第七十二話 鼓舞
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これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
「おいおい、この状況でやるのかよ……!」
「ああ、もう! 面倒ね!」
突如現れたボスを相手に忌々しげに睨む前衛。
分断されていても、こちらはある程度の事態は覚悟しており、どちらかというと常に危険の最前線で戦い続けていたのでそこまで取り乱す様子もない。だが……
「うわああああ! 秋彦! 秋彦!」
「きゃああああ! 出たあああああああ!」
「…………!」
分断され、前衛という名の壁、あるいは盾役がいなくなってしまったことで、後衛組は完全に取り乱していた。
優太は秋彦の名を呼びながら光の壁をバンバン叩いているし、桃子はボスを見て叫ぶし、茜も押し黙って顔を青くしている。
ボス二匹はそれぞれ向かってくる。が、やはりというかなんというか、オークがそうであったことから必然ともいうべきか……
「……おっそいなー……」
「巨体も相まってますます動きが鈍くなってるんじゃないあれ?」
「かもな。どれ、『力よ!』アナライズ!」
ボスは走っているつもりなんだろうが明らかに遅い。普通のオークよりもむしろ遅く感じられるのはジュディの言った通り体格がさらにデカくなったからなのか。
アナライズをかけてもジュディの足止めがいらない位に余裕がある。いつも通りアナライズをすると、次のように出た。
名前:ハイオーク
レベル20
肉体力:1800
魔法力:100
戦闘力:2500
有利属性:全て
不利属性:無し
使用魔法属性:無し
スキル
ぶちかまし:(【モンスタースキル】【アクティブ】相手を力任せに殴り、命中させた相手を後方に吹き飛ばす)
鈍感:(【モンスタースキル】【パッシブ】死ぬまでどんな攻撃を喰らおうとも怯まず攻撃を仕掛けてくる)
オークの上位種。だが、オークと同じく好戦的で頭が悪い。
基本はオークと同じだが、魔法に対する耐久力を多少得ている。
攻撃力と耐久力だけに特化しているオークの上位種というだけあって、攻撃力と耐久力は更に上昇し、鈍感と相まって不死身を思わせる程である。だがしっかり倒せる。
尚、オークの上位種なので、肉もオークよりも美味い。
「基本方針は変えなくて大丈夫そうね」
「ああ、俺らは一撃で仕留めようなんて欲を出さずに、チクチク攻撃していけば行ける。俺の攻撃が向こうに通れば、だけどな」
秋彦はそこで言葉を切ってちらりと後衛組を見る。
三人はまだパニックから抜け出せていないらしく、まだ同じ行動をとり続けていた。
「よーし、三人ともそろそろ落ち着けー!」
秋彦は手を叩いて大声を出す。
「だ、だって……どうしよう、秋彦が前にいないなんて……!」
「秋彦だけじゃないって! 前衛のいないあたし達なんてぺらっぺらじゃんか! どうやって戦えってのさ!」
「……怖い……!」
言われて多少は落ち着いたのだろうが、顔にはありありと恐怖が浮かんでいる。
考えてみれば今までは前衛、後衛とはっきり立場が分かれており、この三人は今まで敵の攻撃をロクに受けた経験がない。
そんな三人が図らずも戦いの最前線に押し上げられたのだ。怖くないわけがない。増して三人は、魔法使い二人に、アーチャー一人という完全な後衛なのだ。はっきり言って魔力はあっても防御力、つまりは肉体力なんてあってないようなものだ。おまけに肉体力を上げている前衛達にとっても喰らったら無事で済むかわからない攻撃を行ってくる相手だ。
いくら当たらなければどうという事は無いとしても、攻撃をかわす動作もロクになれていないのだ。やはり怖いだろう。
「心配するなよ。お前らだって、ここまで来れたんだ。それに向こうの戦闘力は2500だぜ? 親友と俺は装備込みなら上回ってる、やれねぇはずねぇんだ。だって戦闘力上回ってるんだぜ、負けたらそれこそおかしいだろ?」
「で、でも……」
「……なぁ、親友」
精一杯の励ましの言葉をかけてもなおも怯える三人。
秋彦はポツリと優太に声をかける。
「……え?」
「俺らも付き合い長いよな」
「え、何を……?」
優太も突然秋彦が何を話し始めたのかが分からず戸惑う。
「俺も親友もガキの頃から割と一緒にいたもんな。昔っからのいじめられっ子で、俺はガキの頃は割かし喧嘩っ早かったし。俺の後ろにゃ大体親友いたし、暴力沙汰はたいてい俺が何とかしてたもん。そりゃ、怖いよな」
「あ、うん……」
「ずっと後ろに居て俺が守ってたもんな、親友の事。親友が後ろにいたからって、結構いろいろ引きずり回しちまってたよな、ダンジョンもそうだし。わがままでごめんな?」
優太は神妙な面持ちで聞いている。女子陣もだ。
「でも、だからこそまたわがまま言わせてもらっていいか? 俺も、そろそろ親友に背中任せてーんだわ。今までだって後衛で魔法撃って貰ってたけども。俺が前に居なくても、戦えるだろ? Lv20を超えて、戦闘力も2000超えてるじゃんか」
「あ……うう……」
「俺と親友は親友だ。今までも、これからもな。だからこそ、ここまで強くなったのを含めてさ、俺に頼り切る形は、そろそろ終わりにしねーか?」
「う……うう……!」
優太がゆっくり前に出て杖を構えた。へっぴり腰で足はガクガク震えているし、涙も止まっていないが、それでも自分から前に出た。それは優太にとっても初めての行動。
「それにほら、いざって時の為に前衛と後衛逆にしたことあったろ? 覚えてるか? あの感覚を思い出しなよ」
ダンジョン初期、氾濫がおこる前に行った、いざって時の為にちょっとやった訓練。懐かしい話だ。涙を拭い、震えが収まってきた。優太は絞り出したような声を出す。
「……やる……やるよ……僕……頑張る……!」
「おう、親友はもうあのころとは違う。インタビューでもそう言ってたじゃねーか。これをもって殻破ろうぜ。な?」
「う……うん……!」
足の振るえは残っているが武者震いと言う事にしておこう。これなら精神的に、優太も戦う事が出来そうだ。安堵と共に、桃子と茜にも声をかける。
「任せたぜ、親友。なぁモモ、茜。すまねぇんだが親友の事、任せていいか?」
「……分かった。もう覚悟決める」
「ドキュメンタリー番組かよ……だが、正直悪くないね!」
後衛組も改めて武器を構えだす。
「悪い、頼んだぜ」
「もう、悠長に話しちゃって……今のうちに補助魔法の一つでもかけてくれればよかったのに……」
「ゴメン。でもあの調子じゃ発破かけておかないとビビって話にならなかったかもしれないし……」
「分かってるわよ。それに、今の話聞いてモモも茜も覚悟決まったみたいだしね」
ジュディはちょっとつまらなさそうに口を尖らせる。
だが全員の意識が戦闘にやっと向いたのはいいことだ。
「さて、奴さんようやく戦闘範囲内にやってきたぞ」
「今回も全員生きて帰るわよ!」
「やるんだ……やるんだ……!」
「ユータン、気負いすぎんなよ?」
「……私達もいる」
動きの鈍いハイオークが、やっと距離を詰めたのを確認して、改めて全員が互いに声をかけあう。
「よーし! レインボーウィザーズ! 戦闘開始だ!」
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次の投稿は7月27日午前0時予定です。
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