第七話 成長の実感
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帰り道は案外楽だった。怪我も疲労もライゾンが治療した上に、モンスターと遭遇しても、既に何匹も潰しているアリや苔の塊しか居ないのだから楽勝だ。おまけに今は……魔法がある。
魔法を放つ時の言葉は日本語では無い。が、魔法を習得している秋彦には意味が聞き取れる。例えば炎の弱い範囲魔法【炎属性第一魔法 フレイム】は
『炎よ、我が命に従い、我が敵を焼け』
である。
杖を掲げ、声に出せば、たちまち敵の足元から炎が吹き出す。まだ威力は弱いらしいが、この辺りの敵なら十分だ。目の前にいた苔4体はあっという間に灰になった。
尚、魔法を放つ時には体から色の付いた湯気のようなものが出てくる。優太は橙色で、秋彦は玉虫色。要はオレンジ色ときらきらと様々に色が変わる色だ。
いよいよバトル漫画じみて来た。
焼けていく敵を前にして秋彦は改めて実感する。親友の新しい姿を。
これなら十分戦力になるし、もうただ逃げたり、やられっぱなしと言う事もなくなるだろう。
それが嬉しかった。家同士の仲が良く、幼馴染であったこともあり、学校でのいじめはたいてい秋彦が喧嘩したり、先生に言いつけたりしていたので。相手が人間でないにしても反撃する姿は今まで見たことがなかったのだ。
「いや〜、こいつは凄いね。もう俺の出番ないじゃん」
「そんな事ないよ、魔力切れたら僕は終わりだからね。数が多い時だけね」
そう笑ってはいるが優太は確かな自信に満ちている。表情から見て取れる。長い付き合いなのだ。これくらいは分かる。
そうして敵を倒しながら戻り、ついに戻りきった。
外のまだ少し肌寒い空気が、吹き抜ける風が、無事安全圏に戻れたことを教えてくれる。
思わず盛大なため息が出ると言う物だ。
「ふう~、やっと戻ってこれたな」
「ちょっとした冒険のつもりが、なんだか本格的になっちゃったね」
「よし、とりあえず帰ろう」
「うん!」
帰路につく二人の会話内容はやはりダンジョンの話だ。モンスターの事、魔法の事、ライゾンの事。
ひとしきり話したところで、気がつくと駅の近く。秋彦はここでどうしても確認しなければならない事を聞く。
「なあ親友」
「何?」
「……親友はさ。あのダンジョン、またいく気あるか?」
「え?」
「いやさ、曲がりなりにもあそこには危険もいっぱいだし、親友は俺と違って、そもそも殴った蹴ったさえ、してこなかったじゃない? その……気になってな」
「もちろん行くよ。あそこ、ダンジョンは僕にとっても大事な場所になったもん」
「え?」
「ほら、僕、嫌がらせとかよく受けてるじゃない? 勉強以外何やってもダメでさ。その勉強も、上はいるし……なんで生きてるのか、僕に価値なんて無いのか……とか、考えちゃう時もあるんだ」
そう語る優太の表情は暗く、沈痛だ。
「親友……」
「でもさ、ライゾンさんに、君は才人って言ってもらえたし、魔法、実際に使えた! こんな僕でも輝ける場所があるんだって、はじめて思えた! こんな僕が輝けるって場所だもん、あそこは。だから自分がどこまでやれるか知りたいし、やってみたいよ!」
「そうか。そうか!」
晴れ晴れした笑顔を見て、思わず秋彦も笑顔になる。
「秋彦、付き合ってくれる?」
「俺はライゾンにまだ聞きてえ事あるし、第一、親友がそこまで乗り気なのに、俺がいないんじゃ話にならねーだろーがよ」
「ありがとう!」
「うし、今日は早く飯食って寝て、朝からダンジョンだ! 明日から土日だしな」
「うん!」
………………………………
次の日早朝。土曜なので休日だ。二人は早速学校近くの土手ダンジョンに来ていた。
入ってすぐの広場、いわば最初の部屋とでもいうべきところで、秋彦たちは槍と杖、そして盾を広げていた。
「正直身に着ける、鎧とか兜みてーな防具は欲しかったが、俺そういうのは、基本このでかい図体のせいで特注だから買えねーのと、後、どこでどんなの買うんだって話だし、今回はなし。手に持つ防具も盾だけだな。親友使いなよ。俺は槍使うから」
「あれ、武器使うの? 殴らないの?」
「ああ、昨日で思い知った。武術やってても相手が人間でないとあんまり意味ない。型も何も通用しないし」
これに関しては本当に教訓になった。人間と動きが違いすぎてどうしても動きなれない動きをすることになる。ならば武器を使って距離を取りながら攻撃したほうがいい。もちろん、いずれ槍の道場を探して通う。本当に使ったこともない上に、動きなれていない槍では構えも何もないのでは動き方もいい加減になる。
せめて動き方くらいは知らなければ話にならない。
それと並行して対非人間、というか対モンスター用の格闘術を模索はする。そこら辺は自分で編み出すほかないだろうが。
槍を使う理由としては、昨日モンスターと戦った感想として、距離が詰まると正直怖いというのがあった。
格闘戦でも間合いというのは大事だ。距離を詰められると人間多少は慣れても焦りはするものだ。
長い武器を使っている方がまだ心に余裕が持てる。
それにせっかく拾った、というか貰ったものだ。使わせてもらおう。
「なるほどねー」
「武器とか道具はライゾンから貰った収納袋に入れられるから職質の心配もねえ。便利なもんだ。あいつ説明もなく消えやがったが、瓶入りのジュースみてーな何かも一応持ってきた。魔導書だけは家に置いて来たけどな。じゃあ、行くか」
「うん!」
意気揚々とダンジョン奥に向かう二人。まるでピクニックにでも来ているかのようなノリである。
そのノリに応えるかのようにダンジョン攻略は順調だ。
入ったばかりでは出てくるのは苔の塊みたいなモンスター。暫定的にマリモンと名付ける。見た目がマリモみたいだからだ。マリモ、モンスターでマリモンである。安直すぎる。
奥に行くと、昨日初めての戦闘となった蟻のモンスターが出てくる。やはりこちらの方がマリモンより強い。
だが今はモンスターが出てきても、自分たちが魔法を何発撃てるか分からないから魔法は使わないようにする。
なので攻撃手段は杖の打撃や槍の突きのみ。しかし、それでも互いに明らかにスピードとパワーが付いていた。鍛えていた秋彦はともかくとして、優太まで、まるでダンジョンの外で見る小さい蟻を潰すかのように、杖の一撃でダンジョンにいるデカい蟻を潰している。
秋彦はもっと早い。槍の一薙で蟻も苔も関係なく纏めて切っている。昨日秋彦が渾身で二撃、優太がとどめで一撃加えてようやく倒したあの蟻をである。しかも動きが早く、一撃目は外したのに、今は普通に捉えられている上に纏めて倒せている。
明らかにおかしい。互いに身体能力がすごく上がっている。
「……なんか、僕ら、すごくなってない?」
「ああ。だって、昨日1匹2匹で散々てこずったやつら相手に無双してる」
「どういう事だろう?」
「さあ? ライゾンの奴、説明なしでどっか行きやがったし。さっさと攻略してあいつから話聞かないといかん、あと、これの事も」
そういってバッグの中から中身入りの瓶を取りだす。
「これ何なんだ? ぶっちゃけ怪しすぎて中身改める気にもならんのだが」
「だよね。ライゾンさん、ここをゲームのダンジョンに例えてたし、素直に考えたら回復アイテムなんだろうけど。だって、ここに来るまでに、ずいぶん見つけたよね?」
そうなのだ。
このダンジョンに入って探索していく中で、同じような瓶入りの液体をずいぶん多く見つけた。いずれも広場のような大きめの部屋に。しかも床にそのまま置いてあるのだ。まるで拾ってくださいといわんばかりに。
他にも拾ったものと言えば見たこともない、どこの物かもわからないが、おそらく硬貨。
「つったってなぁ……確証もなく使えねーぞ」
「拾い食い、ダメ絶対。それに回復なら僕がちょっとできるようになったしね」
「え?」
「ほら、僕魔法使えるようになった時に炎と風と光を使えるようになったじゃない? 回復魔法って光属性に分類されるみたい」
「あ、なーるほどね」
「まあしばらくこの道具は置いておこう。次あったときにライゾンさんに聞こうね」
「ん、了解だ……って、親友、なんか来るぞ」
「羽音がするね。鳥?」
「いや、洞窟で羽音っつったらたぶん……」
秋彦が言い切る前に羽音の正体が飛んできた。
蝙蝠である。大きさとしては、ぱっと見た感じでは優太の半分、いや4分の1くらいだろうか? ぶっちゃけかなりデカい。そんなものが一直線に向かってくるのだ。
慌てることはなかったが、とっさに守ることしかできなかった。
槍の柄にかみつく蝙蝠、さすがにスピードの乗った状態での突撃噛付きは威力があった。まともに受けたら肩の肉を持っていかれていたかもしれない。が、耐えられないほどでもない。
突撃の威力を殺しきった後、秋彦は蝙蝠を守った体制のまま地面にたたきつけ、押さえつける!
負けじと蝙蝠も腹を爪でひっかこうとするので、倒れた体制をそのままに右手を放し、頭を殴りつける!
怯んだすきに体勢を変える。左手で押さえこんでいた槍を踏みつけ、槍の上に立つ形にした。もちろん蝙蝠は槍の下で柄を噛んだままだ。
「いまだ親友! 滅多打ちにしてやれ!」
「オッケー!」
あとは優太が暴れる蝙蝠の体に攻撃をガンガンと、杖での殴りを叩き込んでいく。しばらくすると蝙蝠は動かなくなった。
戦闘終了。秋彦たちの勝ちである。
「よし、お疲れさん。初見の敵だったが、そろそろただ突っ込んでくるだけの敵ならどうとでもなりそうだな」
「はぁ、はぁ、僕はちっともそんな風には思えなかったよ……」
「何、あと何回かやりあえばそのうち槍の一撃で仕留められるさ」
「本当に?」
「ああ、それにたぶんあれ、親友の魔法なら一撃だ。ビビるほどの物じゃねーさ」
「あ、そっか」
「そうさ。さて、あとどれだけあるかは知らねーが、敵のグレードも上がったことだし、これってどこまで……」
秋彦のしゃべる口が止まる。そして優太も秋彦が見たものを見つけた。
それは大きな扉。なんというか、ゲームとかでよくありそうな雰囲気だ。ここがボス部屋だと、自己主張しているかのようにさえ見える。
「……これで終わり?」
「わからないけど……」
二人は試しにちょっと開けて、隙間から部屋を覗いてみる。
中にはこれまた中世を舞台にしたゲームで見られるような大きな宝箱が、部屋の奥に置いてある。
たったそれだけだったが、道具は今まで無造作に置いてあるだけだった今までとは違う様子に二人は直感した。
「間違いないぞ親友。ここが終点だ」
「だ、だね……」
「よし、行こうぜ」
「あ、ちょっと待って」
「なんだ?」
と、聞いた途端、秋彦の腹が盛大な自己主張を行った。静かだと無駄に響く音を出したのだ。時計を見ると、そろそろ昼が近い。
「……いったん出て飯にすっか」
「そーしよー、僕もおなか減ったし、万全で行きたいしね」
「てか、ボスがいないとも限らんし、一応、もうちょっと蝙蝠殺しの練習すっか」
「わかった」
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