちょ、秋彦落ち着いてー!」
「はっはっは、大丈夫とはいったが、大して被害出ないとは言った覚えはないなぁ。それに大半が生き残ったじゃないか。人類は大勝利だよ? もっとも、一番理想的な勝利の仕方をしてくれたのは日本だけだけどね」
秋彦怒りの抗議を事も無げに受け止めるライゾン。
「それよりも、今日君たちがここを踏破すれば、日本は更に強く、ダンジョンで経済を潤すことができるようになるよ!」
「何言ってんだよ、今日本どころか世界中で経済がったがたなんだぞ」
「そうよ。貴女、今世界がどんな状態になっているかわかっているの?」
秋彦の疑問の声にジュディが合いの手と説明を入れる。
ジュディの言う通り、現状、日本だけでなく、世界中あちこちで経済がガタガタになっているのだ。
例えば、地方都市では魔物が溢れかえっている影響で、地方都市の人々が都会に逃げ込んでくることで、現在都会と呼ばれる場所では人が多すぎてパンパンになっている。
また例えば、運送業は地方都市という魔物だらけの場所を決死の覚悟で突っ切らなければならないことから運送料が大幅に上昇し、その影響で物価高くなっている。
更に例えば、海に魔物が溢れかえっている影響で、海運が運任せ、あるいは大量の探索者を雇っての超高コストの運搬方法になっており、そのせいで外国からの輸入物がなかなか入らない。その結果、海外からの品がちっとも日本に入って来なくなっている。輸入頼りの日本にはここが一番大きい。
なぜなら船でしか輸送できない物と言う物もあり、その中には石油などのエネルギー資源などもあるからだ。
現状、日本はそれまでの買い溜め分により、節約をすれば何とか半年は持つ見通しであるが、ガソリンの値段や電気代にもろに影響が出ている。
この状態でどうすれば経済復活となるのか。
ライゾンはうんうんと大きく頷くと話し始める。
「まあまあ、地方都市については想定外だった。地方にも戦う人が残るものだと思っていたんだが、施設の整う都会に皆行ってしまうとは思わなかった」
「やっぱりお前の見積もりガバガバじゃねーか!」
「まあまあ、そんな人類に希望の光を。この二つのアイテムがあれば運送や海運などの問題は解決に至れるはずさ。これは初級ダンジョン踏破の固定アイテムだ。宝箱を見てみ給え」
そういってライゾンはレイス・フェーラーを倒した後、出現した宝箱を指さす。
まだ何か言いたげな女子に対して二人は首を横に振る。言っても無駄だから諦めろという意味合いを込めたジェスチャーだ。
盛大にため息をついて宝箱を開ける。
まず目立つのは金銀財宝の山だ。開けた瞬間光が反射してまぶしい程の、売りさばいたら巨額が予想される量だ。
「うお?! なんだこれ!?」
「す、す、すごい!」
「あら、なかなか豪勢ね」
「おお~すげーなこれ」
「……金ぴか」
「まあまあ、それはただの金品、貴金属だ。大体五千万相当あるだろう。初めての踏破者に送られる特典のようなものだ。だがそっちはどうでも良いんだ。注目すべきはそっちだよ君達」
金銀財宝に思わず目を奪われるが、ライゾンの言葉で我に返る。そしてその一番上に載っている、石で出来た女性の像と、小さな箱に注目する。石像は白い石で出来ているが、かなりの魔力を秘めているらしく、明らかにただの石像ではないことが分かるし、それは小さな箱もそうだ。小さな箱の方は聖域チョークと書かれている。どうやら箱に何かが入っているようだ。
「で、この中に似つかわしくないこの二つは何かしら?」
「秋彦、鑑定して?」
「はいよ『力よ!』アナライズ!」
さっそく鑑定を開始する。まずは聖域チョークと書かれた箱の方だ。
アナライズをかけると、この様な結果が出てきた。
【聖域チョーク十本セット】
≪このチョークで道に線を引くと、その道周辺に魔物が寄り付かなくなるチョーク。一度線を引けば線自体が消えても効果は永続する。一本につき1㎞分線を引くことができる。この箱にはそれが十本入っている≫
「……え、これ凄くね?!」
「ええ、これがあれば……!!」
「安全地帯が作れる?」
「それだけじゃないよ! 道の安全を保障出来るってことは!」
「……地方都市の奪還につながる……!」
「うむ、その通りだ。その像の方もすごいよ? 鑑定してみ給え」
ライゾンに言われるがままにアナライズを行う。
【海洋の守護像】
≪この像を船に載せると、その船と乗客を海に住まう魔物が認識しなくなり、襲われることが無くなる。どんなに大きい船であっても、それが海を航行する船であるならば効果を発揮する。逆に海を航行する船でない物に乗せても効果を発揮しない≫
「……こ、これで海運も、漁師の安全も図れるようになるってことか!」
「海に魔物が居るという問題は解決しないけどね」
「でも、輸入とか輸出とかの問題はこれでどうにかなるね!」
「すっごいなー、あたしらが持ってても意味ないけど」
「……でも凄い値が付くのは確か」
「うむうむ。これである程度物価は元に戻るだろう」
残りはすべて金銀財宝なので、とりあえずすべてマジックバッグで回収する。
回収が終わると、茜は嬉しそうな顔で震えていた。
「お、おい茜どうした?」
「……凄い……この二つは大発見と言わざるを得ない。これがあればこの国の治安を元に戻し、他国への取引の材料にもなる。私達は、いやこの国は間違いなくダンジョン先進国として大きく発展を遂げる事が出来る。金をばらまかされ続けた分を取り戻し、外貨を得て、経済を活性化させることができる……!」
「……茜ちゃん、すごい興奮しているね……」
今までになく興奮する茜。まあ茜からしてみれば、他国との取引材料や、探索者の為の法律をスムーズに作れるように、いいアイテムが無いかを探すことが目的だったので、大きな成果になるであろうこの発見は、本人にとってはテンションの上がる品物だったらしい。
「でもこれ実際すごいよね。これで線を引いたらその辺に魔物が寄り付かなくなる……あれ、ということは……?」
「どうしたの優?」
「いや、ひょっとしたら、これでダンジョンを取り囲むように線を引いたらダンジョンから魔物出てこれなくなるんじゃない?」
「ああ! そうだよじゃあ氾濫問題これで解決」
「残念ながらそうはいかないと思うよ?」
優太の発言にその場が沸いたかと思ったら、ライゾンが口をはさむ。
「え? ダメなんですか?」
「うむ、というのもだね、それは一定以上の強さの魔物には通用しないのさ。まあそうはいっても中級ダンジョンから氾濫する魔物でも封じ込めることはできる」
「要領を得ないわね、じゃあ何の問題もないんじゃない?」
「いいや、そうでもないさ。それでダンジョンを封じ込めても最初は出て来る事は出来ないだろう。しかし、狭い所に魔物を一か所に押し込めすぎると、連中は互いを食らい合い、とても強くなってしまうのさ」
事も無げに言うが、それは要するに以前の氾濫騒ぎの最後に出てきた共食いによる超強化個体のことだろう。
「それって、フィールドキメラゴブリンみたいに?!」
「ああ。あれは外に出た魔物の数が減ったことで、魔物の生存本能が刺激されて、自らを強めようとして起こった出来事だ。そのせいで色々な魔物が混じり合って、あんなよくわからない化け物が生まれたのさ」
なので、今話題に上がっている、聖域チョークによる魔物の封じ込めを行うと、しばらくの間、魔物は氾濫できるほどに膨れ上がっても聖域チョークの影響で出てこれないが、だからと言って放って置き続けると、数が増えすぎた事で魔物同士がスペースを巡り、食らい合いが発生。
そして勝ち上がった一匹の個体が増える元の個体をさらに食らってどんどん強くなって行き、ある時聖域チョークでは抑えきれないくらいに強くなった時に一匹の超強力な魔物として世に放たれることになる。
「ええっと、要するに……期間は伸びるけど、結果的にとんでもない化け物を作っちまうことになるのか……?」
「……聖域チョークは、戦闘力いくつくらいの魔物まで抑え込める?」
「おおよそ戦闘力1万といったところだね」
秋彦たちが一斉に渋面を浮かべる。
戦闘力1万。先ほど倒したボスが戦闘力3千であることを考えると、今の自分たちではどう考えても手に余る。現在東京にいる腕の立つ探索者に支援を要請しないと太刀打ちできないであろうことは容易に想像がつく。
「……内心、血染めの衣装の2号的なものを作れるようになるし、むしろいいんじゃねーかとも思ったけど……1万はデカすぎる」
「そうね……手に負えないでしょうし、今後の私たちのレベルアップ次第でしょうけど、とりあえずこの使い方は無しね……」
氾濫問題が、このチョークひとつで片が付くわけではないことを悟り、秋彦たちはがっくり肩を落とすのであった。
皆様からのご愛顧、誠に痛み入ります。
これからも評価、ブックマーク、感想など、皆様の応援を糧に頑張って書いていきます。
次の投稿は8月29日午前0時予定です。
よろしくお願いします!




