三百七十四話 中級ダンジョン後半 暗黒階層 分裂の脅威
累計PV数878万突破いたしました!
これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
改めて相手に向き合う。今はまだガスト・コマンドーも壁際だ、今わざわざ攻撃する意味も薄い。そこまで考えまずは相手の動き方を注視する。
相手のスピードは速くはない、一般人が歩く程度の速度で篝火に向かって行っている。障害物らしいものも無いので一直線で向かって来てはいるがこの様子なら時間に少しは余裕があると見ていいだろう。
「意外と早いってほどではないな……」
「のんびりはしてられないけど焦る必要もない感じかしら」
「どうせだったら今のうちに足止め的な罠が作れたら良かったんだけど……」
「……そんなスキル誰も持ってない」
「遺跡荒らしのスキルには罠設置とかあっても良さそうな気はするけど、まあ言っててもしょうがないわな」
確かに優太のいう通り、相手の動きの鈍さとしてはただ近づくのを待つよりはここで罠を張って待ち構えられたら良かったのだがそんなスキルを持っていない上にそもそも設置する罠も持っていない。
たらればの話をしていてもしょうがないので気持ちを切り替える。
そして待つ事十分弱、相手の方を見るとそろそろ壁と篝火の半分くらいまで到達している。そろそろ小手調べに仕掛けてもいい距離になった。
「うし、じゃあちょっと小手調べにちょっかい出してくるわ。親友と茜はともかくジュディはどうする?」
「そうね……じゃあ私も行こうかしら。ちゃんと魔防壁で相手の侵攻を止められるか見ておきたいし」
「ん、わかった。いってらっしゃい」
軽く首を鳴らして軽く跳ぶ。ガスト・コマンドーとの距離を一気に詰める。が、相手の目の前に来てもいきなり攻撃は仕掛けない。今回のボスは殺すと増えて蘇る性質上、手加減が必須だ。なのでまずは相手の攻撃を見ておいた方がいいと秋彦は考えた。
攻撃の威力がどの程度なのか、攻撃速度はどうかを見ておけば、攻撃を躱せるか躱せないかや、いっそ攻撃を受け止めた方がいいかなども考えられる。いつもならその前に速攻で敵を倒す考えもできるが、今回は殺して終わりではない以上そういった所も見極めた方がいいだろう。
秋彦は両手持ちの斧を持ったガスト・コマンドーの前に立つ。攻撃の射程圏内に入った事で敵も反応し斧を振り上げる。そしてそのまま振り下ろす。
どの動きも危険感知や直感に頼らずとも目視ではっきり見える緩慢な動きだ。これなら秋彦が囮役として攻撃を引きつけても攻撃は当たらないだろうし、そもそもこの遅さでは威力も低いだろうし最悪受けても問題はないだろう。そう思った。
だがあまり速くない速度で振り下ろされた斧が発した轟音と床に入った亀裂は予想以上に大きかった。
それをちらっと横目に見て評価を訂正する。確かに当たりはしないだろうが、想像以上に攻撃力はあるらしい。万が一当たった時の場合を考えると囮をやるのはリスクが大きいだろう。
そうなるとどうしたものか。正直この攻撃力が相手となると、ジュディの高い防御力があっても無闇矢鱈に受け続けるのは危険だろう。
そう考え、取り合えず一旦篝火との距離を開けさせるべく今度は秋彦が攻撃に移る。
もちろん武器で攻撃はしない。どの程度攻撃したら分裂するかが現時点では不明瞭なのでなるべく大きなダメージに繋がる攻撃は避けたい。
「となると……こうするっきゃないか。うし! うおりゃあああ!」
一声気合いを入れ、ガスト・コマンドーが振り下ろした武器を引き抜くタイミングで一気に懐に入り込み、そのまま脇を両手で押し込んでいく。相撲の押し出しの要領だ。
「よしよし。知識だけの見様見真似だが、押し戻すならこういうのが分かりやすくていいや」
現代空手には基本的に投げ技は無いし、柔道技は秋彦の知る限り相手を大きく移動させるが無いので、力で押して相手を後退させて勝つイメージの強い相撲技を使う。
習ったことの無い武術ではあるが、探索者の身体能力で繰り出せばそれなりに様にはなる。事実ガスト・コマンドーをしっかり後方に下げさせることができた。
「うん、一体は後ろに下げさせられたな。うん、一体は……」
だが他9体がなお篝火に向かっていることを考えるとこの戦法は一対一の場合のみ有効であって相手が多人数の場合には使いづらい。多少技ありとはいえほぼ力押しで土俵際もとい壁際に追いやっているのだから当然といえば当然なのだが。
そこまで確認して、一旦ジュディのいる篝火と他のガスト・コマンドーとの間に戻る。
「流石に一体一体にやってる暇ないか」
「なら次は……これで、どう!?」
そう言うと今度はジュディが盾を装備した状態で裏拳の要領でシールドバッシュする。
普段は防御が主体ではあるが、ジュディの身体能力は高い。壁際とは行かないまでもかなり後退した。
「やっぱり殴った方が速いといえば早いか?」
「ええ、与えるダメージは大きいとは思うけどこっちの方が効率いいとは思うわ」
「そっか、じゃあやっぱり殴る方向で……ん?」
「どうしたの?」
「い、いやあれ……」
秋彦が指を指した先には先ほど秋彦が押し出しで壁際に追い込んだガスト・コマンドーがいた。そしてすぐ近くにジュディがシールドバッシュで弾き飛ばしたガスト・コマンドーが倒れている。
ぐちゃりと嫌な音がした。
なんと立っている方が倒れている方に向かって斧を振り下ろしたのだ。
「え、味方を?!」
「え、あ!」
振り下ろされた斧、二つに分かれたガスト・コマンドーからは血は流れず、黒い煙の様な物が吹き出ていた。
ボコボコと君の悪い音をたてるそれはやがて二つの塊となり、2体の新たなガスト・コマンドーへと形を変えた。
「あ、あいつら自分の攻撃範囲に入ったら見境無しに襲うのかよ……」
「でも、理には適ってるかも。だって殺されたら増えて甦るなら、それを警戒して殺さない敵に死ぬほどのダメージを負わせてもらうよりも、いっそ自分達の手で殺した方が早いし……」
「うわぁ……本当だ考えてみたらそっちの方が分かりやすいわ」
二人がそう考えた時、もう一つあることに気付く。ガスト・コマンドーは常に篝火、つまり一箇所に集まろうとする。と言う事は後半になればなるほどそれだけ敵の密度も上がると言うことになる。
要は敵が篝火に近付く程に同士討ちをして数を増やすと言うことだ。100体以上になったら回避不能の即死技を撃ってくる相手がだ。
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次回の更新は8/16(金)とさせていただきます。宜しくお願い致します。




