第四十五話 秘密明かし
累計PV37万突破、評価者数150人突破ブックマーク者数1500人突破しました!
皆様からのご愛顧、本当にありがとうございます!
今日はインタビューが終わったら、新チームの登録を行い、食事をした後に初級ダンジョンへ潜ることになっている。集まる場所はもちろんギルドだ。
集合時間まではまだ時間があるが、遅れるよりはいいだろう。テレポテーションを使ってギルドへ向かう。
が、なんとジュディだけは先に来ていた。
「あれ?! ……ジュディさん、待ち合わせの時間まで随分早くないですか?」
「あ、あら? そうかしら? ほら、日本では時間厳守が美徳じゃない? 私の国だと、遅刻は優雅なイメージがあるんだけど、日本の慣習に倣ってみただけよ。本当よ?!」
「あの、焦らなくても大丈夫ですよ」
その後もごちゃごちゃ言い訳じみたことを言うジュディ。なんだろう、まさか秋彦を待っていたのだろうか?
らちが明かないので優太は話題を変えることにした。
「まあそれはいいんだけどさ。どうしよう、こっちも用事が大分早く終わったからここに来たけど、舞薗さんと楠さんがまだ来ないだろうし……」
「え、えーっと、そうね。どうしましょうか」
「そうだな……暇だし、入門のわき潰しちょっとやるか?」
どうした物かと思っていたら秋彦が提案してきた。
成程、これからチームを組むジュディと連携を図る意味でも、暇つぶしとしても悪くないかもしれない。
「あー、いいわねそれ。貴方達の普段の魔物の倒し方とかも見ておきたいわ」
「あんま参考になんねーと思うが、けちけちするもんでもねーし。どうよ親友?」
「良いんじゃないかな。じゃあ依頼見に行こう」
納得しあった三人は、依頼を受けにパソコンが置いてあるスペースに向かう。
依頼を受けるときは、まず探索者の免許証の裏面に書かれている探索者IDと、自分が決めたパスワードを入力し、依頼の一覧を見ることができる専用サイトにアクセス。
そして自分が受けたい依頼をプリントアウトし、受付に持っていき、免許証のICチップに依頼を登録。あとは依頼をこなすだけである。
依頼が完了し、例えば氾濫日数が戻り次第、報酬が指定の口座に振り込まれるという仕組みになっている。
依頼人に確認がいる仕事なら、依頼の完了を電話で告げる。道具の引き渡しにしろ、護衛の仕事にしろ、依頼が終わったらギルドに一報を入れ、ギルドが依頼人に確認の連絡を行う事になっている。
勿論、ギルドに戻ってきて依頼の完了をすることもできるが、昨今依頼の大半はわき潰しだ。わざわざ報告するまでもない物が多い。
しかしそれでも探索者がここに報告に戻るのは、ここには解体場、そして魔物素材の買取を行う買い取り窓口があるからだ。
メーツーによると入門ダンジョンであっても、その魔物の素材は有用であるし、今の主な素材の買取は研究機関となっているが、食品加工会社や製薬会社など、すでにそれ以外での買い取りが始まっているらしく、需要は山ほどあるらしい。
というか流通の滞りが深刻である今は、ダンジョンの魔物の肉を買ったり食べることは珍しくなくなってきたので、入門ダンジョンの魔物の肉は需要が拡大しているらしい。
要は自分たちの儲けに大きくかかわってくるのだ。
入門ダンジョンに出入りする探索者であっても一日の売り上げが10万前後変わってくるらしい。
解体場も魔物素材の買取窓口もない地方都市から探索者がいなくなるのも、仕方ない事と言えるのかもしれない。
もっとも、初級ダンジョンに挑むという明確な目的のある秋彦と優太ペアのように義務的に入門ダンジョンのわき潰しを行っているようなタイプの探索者はギルドに戻らない時も多いのだが。
とりあえず三人はギルドのある新宿の比較的場所が近いダンジョンを見繕う。
しかしやはりというか、近くにあるダンジョンで依頼はなかった。そういう場所は初心者や駆け出しの探索者が真っ先に依頼を持って行ってしまうので、ある意味当然と言えるのだが。
「良さそうなのないねー……」
「本当ね、困ったわ……」
「あ、ちっと遠いがここなんてどうだ?」
そういって秋彦が指さしたのは、有楽町駅を少し行った先にある路地裏のダンジョンだ。
「えっと、ちょっと遠くない?」
「大丈夫だ。俺、有楽町駅には降りたことがあるから飛んでいける」
「あ、そうなんだ」
「え? 飛んでいけるって何?」
「まあまあ、すぐ分かるよ」
さっそくダンジョンを選び、登録する。いつも通りテレポテーションで移動だ。まずは優太からだ。
「じゃあ、送って秋彦」
「おう、行くか。『力よ!』テレポテーション!」
いつも通りスポンという音とともにその場からいなくなった。が、ジュディはそれを見てすごく驚いていた。
「え?! ユ、優が消えちゃったわよ!?」
「おう、俺の魔法の一つでな。瞬間移動できるんだ」
「そんな魔法があるの!?」
「おうさ、じゃあ次はジュディだな。とりあえずいっぺん体験してみてな」
「……わ、わかったわ。お願い」
「じゃ、先に行っててくれ。『力よ!』テレポテーション!」
………………………………
「……これを研究できれば今までのあらゆる産業が影響を受けるわね……一瞬の移動なんて、夢の様だわ!」
「お、おう……一応ダンジョンの中なんでそろそろそこら辺で勘弁してくれ」
ジュディはテレポテーションの魔法に興奮しっぱなしだ。まああまりの便利さに、手に入れた秋彦本人さえ驚いたくらいなのだ。仕方ないのかもしれない。
さて、それよりも入門ダンジョンのわき潰しである。といってもやる事はいつもの手法である。
「とりあえずいつも通りに行きますけど、びっくりしないでくださいね」
「ええ、お手並み拝見ね」
わくわくしたような雰囲気を出しているが、大丈夫だろうか。結構衝撃的だと思われるのだが。
まあいい、それらも見てもらうしかあるまい。
「じゃあ行くぞー『力よ!』パワー! 『力よ!』ストロング! じゃ、あとよろしく」
「え? え? なにを……?」
なにもない場所でいきなり補助を入れ、やる事の意図を図りかねているジュディ。
さりげなく秋彦はジュディの前に立つ。見たことのない人にあの光景は怖いだろうという配慮だ。
「はーい、『炎よ!』ファイアボンバー! てーい!」
「え? ちょ、ちょっと……きゃああああああ!!」
そして放たれるファイアボンバー。轟音とともに迫る炎の壁。二人にとっては、もはやいつもの爆風なのだがジュディにとっては初めての光景だ。
炎が収まった頃合いを見て、改めてダンジョンウォッチのマップを確認し、氾濫日数がリセットされていることを確認する。
「はい、終わりっと」
「お疲れっしたー」
「え、ちょっと待って、ボスは?」
「「あ」」
帰ろうとした秋彦と優太はジュディの一言で足を止めた。
そうだった。普段はDPの枯渇が当分考えられないので放置していたが、よく考えてみれば探索者が一番欲しい物だった。それに今はジュディがいる。
「確かに依頼だけならここまででいいけど、DPは欲しいでしょ?」
「あ、えっとそうだね。じゃあ行こうか」
「……じゃあって何? まさか普段からボスを放置しているの?」
痛いところを突かれた。
秋彦達はスキルをたくさん持っているというのに普段からダンジョンボスを放置しているのがわかるような言動をしてしまった。
どうやってごまかそうか優太は考えていたが、秋彦は軽くため息をつくと話し始める。
「……ああ、そうだ。俺らは普段はボスを無視してる」
「秋彦?!」
「親友、この人は味方になる人だし、遅かれ早かれわかることだと思う。それにダンジョン攻略を急ぐ俺らの心情をわかってくれるだろうし、悪い事じゃないと思うんだ」
秋彦にそう言われ、優太は考える。確かにいつまでも隠していられることじゃない。自分たちと行動していれば、いつか今の自分たちの保有DPは知られるだろう。
それに仲間になる人に対して、隠し事をしているのは誠実さに欠けるだろうし、ダンジョン攻略のモチベーションにもなるだろう。それに、この事をうかつに話すような人にも見えない。
「……分かった。実は僕らは……」
こうして二人は、ジュディにDPを大量に持っている理由を洗いざらい話すことになる。ついでなのでマジックバッグや魔導書の存在も話しておいた。
………………………………
「……ある意味二人の強さに納得したわ……そう言う事だったのね……ずるいわぁ……」
「まああれだ。運がよかったんだよ俺たちは」
「そうだね……それがなかったらこんな風になってたかどうか……」
話をすべて聞いての第一の感想はそれだ。やはりずるいと思うらしい。
仕方のない事だと思う。入門ダンジョンをクリアして得られるDPが300弱であることを考えると、秋彦達の保有DPはどう考えても異常だ。
それだけあれば、たいていのスキルを習得できる。手の届かないスキル、垂涎のスキル、覚え放題だ。羨まない探索者などいないだろう。
しかし、ジュディは秋彦達が思う以上にポジティブだったようだ。
「……でもね、それを自分が手に入れたかったと思う反面、それを手に入れていたのが貴方達みたいな善良な人間でよかったとも思うの」
「「え?」」
間の抜けた顔で聞き返す二人に、クスっと笑って話を続ける。
「貴方達は、そんな人より優位に立っていながら、人を一人でも助けようという思いから、こちらに歩調を合わせ、力を合わせてあの災害に立ち向かったじゃない。それはとてもすごい事よ」
「え、そ、そうかな……?」
「そうよ。人は力を持つと変わるなんて言うけど、私は違うと思っているの。力を持つと変わるんじゃなくて、力を持つことでその人の本性があらわになるだけだと思っているわ。だから、力を持って尚、そんな行動がとれる貴方達はきっと、心から善人なんだと思えるの」
「……お、おう……」
なんだか急に気恥ずかしくなってしまい、二人は照れてしまう。
「でも、そうなったら、初級もきっと最初にクリアすれば、きっともっと多くのDPを手に入れられるわよね?」
「……ああ、だろうな」
「……そのためには私達は不可欠よね?」
「うん、勿論」
「うふふ、改めて、これからよろしくね?」
「「こちらこそ」」
どちらともなく差し出され、交わした握手は、思いのほか堅かった。
皆様からのご愛顧、誠に痛み入ります。
これからも評価、ブックマーク、感想など、皆様の応援を糧に頑張って書いていきます。
次の投稿は5月10日午前0時です。
よろしくお願いします!




