第六十四話 異名と抑止力
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「よう、残りの二人はまだか?」
「いるわよ秋彦。あら、ずいぶん飾り気のない恰好ね?」
「おおう……ある意味それっぽいって言うか、こんな綺麗所と会おうってのに気合いのかけらも感じないねぇ」
そういう二人はそれなりに着飾っているようだ。ジュディは青、桃子はピンクを基調としており、両方とも、ファッション雑誌からそのまま出てきたかのように似合っているし、何より綺麗だった。ぶっちゃけ無地のシャツとジーンズだけの秋彦という格好の秋彦が明らかに浮いている。
「ま、まあまあ、秋彦の場合は仕方ない一面もあるんだよ。この大きさだと全部専門店行かなきゃないレベルだし……」
優太のフォローで三人は納得したように頷いた。以前のファッションショーの時の採寸でも驚かれたものだ。まあこの図体では仕方ないのだが。なにせ4Lなんてサイズ、普通の洋服店に置いている物ではない。大体特注品か取り寄せの商品だ。
「成程ね。流通が回復したら、私たちは服を見てあげるわね。とりあえずもうちょっとおしゃれと言う物を教えてあげる」
「え」
「そうだな。金はあるんだろ? ならあたしらが見てやるよ」
「え」
「……秋彦はシンプルすぎる」
「え」
女子の包囲網ができてしまった。助けを求めるように優太を見るが、目を逸らされてしまった。助けてくれよ。
「と、ともかく全員揃ったんだし行こうぜ。ほ、ほらほら」
もはや逃げるように先へ進んでいく秋彦。
話題を変える事も、はっきりといらないという事も出来なかった。ヘタレである。
「あら、逃げたわね」
「逃げたな」
「……逃げた」
「あれは逃げたね。いつもの事ながら、話題とか変えるの下手だから……」
女子三人に加えて優太も一緒になって頷く。
「ねえ優、彼っていつもああなの?」
「洒落っ気が無くなったのは中学になって、体がボーンと大きくなってからだよ。小学校までは本当に普通の体形だったんだけどなぁ……」
「そうなのね。……ねぇ、その時の写真とかってある?」
「探せばあるんじゃないかな? まあまた今度ね。じゃあそろそろ行こう。本当に置いてかれちゃう」
優太は話をそこで打ち切り、遠くになりかかっている秋彦を追いかける。
「ああ、そ、そんな」
「残念だったね。あたしらもそろそろ行かねーと見失っちまうよ」
「……焦って距離を詰めると逆に印象がよくない」
がっかりするジュディだったが、すぐに気を取り直して追いかける。
………………………………
改めて水族館へ向かう5人。
道行く人々はギルドが配布している武器ケースを持った人々がやはり目に付く。当然探索者だろう。筋肉の付き具合や体の動かし方で多少は分かる。
だが、傍から見てわかる位ガラが悪い。
ぱっと見た感じではいかにも強そうなのだが、力量感知を持っている秋彦達からすれば、大して強くもないやつが、敵を攻撃できるというだけで力を誇示しているように見える。
そしてそんな探索者が我が物顔で歩いている姿は、傲慢さがにじみ出ている気さえする。
そして街の人々はそんな探索者と目を合わせようともしていない。関わり合いになりたくないのだろう。いくら自分達の身を守っている存在とはいえ、変に目をつけられて攻撃されるのはまっぴらごめんなのだろう。
年を重ねた大人程そういう傾向があるようだ。子供や若い世代は、むしろ剣と魔法の世界にあこがれている人や、一獲千金を狙っているのが多い。
そしてそんな奴らだからこそ、ダンジョンで力を手に入れてしまうと調子に乗りがちなのか。
「はぁ……ああいうのが俺らみたいな善良な探索者の株を下げるのか」
思わずため息が出ると言う物だ。これでは教育に悪いとダンジョンから子供を遠ざけようとする親が出るのも納得がいってしまう。ただでさえ数が少ない探索者の印象を悪くしないで欲しい物なのだが。
「嫌なもんだね……仮にも同じく地域の安全に貢献しているってのに、自分達が安全を乱しているような感じにさえなるよ」
「しょうがないもんさ、力を持って本性があらわになるなんてこと、よくある事だって」
うんざりといったように、あるいは呆れたように声を出す桃子。妙に含蓄があるような言い分だが、あえて触れないようにしよう。アイドルとしての活躍の裏で苦労しているんだろうが、ぶっちゃけそんな暗部の事を聞きたくない。
しかし気になるのは……そんなチンピラヤクザ紛いの探索者も、秋彦達を見るとぎょっとしたような顔をして、俯きそそくさと逃げていくのだ。
「……なんで俺らを見るとあの手の奴らみんな逃げてくんだ……?」
「そりゃ【関東の勇者達】の内の【血濡れの青鬼】と【爆破狂】からなる元アッキーダンジョン探検隊がいるからねー」
さらっとジュディが口走った言葉に男二人が固まった。
「……ちょっと待った、今なんて言った?」
「え、何それ……? 【血濡れの青鬼】と【爆破狂】……?」
「……二人の事」
茜はそういうと、スマホで関東の探索者の評価などをしている掲示板のまとめや、探索者のネット上での評判などをまとめたWikiを見せてきた。
【関東の勇者達】というのが、日本魔物大氾濫の終息に尽力した探索者の総称であることはいいだろう。だが、個人の事が書かれているところを見て愕然とした。
曰く、魔物を素手で殺し、生き血をすする。
曰く、魔物が居なければ人を爆破する。
曰く、槍を持っている時は手加減している状態である。
曰く、生き物を爆破することに生きがいを感じ、物を爆破することに興味がない。
曰く……
「「なんだこりゃ」」
秋彦と優太は目を剥いてしまった。
確かに秋彦は東京大戦においてはフィールドキメラゴブリンと素手で戦い、致命傷を負わせた。
確かに優太は東京大戦においては秋彦のストロング込みで魔物を焼き尽くしてきた。火柱を何本もあげ、何回も大爆発を起こした。
だが、Wikiに書いてある情報はほとんどがあり得ない程に事実と反していた。
というよりここに書いてあるのはもはや誹謗中傷の類だろう。いくらなんでもひどすぎる。
「え、ちょっと待って、なんでこんなひっどい言われ様な訳?」
「え、ええー……ちょっとこれはあんまりだよ……」
「噂が独り歩きしているって言うのもあるけれど、それ以上に二人ってやっぱり目立っているの。当然嫉妬や愉快犯的な動機で好き放題に事実無根の情報を流す輩もいるのよ」
ため息交じりに肩をすくめるジュディ。
「まあ二人とも大分目立ってるし、そこはしょうがないよ。有名税だと思って諦めな」
「さっきから重いよ、実感こもりすぎだろ……」
背中を叩いて笑う桃子に、秋彦がげんなりと答える。優太も頭を抱えている。
そうして再び水族館に向かう5人だった。
だが、二人は気づいているのだろうか。
そんな恐怖の象徴として思い切り目立つ二人がいるからこそ、関東の秩序が保たれていることに。
今のこの国は探索者という戦闘能力が金になる職業ができたことで治安がどこも危うくなっている。
探索者の人口が増える中、警察官でダンジョンに潜れる者はまだ少なく、もしも探索者が犯罪に走った場合対処できる人間は少ないと言われているからだ。
ならばそう言った存在の排除も探索者が行う事になる。そうなると頼られるのはやはり有名かつ強い探索者になるのだ。
そして名や実力が特に売れている者に指名が行くのは当然。
つまり、関東にいる探索者の中であくどい事をしている連中は常に秋彦達に潰されるリスクが付きまとう。
戦闘力2000にダメージを与えられていたとはいえ一人で突っ込み、致命傷を負わせたような化け物と対峙する事になる。
東京を走り回り、おびただしい数の魔物を爆破の火柱で灰にした化け物と対峙する事になる。
元々、この手の連中は、魔物を攻撃する勇気を出せたというだけで大して特別でもないのに、それで得た強さをもって更なる弱者を食い物にしようとする連中である。実力も無ければ志も低い、まさしく探索者の恥、【落伍者】とでもいうべき存在だ。
そんな奴らがこの化け物二人を相手取る勇気などある訳もなく、結局いきがることは出来ても実際には行動できなくなるのだ。
血濡れの青鬼、爆破狂などと呼ばれていても、それは結局の所彼らの一部分でしかない。二人は落伍者達に恐怖を与える事で東京の、ひいては関東の治安維持のための抑止力になっているのだ。
怯えられているのはごく一部であり、大半の人間はその存在に感謝しているのだ。
そんなことをしばらく考えていた茜だったが……
結局教えることもなく水族館へ向かうのだった。
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