第六十六話 お宅訪問 楠桃子
累計PV73万突破しました!
これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
「うーん、なんというかモモ、お前も東京に住んでいるのか」
「自分で稼いでいる訳じゃないから偉そうには出来ないって。実家暮らしだから、まあそうは言っても、親自体は家にそんなにいないんだけどさ」
「でも、今はニャン太君が家にいるから、そんなに寂しい事もないでしょう?」
「まーね。でも、元からそんな寂しくはなかったけどね」
呑気な会話をしているが、電車で向かう先は六本木。芸能人の庭の一つともいえる場所だ。こんなところに住んでいると言う事は、やはり桃子の母親か父親も芸能人なのだろうか?
「六本木が生活の場とはね……こんなところに住めるってことはやっぱし親は相当有名なの?」
「お母さんが元アイドルの女優なんだよね。お父さんも有名なデザイナーだし」
「成程ね……今更ながらお前らってとんでもねーエリートだったんだな……」
「外国における大企業の社長令嬢と、今を時めく二世アイドルに、政治家の娘だもんな。でもあたし達相手にあんまビクビクしないでくれよ? 知らない時の状態で接してほしいんだから」
「そうね、あなたたちにそんな肩の凝るような対応されたら私たち悲しいわ」
「お、おおう……」
事も無げに言うが、それが普通の人間にとってどれほど難しい事か。
ただでさえ場違い感がひどいのにさらにひどくなったような気がする。だが、知名度だけなら今や秋彦も負けてはいないのだが。
それが証拠にひそひそと声が聞こえてくる。
「アレ、桜ちゃんじゃない?」
「ああ、隣にいる大男は南雲とかいう探索者……桜ちゃんが探索者として修業してアイドルとしてレベルアップを図ってるって噂は本当だったんだ……」
「でもチームって三人とも女子って話じゃなかった?」
「そうだよな……どういうことだ?」
本人たちは聞こえていないつもりなのだろうが、秋彦達には丸聞こえだ。男も女もあちこちでひそひそと似たようなことを話しあっている。
あまり変に勘繰られても困るのだが。なんだこれ、フラ〇デーか? 文〇砲なのか? ゴシップ雑誌的なものに乗せられる流れなのか?
「なぁモモ、普段ってああいうのはどういう風にあしらってんだ?」
「アイドルにだってプライベートくらいあるよ、ちょっと挨拶して終わり。付き合いすぎると抜け出せなくなるだけだって。隠し撮りとかだって、SNSに上げたら事務所から消させるなり訴えるなりするし」
「おおう、そういうのは芸能事務所に行くのか……」
秋彦が桃子に話を振ると、桃子もうんざりとしたように答える。
まあ、言われてみればそれもそうだ。そういったことを桃子が対応しているわけがない。
「ゴシップ雑誌とかに取り上げられるのはもう諦めたほうがいいよ。もう仲間なんだからね」
「さいですか。まあ今更だしなぁ」
別の雑誌でインタビューも受けた位だ。はっきり言ってもう諦めたまである。
「にしても……普段だったら、あたしだってばれたらもっと騒ぎになるんだけどね。やっぱり秋彦がいるのがデカいよ」
「俺?」
「秋彦は下手なSPとか、警備の人間より強くておっかないからね。人を近づけさせないようにするにはうってつけって事」
「ちょ、何それひでぇ」
まあ薄々そんな気はしていたが、そこまではっきりいう事は無いと思う。そんなにボロカスに言われると流石に傷つく。
「そんなことないわよ、秋彦は素敵じゃない」
「ハハハ、ありがとうジュディ……」
慰められてしまった。トホホ。
………………………………
電車を六本木で降り、歩くことしばらく。そうして辿り着いた桃子の家は、いわゆるタワマンと呼ばれるタワーマンション。ブルジョワジーな方々しか住めないハイソなお宅である。
マンションの入り口からマンションを見上げる秋彦。ちょっと間抜けな顔をしている。
「……すっげぇとこ住んでんな……」
「あたしの目標は親元を離れてもここのレベルで生活できるくらいアイドルとして、芸能人として大成することだよ。今はママとパパと住んでいるから今でもここで生活出来ているけどさ……」
「いいわね、そういう向上心って。桃子のそういうガツガツとレベルアップにいそしむ姿は素晴らしいと思うわ」
もう何度目かの呆気にとられる秋彦をよそに、桃子は嬉々として野望を語り、ジュディは嬉しそうに聞いている。
「そうだ、ちょっと部屋来なよ。紹介したい子がいるから」
「紹介したい子?」
「うん、ニャン太君さ」
「ああ、そういえば秋彦も優も見たことなかったのよね。顔位合わせたほうがいいと思うわ」
紹介したい子と言われて誰かと思ったら、入門ダンジョンでジュディ達にダンジョンの説明をしてくれた、喋る猫のニャン太君を紹介してくれるらしい。
秋彦達の説明はライゾンが行っているのは既にジュディ達には話してある。せっかくだ、普通はどういうのにチュートリアルを受けるのかを見るのも悪くないか。
秋彦は提案に乗り、少しだけお邪魔することにした。
セキュリティー万全のマンション玄関を通り、エレベーターに乗ってしばらく。降りた階層はなかなか高い場所だ。
そんなマンションの一室が桃子の自宅だ。玄関だけだが入ってみると、やはりどこも綺麗で高級感がある。
「おお……やっぱりすげぇ家だな」
「まあね、見晴らしもいいんだ。じゃあちょっと待ってて、ニャン太君連れてくるから」
「もういるよ主殿」
突如声をかけられた。思わず辺りを見回すと、玄関の奥から猫がゆっくりと歩いて来ていた。
秋彦は正直驚いた。生命力感知を取得していたのに全く気付かなかったのだから。
たとえ隠ぺいするスキルがあったとしても、それなりに力量がないと意味はない。結構強いのかもしれない。
「フフフ、主殿が男を連れてきたと思ったら……まさかまさかの君か。南雲秋彦君」
「……え、俺を知ってるのか?」
「ああ、知っているさ、知らないわけがない。今最も注目される探索者であり、我らに知恵を授けた偉大なる方々の一人たる、ライゾン様のお気に入りたる君を知らないなんてあり得ない。お会いできて光栄だよ」
えらく芝居がかった口調でやたらべらべら話す三毛猫だ。しかも声がやたらとダンディー。
「ライゾンの奴を知ってんのか?」
「我らは皆あの方々から知恵と魔力を授かっているからね。あの方々から指令や頼み事、あるいは知識が頭の中に送られてくるときがしばしばあるのさ。そしてその知識の中には、君とその親友、石動優太君の事もあったと言う事さ」
顔を洗いながらしゃべる猫。見た目だけなら可愛いのだが、喋る声のダンディーさが、見た目の可愛さを台無しにしている。
「うーん、それにしてもいい覇気、いい面構えをしている。それに、だいぶいい感じで育っているね、主殿たちは。これならもう初級ダンジョンくらいなら制覇は出来ると思うよ」
「ニャン太君、ほめてくれるのは嬉しいけど、私達はまだ装備とかも整え切れてないわ。それに連携とかもまだまだ取り切れていないし……」
「フフフ、ジュディ君は心配性だね。それを加味しても大丈夫さ、間違いない」
えらく自信たっぷりに言うニャン太君。何の根拠があってその様な事を言っているのだろうか。
「だって、初級ダンジョンはね、基本三階層しかないからね。すでに後半を過ぎ、レベルもしっかり上げられているなら、よほど馬鹿な事をしない限りは大丈夫だとも」
皆様からのご愛顧、誠に痛み入ります。
これからも評価、ブックマーク、感想など、皆様の応援を糧に頑張って書いていきます。
次の投稿は7月9日午前0時予定です。
よろしくお願いします!




