第七十一話 分断
累計PV83万突破、総合評価6400pt突破、ストーリー評価合計1000pt突破しました!
これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
再びやってきた東京駅。最早言葉はない。666番線 迷宮線各駅停車 地下初級迷宮駅行きの電車に乗り込むべく、全員でダンジョン行きの電車を待つ。
「緊張するな……」
「でもこの感覚、怖い反面癖になりそうな程に昂るわ」
今回の目的は初級ダンジョン攻略である。東京地下鉄ダンジョンを攻略し、その上で帰ってくる。
その中で最も厳しい環境に飛び込もうという、蛮勇すれすれの勇気を、緊張と昂揚によってひねり出そうとする前衛の秋彦とジュディの二人。
意気込みが魔力のオーラとなって虹色と茶色のエネルギーが二人の体から噴き出している。
「……前衛組、士気が高いのはいいけどもう少し抑えて」
「二人とも、周り、周り」
茜と優太に言われて、我に返って見回すと、電車を待っている他の探索者達が離れた場所でひそひそと話をしている。
「見ろよアレ、血濡れの青鬼と爆破狂だ……」
「何でここにいるんだよ……あいつらの根城は埼玉のはずだろ……!」
「知らねーよ……! あの圧倒的なオーラ……俺らをシメに来たのか……?」
しまった、見事なまでに怯えられている。これは良くない。
「す、すまねぇ、自重する」
「ごめんなさい、うっかりしてたわ……」
「今僕ら相当強いはずだからね……メーツーによると、僕たちや日本全土の氾濫の時に動いた人たち、つまり先発組も、平均Lvは18らしいし」
「氾濫が起こった後に探索者になった、後発組の平均なんてまだLv10程度なんだってさ」
「……気をつけて」
後衛三人に叱られてしまった。大きい二人か背中を丸めてシュンとしてしまっている。
そうこうしていると電車がやってきた。ここからが勝負だ。
………………………………
前回に続いて初級ダンジョン駅で降りる。
ドレスアップリングにて着替えを済ませ、無人の駅で準備体操を各自始める。全員気合が入っているようで、前衛組は準備体操の後に武器の素振りをしたり、後衛組は発声練習や腹式呼吸に精神統一を行うなどして調子を整えている。
しばらくして各々納得いくように準備が出来たのか、少し距離を取っていた各自が誰からでもなく集まってきた。
「うし……準備はOK?」
秋彦が聞くと、全員が頷いた。
「よし……じゃあ行くぞ」
改めて駅の改札を出ると、出てすぐの所にエレベーターが設置されていた。
なんとなく予想がついたので中に入ると、階層を指定するボタンが付いている。一から三まである。一応三を押しても、やはり反応はなかった。
「このダンジョンでの階層を飛ばすのはエレベーターになるのか」
「初級以降ではクリアした階層を走り抜けなくても進めるようになっているのね!」
経験済みの男子は感心し、初体験の女子陣は驚いていた。
二のボタンを押すと、エレベーターはゆっくりと降りて行く。しばらくすると、チーンという音を立て、ドアが開く。
降りるとそこは二階層目の鉄でできた通路が広がっていた。やはりこれはショートカットの為の物らしい。
「今回は完全にここの攻略のために来たからな、まだ全然探索とかしてないけど、今回は無視。探索もいつでもできるし」
「ええ、じゃあ今回は基本的に魔物との戦闘は逃げ、避けられそうにない時はコンヒューズを使うと言う事ね?」
「そうだな、そうしよう」
………………………………
その後、順調にダンジョンの中を進み、複数オークがいたときはオークから逃げ、時にオークをコンヒューズで煙に巻き、一体だけなら倒し、先へ進んでいった。
「順調だな。今からこんなこと言うのもなんだけど」
「まあほぼ戦闘してないからねー、こんなもんでしょ」
「あ、見て!」
レベルが上がり、そして大した障害もなく進めていることに秋彦が感想を漏らす。答えた優太ものほほんとしていた物だが、ついに来たようだ。
鉄の大きな扉。近代人工物的なダンジョンから一変、ファンタジックな装飾が多数施されたその扉は、明らかにその部屋がただの部屋でないことを物語っている。
そう、ボス部屋だ。
「くぅー、第二階層のボス、とうとう来たかー!」
「ええ、ここの為に温存していた力、存分に披露するわよ!」
鼻息荒く、テンションを上げていく秋彦とジュディの前衛組。二人にとっては相手が何であれ、前に出て後ろの安全とボスへのダメージを確保しなければいけないのだ。気持ちで負けている場合じゃない。
だが、それとは対照的に緊張と恐怖を隠せないのが後衛組だ。
「うう……もう何度も経験しているとはいえやっぱり緊張するなぁ……」
「ああ……これがテレビなら撮れ高のために頑張ろうってなるのになぁ」
「……前に最高の二枚板がいる。今回も頑張ってもらう」
防御を装備でそれなりに強化したとはいえ、やはり前衛組とは経験や度胸が違う。いくら経験しようとも心配になる位には慎重だ。
「まあまあ、いまさら言ってもしょうがないって。ほら、行こうぜ」
秋彦とジュディでドアを開ける。今度の部屋も、通路がなく、いきなり大きな部屋に入るタイプのボス部屋だ。
全員中に入り、臨戦体勢に入る。しかしここでいつもとの違いに気づく。その違いというのは、いつもは部屋に入ると大抵ドアが閉まり、そして明かりがつくのだが、今回はドアが閉まらないし、電気もつかない。
そして、中に何もいない。普段なら、中で何かいるはずなのだが、それが誰もいないのだ。
「あ?」
「……え、どういう事?」
流石に敵影も、危険感知も引っかからない場所で臨戦態勢でい続ける訳にもいかず、全員構えを解く。
「え、アレ? ここボス部屋だよね?」
「……ダンジョンウォッチで見てみる」
「どれどれ? あ、やっぱりここボス部屋だね」
後衛組はここが本当にボス部屋なのかを確認するために、部屋の入り口付近でダンジョンウォッチのマップ機能で現在地を確認し始める。
「おいおい……どうなってんだよ。何かボスを出現するためのアイテムでもいるのか?」
「あ、待って秋彦。一人で行動するのは危ないわ」
前衛組は、何もない、広いだけに見える部屋を見るため歩きだした。
「えー、ひょっとしてフロア全体を探索しなおしってことか?」
「それはちょっと困るわね……」
ゆっくりと前衛と後衛の距離が離れ、前衛組が中央まで歩いた時。
ブオン! と、何か音がした。
「「ん?」」
「「「え?」」」
五人はすぐに音のした方を向いた。
前衛組は、後ろ。後衛組は前だ。
そこにあったのは薄緑色の光で出来た透明な壁だ。丁度前衛組と後衛組を分ける形で部屋に現れた。
「え、ちょ、何だこれ?!」
「あ、秋彦! お、おいてかないで!」
とっさに後ろに戻ろうとするが、光の壁は通ることを許さない。
拳で殴ろうが槍で突こうがはじかれる。体当たりしてもはじき返されてしまう。
慌てて駆け寄った後衛三人が魔法を撃っても効果はなかった。
「あ、あ、あ、開かない!!」
「は、え、嘘?!」
この状況、もはやこう形容するほかないだろう。
「……ぶ」
「「「「「分断されたーーーー?!!」」」」」
そして、その大声に呼応したかのように天井から何かが落ちてきた。光の壁で分かれた場所に一匹づつ。今まで何度も見てきたオークを更に大きくし、肌を浅黒くし、手に持つ棍棒はもはや巨木を引っこ抜いて持っているかのような重量感を感じる代物。
それは間違いなく、この階層のボスだった。
皆様からのご愛顧、誠に痛み入ります。
これからも評価、ブックマーク、感想など、皆様の応援を糧に頑張って書いていきます。
次の投稿は7月24日午前0時予定です。
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