第五十七話 桃坂桜
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
茜の家は思っていた以上に大きい。古風な屋敷っぽい見た目ではあるが、設備は新しくもある。流石にそこまでやるつもりはないらしい。
茜は広間に全員を通した後、使用人さんに茶を入れるよう指示をし、着替えてくるといって自分の部屋に行ってしまった。
広間には机と座布団が置いてあり、とりあえずそれぞれ座っては見た物の、秋彦も優太も、もじもじそわそわしっぱなしである。
使用人さんがお茶を入れてくれた時もそんな調子で、そのせいでトイレの場所を先に言われてしまうほどだった。
「なんつーかその……落ち着かねーな……」
「あらあら、もっとどっしり構えていなさいよ。こんなガタイのいい大男がオロオロして、みっともないわよ?」
「そうは言うがなジュディ。俺みたいな小市民にはこういう上級国民的な環境は酷だぜ……場違い感がパネェ」
「というより僕や秋彦と違って二人はだいぶ慣れてるみたいだけど、ひょっとしてジュディさんもモモちゃんも雲上人な訳?」
妙にどっしりと構えているジュディと桃子に対し、優太がざっくり切り込んでいく。二人とも明らかに場慣れしており、それがよくわからなかったからだ。
「私は政治家じゃないわ。でもそうね。お金持ちではあるわよ。お父様が会社の社長を務めているの」
「うそ……しゃ、社長令嬢か……」
「え、モモちゃんも……?」
優太がそういうと、桃子は盛大にため息をついて、いらだったかのように声を出した。
「あーもう、とうとう最後まで気づかないか……プライドが傷つくよ」
「え?」
「ちょっと待ってて……」
そういうと桃子は何度か発声練習をし、大きく咳払いをした。
「このフレーズは聞き覚えあるでしょ。いえーい! ハロハロー!」
「……え?」
「うん?」
桃子の声が、突然かわいらしくなり、挙動からも普段の男っぽさが無くなった。
だが、聞き覚えがあるだろうと自信満々に言い放ったフレーズも、二人は聞き覚えがなかった。
「……え、わからない……?」
「えー、すまねぇ。ギブだ」
「う、うん……ごめんね」
「嘘だぁ! このアイドル戦国時代期待の新星の持ちフレーズ知らないって二人して現代に生きてる人間なの?! 毎週土曜日夜七時の10代をメインターゲットにした番組【ティーンの本音!】の挨拶だよ?!」
人は驚愕と困惑が入り混じった時にはこんな顔をするのか、と思うほどに見たことのない表情を桃子はしていた。
あまりの表情に申し訳なくなってくるが……
「お、俺テレビ見るくらいなら動画投稿サイトで動画漁ってるし……」
「僕は、テレビは国営放送ばっかりしか見れないから……」
「し、信じられない……オホン! じゃあ自己紹介するわね! あたしの名前は桃坂 桜。今を時めく人気のアイドルユニット【ビューティフルドリーマー】のリーダーにして、毎週土曜日夜七時の10代をメインターゲットにした番組【ティーンの本音!】の司会をしているの!」
と、まさに営業スマイルといった笑顔と、思い切り作りこまれた可愛らしい仕草で二人にあいさつした。
「え? 桃坂桜って、エミーの奴が追っかけてたアイドルじゃね? よく知らんけど」
「え、そうだったっけ? でも前は楠桃子って」
「桃坂桜は芸名で、楠桃子が本名っていうだけよ……世の中広いわね……本当に知らないんだ……傷ついちゃうわ」
「な、なんかゴメンね?」
可愛らしい声でいかにもしおらしく落ち込んでいるが、普段の桃子を見てるとどことなく演技しているのがわかってしまう。
「という訳で! 改めてよろしく! あんまり言いふらさないでよ? 一応プライベートと仕事は分けてるんだから」
「あ、元に戻った」
「お仕事モードって疲れるんだよね、やっぱりさ。これが桃坂桜の素の姿って奴ね」
「お、おおう……」
正直あまりの豹変っぷりにドン引きである。
「ていうかさ、アイドルやってるっていうんなら、探索者なんてやってて大丈夫なのか?」
「平気だよ。っていうかこれも仕事の一部なんだよね」
「え?」
「新時代のアイドル、歌って踊って戦って、魔法が使えるアイドル、人々を魔物の脅威から解放すべく戦うアイドルは、遅かれ早かれ来る! その先鋒として、探索者としての実績を積むの」
「……そんな時代来るの?」
「来る。というかすでに求められ始めている」
元々、アイドル戦国時代として、現代では様々な方向性のアイドルユニットや、大人数を擁するアイドルグループ等、アイドルファンの需要に求められるように、アイドル達でひしめき合っている。当然常に新しく、そしてアイドルを応援するファンに求められるように努力が必要になる。
そしてそんな彼女たちに時代が今求められる物とはズバリ、「ダンジョンを制する力を持つアイドル」なのである。
今の日本はダンジョンという突然現れた非日常的にして対応のできない未知の存在におびえ、流通難も相まって経済がかなり鈍化している状態と言える。
つまり、現代日本人にとってダンジョンは、突然現れて自分達の今までの生活を奪った物なのだ。もちろんこの見方は見方の一つでしかないのだが、そう思う人々がいるのも事実なのだ。ダンジョン対人類という構図であるといってもいいかもしれない。
その中にあって自分たちの敵であるダンジョンに果敢に立ち向かい、魔法を扱い、魔物に勝利し、成果を持ちかえる見目麗しい少女たち。それが歌って踊ってのファンサービスをする。受けない訳がない。と言うことらしい。
「そんなわけで、現在あたしはダンジョン系探索者アイドルとしていち早く名乗りを上げるべく、修業と歌とダンスのレッスンに明け暮れているのさ。ちなみにこれはプロデューサーからの指示でもあるんだ。他のビューティフルドリーマーの面々も今は探索者の資格取得を済ませて、入門ダンジョンでレベル上げ中のはず」
「……俺にはよくわからねーが、なんかトンでもねーことになってんなアイドル業界」
そもそも桃子がジュディ達と一緒にダンジョンに潜っているのも、来るべき時代の幕開けに備え、有名になるための実績作りと売名行為の一環なのだという。
何とも貪欲な話だ。恐れ入る。
などと話をしていると、茜が広間に入ってきた。和服に着替えているその姿は、おかっぱ頭と相まって日本人形のように見える。
「……お待たせ」
「おお、おかえり……って、着物?!」
「うわぁ、似合ってるねぇ」
「……ありがとう」
「よし、じゃあ改めてオーク肉の試食会やるか」
「……ちょっと待って、もう少しだけ」
改めて本来の目的であるオーク肉の試食会をしようとしたのだが、茜に待ったをかけられてしまった。
「え、どうした?」
「……両親がそろそろ来る」
しまった、先にそれがあったか。そう言われては仕方ない。5人はもうしばらく待つ。
それから10分後、襖がノックされる。
「私だ。入るぞ」
「お邪魔させてもらうわね」
入ってきたのは書生を思わせる和服を着た口ひげを生やした初老の男性と、茜と同じく着物を着た綺麗な女性だ。どちらも年齢は髪の色と僅かばかりの皴にしか出ておらず、背筋もピンと張っていて、とてもエネルギッシュな印象を抱く。
「そちらの男子諸君とは初めてだね。私は舞薗 巌、茜の父親だ」
「私は舞薗 陽子、茜の母です」
皆様からのご愛顧、誠に痛み入ります。
これからも評価、ブックマーク、感想など、皆様の応援を糧に頑張って書いていきます。
次の投稿は6月14日午前0時予定です。
いつもの3日間隔からは外れますが、この日は個人的に良い日なので投稿します。
その次は6月15日午前0時予定と、通常通りとなります。
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