第三百四十八話 入学式と新入生
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秋彦達が探索者としての動きを緩めて活動するようになり早四ヶ月に入ろうかと言う頃、もうすっかり桜が舞い踊る季節になった。
秋彦と優太がダンジョンに出会ってから、もうすぐ一年になると言った具合である。
秋彦達は去年、受験を終え、晴れての高校進学に意気揚々となっていたのを覚えている。そしてこのイベントもまた、懐かしい物であった。
イベントの舞台は体育館。ピカピカの学校指定の鞄と革靴。折り目もしっかりとして、クリーニングから帰って来たことが窺えるほど綺麗で新品の学生服に身を包んだ生徒達が、校長と教頭を筆頭とした教師陣に生徒会に歓迎の挨拶を受ける場。
そう、入学式である。
本来この日は生徒会以外の生徒にとっては立って座ってを繰り返し、要所要所で拍手。数回ほど練習した校歌の斉唱。まあ要するに単調ではあるが特別な何かをする事は無い。
だが、そんな場に秋彦は祝辞を述べる生徒会会長らと同じ場所にいた。秋彦はこの場で生徒会長の生徒代表の祝辞を述べた後に祝辞を述べる事になっている。
生徒会長が祝辞を述べ終わり、隣の席へ戻ってきた。
「では最後に、生徒探索者代表の祝辞、南雲秋彦君」
生徒会長が戻って早々に声が掛かった。嫌な顔はしない。もはや慣れた物だ。キリッとした真剣な表情で、祝辞を書いた紙を持って壇上に上がる。
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「あー……疲れたわー……」
「お、お疲れ様。大変だったね」
「で、でも秋彦ってば堂々と喋っててカッコよかったぜ? よ、俺らの代表!」
入学式が終わり、机に突っ伏す秋彦。やはりああいう人前に立つのはいつになっても慣れない。労う優太の声も持ち上げる笑屋の声も、当事者にならなくてよかったというニュアンスが含まれているせいか微妙に空々しく聞こえる。
「ある意味この学校の裏の代表みたいなもんだし秋は」
「この学校に入れば大体お世話になってますからね、南雲君には」
「奏、言葉、お前らなぁ……」
揶揄うように声をかける奏と言葉。この2人もまた、この学校で有名な探索者でありながら難を逃れている。
「そんなに嫌なら断っちゃえばよかったのに」
「だねー、なんで受けちゃったのー?」
「いやさ、校長先生からあんなこと聞かされちゃ断りづらくてさ……」
苦笑いの真崎に頭に疑問符を浮かべる石崎に、秋彦は少し事情を説明する事にした。
確かに秋彦が嫌だと断固として言えば断ることも出来たのだ。いくら秋彦達の通う学校の受験が終わった後に校長先生直々に、時代を代表する新しい存在として、後輩に祝辞を述べて欲しいと言われた所で無理にやらせる権利はない。
そこも踏まえて最初は当然断ったのだが、その後更に深く話を聞いてみると、受けなければ悪い様な気がしたのだ。
秋彦達の通う学校は、進学校の様に学業に力を入れている訳でもないし、運動に力を入れていてスポーツに対してすごい実績があるわけでもない。どちらも一生懸命にやっていると言っても所詮は出来る範囲での話で、良くも悪くも普通の学校と言えるだろう。
ところが、世界にダンジョンが出現し、世界が大きく変わった時、その変化に対し果敢に立ち向かい、大きな騒動を収めた英雄が二人もこの学校に在籍していたのが大きな違いだった。
秋彦と優太の才能を、その後学校が不要と判断して探索者としての活動を禁じたなら話は違ったのだが、この学校はこの2人がいた事をアドバンテージとし、探索者活動を闇雲に辞めさせない方針を取った。
その事で、この学校には将来探索者として活動したい。自分達も現代の英雄と呼ばれるような人物になりたいという学生達が大量に志望してきたのである。しかも全国から。
受験シーズンにおいてこの学校の競争率は10を越したらしい。都立の中高一貫校でも8倍ほどなのに県立の、しかも進学校でもないような学校でこの競争率。もはや異常事態であった。
当然こうなったからには例年ならあり得た定員割れなどと言う事態は起きなかったし、例年では合格になっていたような優秀な生徒を不合格にするということが起こっていたのである。
そしてそんな例年にないような厳しい筆記試験を終え、面接になると、志望動機や面接の話題になるとやはり探索者としての活動を希望する声が多かった。
勿論この学校以外にも探索者としての活動を許可する学校はあったが、他の学校では学生探索者の数が少なく珍しい事もあってか校則などにおける便宜があまり図られていないところが多い。
対してこの学校はクラスメイトや学校の生徒を死なせまいと、地方都市奪還作戦終了直後から秋彦と優太が新しく探索者になろうと言う生徒が死なない様に、巣立ちの世話を焼いていた事もあり、探索者人口は高かった。敢えて探索者をやらないという一部生徒達を除いてほぼ全員が探索者とも言える脅威の探索者人口だった。
そんな人口増加に対して学校側が融通を利かせるのもある意味当然だったのだ。そしてそれが特に大きい。
依頼を受ける為に学校を休んではいけないという事も無いし、依頼やダンジョン攻略によっていくら以上稼いではいけないという制限事も無い学校の中ではダンジョンの話は禁止という事だってない。
大体の学校は探索者としての活動は、命を賭けるだけあって厳しく制限しているところが多い。
だがそれらはまだマシな部類と言えるだろう。
酷い所だと学校側への探索者関連の校則違反を報告を見逃す代わりに報酬の数割を要求する先生がいたり、学校自体が探索者活動を許可する代わりに生徒の儲けの上前をはねようとした所もあるのだとか。
命を賭ける代わりに得られる多額の報酬に目が眩んで、表向きは探索者の活動を制限し、裏では金を受け取ることで許可をする事態もあったらしい。
この学校は探索者としての活動でいくら報酬を得ても問題ないし、あらかじめ届出を出していれば、テスト週間以外であれば依頼を受けるために学校を休む事も許可される。当然学校でダンジョンや探索者活動の話題を出す事も禁じられていない。生徒の上前をはねるなんてもってのほかである。
そういう訳で今回志望者がとても多かったこの学校。元を正せば探索者として特に秀でていた秋彦達の活動に合わせる形で志望者が増えたのだ。なのでせめてこの学校において探索者の頂点にいる秋彦にこれから探索者としての活動を行う後輩達が道を外れかかった時にしっかり釘を刺せるように存在感を示しておきたいということだったらしい。
「あ、あー成程……そりゃ断れないわ」
「俺が学校としても探索者としても年長である俺らが面倒見させられるんだから、その顔見せみたいなもんなんだと」
「お、おおお〜……」
石崎も納得したかの様に頷く。確かにそういう事なら断れないだろう。
「言っとくけど、お前らもしばらくはそっちの対応するんだからな、地方都市奪還作戦に参加して手柄と名を上げたモンスターキラーズの皆さん方?」
「うっわマジで?」
「当たり前だろ! 俺だけにやらせようとすんなよ! 絶対に逃さないかんな!」
ええー! と嫌そうな声が上がる教室。こうして彼らの探索者としての先輩も新たに始まることとなったのである。
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