第四十八話 チームで戦うと言う事
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到着した【地下初級迷宮駅】は、当然の如く誰も人がいない。駅員もおらず、無人駅といった様子だ。駅の構内はレンガ造りになっており、トイレや改札も、最近できたかのように清潔な雰囲気を醸し出している。
女子陣は着替えをするためにトイレに向かい、男子陣は駅から出ない範囲で探索をしている。
まず第一に驚いたのは、ここには自動販売機がある。販売機にはジュース類といった水や、バー状の食べ物も置いてあった。トイレもあるし、電車を待つ待合室もあることから、最低限ここに戻ってくれば、食事に用便、安全な休憩も出来るという訳だ。仕切り直しにはうってつけと言えるだろう。
そして次に驚いたのは、ここには無人の解体場がある。もちろん貸し出しの解体道具は無いので、そこは自分で持ち込む必要があるようだが、施設があるというだけで大違いだ。
当然初級なら全部が全部こういった場があるという訳では無いだろう。現に男子陣が普段行っているダンジョンにはこう言ったものはないし。これも人工物の中にあるダンジョンの成せる事なのだろうか?
などと考えながらあちこちを見回っていると、武装を完了したジュディ達がこちらを見つけて声をかけてきた。
「お待たせ、こっちは大丈夫よ」
「って、二人とも着替えてないじゃん。二人は着替えないのか?」
「……行かないの?」
どうやら三人はドレスアップリングを持っていないどころか存在も知らないらしい。よし、ここはひとつ見せておこう。
「ああ、俺らは一瞬だからな」
「見ててね?」
「「チェンジ、ドレスアップ」」
いつも通りの速攻の衣装替えを行う。
当然女子陣は驚いていた。桃子は特に口をあんぐりと開けていた。
「ほれ、ざっとこんなもんだ」
「……今のどうやった?!」
我に返った桃子が詰め寄ってきた。何か琴線に触れたのだろうか? 今までにないほどに食いついている。
「おいモモ落ち着けって。親友?」
「うん、という訳で、はいこれ」
そういって優太が女子陣にドレスアップリングを渡す。
「そいつをはめて今の装備を念じると指輪に装備が吸い込まれる。んで、チェンジ、ドレスアップって合言葉いうと今着ている服が指輪にしまわれて、着替えたい装備を瞬時に着られるのさ」
「とりあえずトイレで試してくるといいよ。ここでやっちゃだめだよ? 今やったら鎧とかが吸われて下着姿になっちゃうからね」
「俺らも初めはよくわかんなくてパンツとシャツ一枚になっちまったからな……」
使い方の説明をして、3人も使わせる。毎度毎度着替えに時間を取られるのは困るし、どこにでも着替える場所がある訳では無い。それにこれからは異性がメンバーにいるのだ。これがあればどこでもあっという間に着替えられる。着替えを覗かれる心配もない。
「あら嬉しい、ありがとう! 装備ってかさばるのよね。着替えるのも楽じゃないし……」
「しかもこれなら着替えを入れるために買ったマジックバッグを好きに使えるって事じゃん!」
「……嬉しい」
………………………………
装備の登録を終え、全員武装をして集合する。しかし改めて見てみると、なんというかやはり見た目が凄まじい。
前衛二人は中華風の武将の恰好をした大男に、全身を鎧兜でがっちり固めた長身の人物。胸に膨らみのある鎧でなければ、中身が女性である判別もつかないであろう程に隙が無い。顔ですら兜で見えないのだ。
そして後衛三人の一人はまだ現代風の服装寄りの装備をしているが、一人はあからさまにファンタジーの魔術師風の姿だし、もう一人は弓道部員が部活の恰好のまま出てきたような感じになってしまっている。なのでここでは桃子が逆に浮いてしまっている。
「……仮装パーティーにこのまますぐに行けそうだな俺たち」
「あら、ハロウィンにはまだ早いわよ?」
「ていうか僕はヤダよ、こんな格好でダンジョンの外行くなんて」
「あたしはもっと派手な服もよく着てるしな。地味な方だよむしろ」
「……私も」
ワイワイと改札を出て、ダンジョンに足を踏み入れる。
ざわざわと空気に混じる魔力を感じる。やはり初級の空気は入門とは比べ物にならない。
ちらりと女性陣を見ると、空気の魔力が感じさせる圧迫感、または威圧感にかなり飲まれ気味になっている。
「大丈夫だ。いざとなったら逃げ帰る事も出来るから」
「……ええ、もう覚悟を決めたわ。行くわよ」
騒がしくダンジョンの中に入ったが、流石にダンジョンの中に入れば軽口も収まる。
屋内のダンジョンだけあって、日の光は入らないが、通路には松明が等間隔でおいてあり、光源には困らない。というかレンガ造りのダンジョンにあってかなり雰囲気が出ている。正直テンションが上がる。
「いかにもファンタジーな迷宮って感じだな」
「秋彦、しっかり警戒しててね。前衛で危機感知一番レベル高いの秋彦なんだから」
「はいよ、三人も、後衛の警戒手を抜くなよ?」
「勿論だよ」
現在危険感知という罠やふいうちを気づけるメンバーは男子陣のみなので、前衛と後衛にそれぞれ一人ずついたのは都合がよかった。後衛の危険感知はLv1なので不安と言えば不安なのだが。
「私も危険感知は持ってはいるけど、やはり前衛にいる以上もっと高いレベルの危険感知取得しなくちゃだめね……」
ジュディがぽつりとつぶやく。
ジュディ達女性陣は罠やふいうちについてそこまで気にしていなかった。というより今までは魔物が弱かったので、危険感知も大して優先していなかったのだ。弱いの相手ならLv1や2でも十分機能していたからだ。
しかしここにきて、レベルの高いダンジョンに危険感知のレベルが低いままに入る事の恐ろしさを思い知っているようだ。早急にレベル上げ、あるいは使い続けてレベルを上げなければならない。
そうしてしばらく歩いていると、秋彦が奥の曲がり角で何かが動く気配を感じ取った。今まで感じたことのない感覚にぞくりとする。
「……なんだ今の。よくわからんけど、奥に見える曲がり角の所、なんかいるぞ」
「……何かわかる?」
「おお、茜か。いや、そこまでは分からん。どうするよ?」
「……そうだね……もうちょっと近づいてから戦闘態勢を整えよう」
5人全員が頷く。
今回は強化魔法無し。流石に初級の1階層モンスターに使っていられない。すっと近づいて、それぞれが武器を抜く。
しばらくして角から現れたのは、小学生くらいの背丈をした、人型の魔物だ。ゴブリンに似ているが、ゴブリンは緑の肌が特徴的だが、こっちは茶色だ。それとゴブリンは腰にぼろ布一枚しか防具はつけていなかったはずだが、こっちは三角帽子にちょっと小汚いが布の服にズボン、果てには靴まで履いているという、ある程度ちゃんとした見た目をしている。おまけに持っている武器も木の棍棒から鉄の剣に変わっており、どうやら自分たちの知っているゴブリンでは無いようだ。
どうやら向こうはこちらに気づいていないらしい。
「よっしゃ行くぞ!」
「ちょっと待って」
「グエ!? な、なんだよどうした?」
向こうが気付いていない様子を見て、意気揚々と敵に突っ込もうとした秋彦をジュディが首根っこをつかんで止める。
「しっかりして、今までとはもう違うのよ。今まではそうせざるを得なかったのかもしれないけど、今は私もいるわ」
「……あ、そうか。盾役がいるから俺は初手に突っ込まなくていいんだ」
「ん? どう言う事?」
「モモちゃん、今までは僕が撃たれ弱かったから秋彦が敵を発見し次第距離を詰めざるを得なかったんだよ」
今までは二人しか秋彦達のチームはいなかったので、秋彦がそうしないと優太に狙いが定まったときに集中砲火を受けて大変なことになる可能性があったのだ。なので、ボス戦であっても最低限の強化をしたら距離を詰めざるを得なかったのだ。
だが今は前に出て、チームを守る盾役のジュディがいる。
それはつまり、秋彦が速攻を仕掛ける必要性が減ると言う事、引いては秋彦には別の仕事ができるようになったと言う事だ。
ついこの間、それをやらないままに敵に突っ込んだ結果、いらぬダメージを受けてから、その重要性を思い知った事。
そしてそれを行った上でどう動くべきか考える時間を得たことにもなる。
「……つまり秋彦が初手でアナライズをして、その情報を元に動く。ジュディはその間の足止め」
「茜ちゃん、正解!」
「成程なぁ。なんか二人も順風満帆に見えて結構綱渡りやってたんだね」
「モモの言う通りなんだが、やっぱしゃーない一面もあったんだよ。ま、過ぎたこった。じゃあ行くぜ?」
全員が頷き、作戦決行。
5人のうち秋彦とジュディは前に出る。ゴブリンは狼狽えることもなく鉄の剣を振り回す。が、ジュディがやすやすと盾で受け止め、剣で反撃をする。
しかしそれは向こうも喰らわない。武術を収めていないなりに喧嘩慣れをしているのか、しっかり攻防を行えている。
「『力よ!』アナライズ!」
そうやってジュディが時間を稼いでいる間に、秋彦がアナライズを詠唱し、敵のデータを出す。
名前:ハイゴブリン
レベル13
肉体力:120
魔法力:50
戦闘力:500
有利属性:炎、光
不利属性:水、闇
使用魔法属性:闇Lv2
スキル
剣術Lv1:(【パッシブ】剣術を習熟し、剣を振れるようになる)
仲間呼び:(【モンスタースキル】【アクティブ】同種の自分以下の戦闘力の魔物を呼び、戦いに加勢させる)
攻撃指令:(【アクティブ】自分の配下、または仲間に攻撃の指示を出すことで、仲間の連携を円滑化させ、仲間全体の攻撃力を上げる。自分は指示に集中しないといけない為、攻撃が出来なくなる)
入門ダンジョンにもいたゴブリンが成長し、強化された姿。
ハイゴブリンはゴブリンの小隊長になるゴブリンであり、指揮者としても、一匹の魔物としても柔軟性がある。
配下のゴブリンを呼ぶことができ、配下を攻撃指令で突撃させられると、同じゴブリンとは思えない位に強くなるので仲間を呼ばれる前に倒した方がいい。
「げげ! 仲間呼ぶのかよ?!」
「しかも魔法持ち、とはいえ肉体力も魔法力も大したことないよ!」
「うし! じゃあ突っ込む!」
ならばやる事は、仲間を呼ばれる前に倒すのみである。
それさえわかれば何でもない相手だ。ハイゴブリンは秋彦の槍の一撃で瞬殺された。
………………………………
「これが仲間と戦うってことか……」
「……今はあまり実感がないと思う。でもこれが強敵と戦う事で生きてくる場面もあると思う」
茜の言葉に男子陣は頷く。
というか敵の正体がわからないうちに突っ込むのは敵がその攻撃に対し耐性を持っていると一方的に打ち負けることはエレメントを相手取ったときに思い知った。
「こりゃいいや。ある程度向こうのステとかが割れてりゃ無茶が無茶じゃなくなるし、特殊なスキルもちでも割れてりゃ覚悟も出来るし」
「本当ね……アナライズカメラも安くないから、ボスにしかできないことが初見の雑魚相手でも出来るという事のすばらしさを知ったわ。初級だと雑魚相手でも侮れない」
今回の戦法は、男子陣は手数の足りなさ、女子陣はリソースの割に合わないことから出来なかった戦法だ。お互いがお互いの利益になっている。
仲間として手を組んだことに感謝し、再び階層を5人は進んで行く。
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