第五話 ライゾン
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「どうよ、落ち着いた?」
「うん……ゴメンね」
「あー、そりゃいいよ。普段もあの勢いで相手に突っ込めればいいんだがな」
「だってあれは秋彦が思いっきり削ってくれたし……なんかやらなきゃって思ったら頭真っ白になっちゃって……」
「とりあえず足痛いわ。あのクソ蟻思いっきり噛みやがって……とりあえず適当なところで休んで帰ろう、またあれが出てこねぇとも限らんし」
「そうだね、歩ける?」
「とりあえずな……行くか」
そうして二人は再び歩き出した。
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割と深くまで来ていたので帰る時間も割と長くなる。いったん休憩をとって最速で帰らねば。あんな敵がいる以上、装備も覚悟もないままにここにいるのは危険だ。まして二人は今手負い。この変な洞窟で負ったダメージではないが、ダメージがある状態であんな敵が延々と出てくる環境は御免だ。まずは休憩せねば。
休憩出来そうな場所を探して歩く。途中またあの大きな蟻や、新たに緑の苔か何かで出来たボールみたいなものが体当たりをして来たので倒しつつも帰る道を行く。
疲労や傷がたまり始めたが、うかつに休憩してると敵が出てくるかもしれない。疲労をおして先に進む。
道を進み、角を曲がり。それをしばらく繰り返していたら、それは不意に現れた。
土で出来た壁の中には全くふさわしくない木製の扉。今まで通路の先に部屋があったことはあっても扉があったことはない。なにか罠があるんじゃないか、とは思う物のこうも他と違っていては逆に怪しさが出てこない。何より二人は疲れていた。いったん休憩するなら隠れてやり過ごせる場である方がいいと思ったのだ。
「ここなら休めっかな?」
「わかんないけど、どこかで休まなきゃいけないんだし、ちょっとここで休憩しよう」
「んだな、じゃあ開けるぞ」
そうして二人はドアを開けた。そこにあったのは……
「んん? お客さんかな?」
人だった。
人だ。紛れもなく、人間。顔は白いフードを被っているからよくわからないが、杖を持っている手や口元を見る限り褐色。自己主張の激しい胸や高い声から察するに女性だ。
「君たち、その扉を開けっぱなしにしてはいけないよ。魔物が入ってきてしまうからね。入っておいで」
「え? あ、はい」
「お、お邪魔します」
「うむ、いらっしゃい」
言われるがままに扉の中に入り、扉を閉める。
「いやはや、だいぶ怪我をしているね。しかし成長もそこそこしている。結構な事じゃないか。まさかダンジョンが生まれて数秒で挑戦者が現れるとは、嬉しい限りだ。まずは回復をしてあげよう」
「え、ちょっと、何を言って……?!」
一方的にまくし立てた後に女性が杖を掲げると、秋彦と優太の傷や、けがをした部分が白く光り、光が収まり、直視できるようになると、怪我がなくなっていた。学校で殴られた傷も、いじめで受けた火傷も含めてである。疲労感もすっかり無くなっていた。
傷の治り具合を確かめて絶句していると、目の前の女性はくすくすと笑う。
「君たち面白いねぇ。ここで受けた傷よりも外で受けた傷の方が多いじゃないか。そんな状態でこのダンジョンに入り込もうとは」
「なんか、入りたいって思っちゃったんですよ」
「……なるほど。君らはかなりの適性があるみたいだね。このダンジョン、魔力に対して、ね」
「……お姉さん、あなたはいったい何者なんですか? なぜこんなことができるんです?」
「聞きたいことはそれだけじゃねーぞ、ここは何なんだ? んでもって……」
「まあ待ちたまえ。答えられることは答えよう。しかし答えられないこともある。物事には順序と言う物がある。時間はたっぷりある。きちんと答えようじゃないか」
なんだか調子狂うな、と思いつつもとりあえず質問することをまとめ、質問をぶつけることにした。
「まずここは何なんだ? 俺らが家に帰る途中に突然穴が現れたんだが?」
「ここはダンジョンさ。迷宮。ゲームは好きかい? RPGによくある物語の重要なアイテムとかがおいてあったり、お宝とかがおいてある代わりに、敵役のモンスターがいたりするアレさ。入るたびに形が変わるものもあるが、これは形は変わらない。いわゆるハクスラタイプだね」
女性はあっけらかんと答える。
頭痛がしてきたが一旦飲み込む。散々非現実的なものを見ておいて真っ向から否定はできなかった。
「……そ、それが本当だとして、それが何でこんなところに?」
「おっと、それは答えられないなぁ。知りたければ、まずはこのダンジョンを制覇することだ。さっきも言ったろう? 物事には順序がある。半端な覚悟、実力でこの事を知るのは危険だ。このダンジョン程度では最奥に来ても教えられないが、教えることができるかを確かめることはできる。自分の実力を示してみ給え」
女性は口を尖らせてあっさり返答を拒否する。
が、今のやり取りでそれ以上に聞き逃せない言葉が出てきた。
「え、ちょっと待て。てことはここのほかにもダンジョンってあったりするのか!?」
「もちろんあるとも。それも、世界中にね。今日、この日をもってそれらは産声を上げたんだ。喜び給え。君らは驚いたことに世界中にあるうちの一つとはいえ一番最初のダンジョン挑戦者になったのだよ!」
頭痛が本格的になってきたような気がする。
「ああ、やべぇ。なんか俺も実は電車乗ってる間に寝てて、今夢の中に居る気がしてきた……」
「夢の中なら敵と戦い、ダンジョンを制覇する、出来るというならそれでいいよ? 君たち人類には、強くなってもらわないといけないからね」
「あ? そりゃどういう事だ?」
「おおっと、それはそれは答えられないなぁ。知りたければ、まずは」
「力を示せ……か?」
「その通り! わかっているじゃないか」
「……あっそ」
「じゃあすみません。今度は僕から良いでしょうか?」
「いいとも、どんと来たまえ」
「お姉さん、お名前は? いつまでも名前がないというのは……」
「私の名前かい? 私自身に興味があるのか。私はね、ライゾンという名前だ。覚えといてくれると嬉しいな」
「じゃあライゾンさん。貴女ががさっき使っていたのは何なんですか?」
「何って……そんなの決まっているよ。魔法さ!」
「……ま、魔法……」
うすうすそんな感じの言葉が出てくるんじゃないかと思っていたが、実際にこんな真顔で言われると、傷を癒したあの光は魔法のようだったことから、やっぱりという心境と、この科学が支配する世界に魔法などという非科学的なものを持ち出されて、そんなの嘘だろうという心境が合わさって、なんとも微妙な表情が出来上がってしまう。
「おやおや、何だいそのげんなりした顔は? 先ほどの魔法は傷をいやす魔法、ヒールⅡさ。傷だけでなく疲労や簡単な病も治すことができる魔法なのさ」
「い、いや……突拍子もないというか、納得というか……この科学のご時世に魔法とは……」
「おやおや信じていないね? 君達には素質があるというのに。ちょうどいいことに君たちは私の落とし物。その魔法の収納袋を持っているじゃないか!」
そういって女性は先ほど拾ったバッグを指さした。
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