第五十六話 茜の実家
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「茜の家? え、今から行っても大丈夫なの?」
「……むしろ今の方が都合がいい。両親が家にいるはず」
茜からの突然の提案に桃子が少し驚く。友人であっても家に招待された事は無いらしい。まあ流石に親元を離れて一人で暮らしている訳では無いようだが。
「でも家に親御さんいるなら逆に嫌な思いするんじゃ……?」
「……むしろ探索者のメンバーを知りたがっている。いい機会だから会わせたい」
「ほー、なら安心だな。まあ茜の親だし、探索者への理解はあるか」
うんうんと頷く秋彦。
まだまだ学生の身分である彼らにとって親の了承を得ているというのは割と重要である。秋彦はSNSで拡散されたときに当然電話で話が来たが、最終的には「もうやれるだけやってみろ」と言う事になった。優太は「引っ込み思案なお前がそこまでやれるようになったんだから」とむしろ両親の方が嬉々として送り出したような形になっている。
しかし一般的には、特に小さい子供を持つ親世代だと、今のご時世に切った張ったに順応する奴らなんて頭おかしい、等と言い出す人達もそれなりにいるのだ。
誰がお前らの安全確保してると思っているのだという話になるのだが。
しかし気持ちもわからなくもない。
なぜなら探索者に興味を示すのは大体幼い子供の世代なのだ。魔法や魔法道具、そしてレベル。子供がいかにも好きそうな創作の話の代物が目の前にあるのだ。ある意味飛びついて当然だ。
探索者免許は16歳にならないと発行されず、武器の携帯も免許証がないと即逮捕だ。しかしバットやバールのような、武器以外に使用用途があるようなものを持って、免許を持てない子供が遊び半分や、魔法の習得、あるいはレベルを上げるべくダンジョンにこそこそ入っていることがあるのも事実だ。
免許証は探索者がダンジョンで生計を立てる際に補助や保証をしてくれるが、これがなければダンジョンに入れないという事は無い。一応法律的には免許証の無い物はダンジョンに入ることは許されていないのだが、見つからなければどうという事は無いという精神で入ってレベルを上げようとする子供は後を絶たない。怪我をしようとポーションを飲めば傷は残らず、わからない。服が破けたり、死なないように注意すればいいのだから。
とはいえ、そんな子供が命のやり取りをしているという自覚が薄いのも事実。そしてそれを心配してなのか、あるいは教育に悪いと思ってなのか、こういった子供のいる親世代の人々がダンジョンを恐ろしい物とし、ダンジョンに入らないようにあの手この手で子供のダンジョン入り、ひいては探索者になることを阻止する人たちが現れるのだ。
当然その牙は現役で探索者をやっている人にも剥かれる。
しかし、真正面から喧嘩や言い合いをしても勝てない。喧嘩は当然だが、言い合いであっても「誰がお前らの安全確保してると思っている。そう言うならば、お前の家の周辺のダンジョンは放置する」で終わりなのだ。今の情勢では自衛隊だけでなく探索者の手も必要なのは明白なのだ。この一言はそれを突きつける。
なので、探索者の悪口をネットで発言したり、バラエティ番組で悪辣な取り上げ方をしたり、また、政治批判のネタにする程度だが、あくまで今はだ。そのうちどうなるかはわからない。
探索者としては、探索者人口に関わるしうっとおしいので正直辞めてもらいたいのだが。探索者が反撃しようものならそれこそ鬼の首を取ったかのごとく騒ぐだろうし。
割とうんざりするので頑張ってネットの中でもその手の情報をシャットアウトしているが、まだまだ言われたい放題な部分はある。
「……大丈夫。そういう輩と戦うのが両親の仕事」
「へ? どう言う事?」
「まあ私とモモは賛成するわ。茜の家はまあまあ広いわよ」
「あれをまあまあ広いというのか……あたしとジュディは行ったことあるから知ってるけど、茜ん家は広いよ?」
「ふーん……まあいいや。行ってみっか」
ノリで押し切られたような気もするが、ジュディと桃子の賛成があるなら家は本当に広いのだろう。5人は茜の家に行くことにした。
…………………………………
「……あのー、茜さん?」
「……何?」
「……ここは一体どこでしょうか?」
「……私の実家」
「HAHAHA、御冗談を。武家屋敷の間違いだろこれ」
「……父の趣味」
「しかもこんな一等地にこんなでかでかとしたものを立てるとか正気じゃねーな。で、早く行こうぜ、どこなんだよ茜の実家は」
「……ここ」
「……マジなのか?」
「……マジ」
秋彦との問答に淡々と事実を述べる茜。
白目をむきながら秋彦と優太は、このでかい屋敷を見あげる。正直想像の斜め上を行かれた。軽い気持ちで家にお邪魔するとした5人、の内二人。内心ガクブルである。
嘘でないことは薄々わかっていた。ただそれでも言わずにはいられなかったのだ。
家に案内すると言われて電話一本、しばらくして現れたのは運転手もいる黒塗りの高級車。しかも2台も。おまけに専属の運転手だという。
そんなのが現れ、前衛と後衛でメンバーを分けて東京を進んでいくのだ。ビビりっぱなしである。
そして連れて行かれたのがこの立派な武家屋敷風の一軒家である。現実を受け入れられなくて当然である。
「ねぇ、茜ちゃん。じゃない茜さん」
「……二人ともいつも通りに呼んで」
「じゃあ茜ちゃん……お父さんたちはどういう人たちなの? なんか怖いよ……ここだけ見たらやくざ的な物を想像しちゃうよ……」
「……実家は政治家」
「政治家さん……あれ? もしかしてお父さんって巌って名前?!」
「……優はニュースをよく見てるのね」
「ああ、やっと納得できた。それじゃあ当然だ。むしろこうでなきゃおかしい」
優太はようやく納得という感じで、顔を青くしながらも頷いた。その様子に茜は好印象を抱いたようだ。よくわからないのは秋彦だけの様で、納得した優太に聞く。
「……どういうこった?」
「茜ちゃんのお父さんはね、与党の有力議員の一人で、かなり長く政治の世界にいる一族の人なんだよね。最近は迷宮探索法を推し進め、成立させているから、今ネット上でも有名な政治家さんなんだ。ネットとかで見たことない?」
「要するに政治世界の超エリート一族なのか……ネットの情報もな……最近ダンジョンとか、ネットだとその手の情報はヘイト的なもんが多くてシャットアウトしてっから……」
「……秋彦、テレビくらい見たほうがいい。いやなニュースばかりでも情報を遮断するのは良くない」
茜は、秋彦の反応にはご立腹の様だ。ぶすっとしてしまっている。
「巌議員は以前からダンジョンに潜ったことがある人以上にダンジョンに詳しいところがあったけど、茜ちゃんから話を聞いていたんだね」
「……優は国会中継を見ているの?」
「父ちゃんがこの手の話大好きなの。話合わせられないとグチグチ言ってくるときがあってさ……」
「……素晴らしい。政治と生活は切っても切れないから、国会で何が起こっているかを把握しているのは大事」
いつになく饒舌な茜。こういう反応も政治家の娘だからなのだろうか?
「……それはそうと二人とももういい?」
「……おう、そろそろ覚悟決めねーとな」
「あの舞薗巌議員のお宅か……よし、行けるよ」
「……ようこそ4人とも、私の家に」
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