第三百四十六話 職人生活
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
『秋彦―来たぜー!!』
「おう、来たか。ちょっと待っててな」
インターホン越しでもよく通るエミーの声に苦笑いしつつ、玄関のドアを開けに向かう。
正月から日が経ち、3月中旬。まだまだ冬の寒さが強くありつつも、そろそろ春の足音が聞こえ出す時期である。
「よう、いらっしゃい」
「おいっす、入っていい?」
「ホイホイ、どうぞ」
「お邪魔しまーす!」
ドアを開けた先にいるエミーはさっさと家の中に入り込んでくる。一応秋彦の実家なのだが割と遠慮がない。まあある意味エミーらしいと言えばらしいのだが。
「いらっしゃい笑屋くん。お茶持って行くわね」
「あ、お母さんどうもっす、いえいえ大丈夫っす、あんまり長くお邪魔出来ねぇんで!」
「あら、という事は下にご用事?」
「はい、ちょっと頼んでいた品を受け取りに来ただけなんで!」
秋彦の母と軽く挨拶をして一直線に地下室へ入っていく。
今日エミーが秋彦の実家に来たのは遊びに来たのではない。モンスターキラーズが秋彦に注文していた装備の受け取りに来たのである。
「うし、じゃあ早速だけど注文の品を渡すから確認してくれや」
「OK! 待ち焦がれたよホント!」
エミー、完全にウキウキ気分である。その様子に少し呆れつつも作成した装備を渡していく。
「まずこれ、俺特製の全状態異常を無効にする例のアクセサリーな。注文通り6つね」
「はいよ! ……うおお、待ち焦がれたぞ、いくら大宮公園のダンジョンは眠り、石化、火傷で状態異常自体の情報は出揃ってるって言ってもやっぱり手に入れられるなら手に入れておきたいからね!」
モンスターキラーズから注文を受けた品とは、秋彦が作り上げた全状態異常を無効化するアクセサリーである。やはりどの状態異常でも無効化出来るというのは持っておけば心強い物である。のちのフロア効果には無効化を無効化してくる物もあるが、元から無効化を持っていないとさらにきついフロア効果を課してくることもある。やはりあるのとないのとでは大違いだ。
この全状態異常を無効化するという効果を持つアクセサリーはやはりその存在がまだまだ少ない。
通常はそのときそのときで無効化する状態異常のアクセサリーを付け替えて無効化するため、多くの無効化効果持ちのアクセサリーを持ち歩くのがまだ普通だ。
だが付け替える手間や、付け替え忘れなどを予防出来るだけあってその存在が知れてからは注文が殺到しているアクセサリーであり、秋彦の道具作成における主力商品の一つである。
「後これ、まっつんの」
「あ、もう出来たんだ。いやー、凄いなコレ【龍刀】って奴?」
「忍刀だけど、材料は竜の素材使ってるからね。紛れもない龍刀だよ」
次にエミーに渡したのは全体が緑かかった刀だ。
反りのない形状と、通常の刀よりも大きく作られた鍔、かなり長い鞘紐という忍刀という忍者が使用したとされる刀の特徴をしている。
モンスターキラーズの前衛である奏の特別な依頼の元、秋彦が作成した物である。
「綺麗だねコレ。とてもじゃ無いけど骨刀には見えないよ」
「伊達に竜の素材を使用してないからね。骨をベースに皮と鱗もしっかり使った【グリーンドラゴン】の素材をふんだんに使用した【深緑龍刀(忍)】とでも言うべき逸品だよ」
「祭ちゃん蓄えの結構使っちゃったんだって?」
「後悔はないってよ」
「ホントかなぁ?」
首を傾げるエミーだが、後悔はない事に関しては本当だろうと秋彦は踏んでいる。
モンスターキラーズもモンスターキラーズで探索者業界では有名だ。関東にいる探索者としてならトップクラスの存在であり、交友が深いからと言ってレインボーウィザーズの腰巾着などと思っているような奴らはいない。
特に奏は地方都市奪還作戦後に大きく方向転換を行い、どこで知り合ったのか三重県伊賀市に本拠地を置く探索者集団、伊賀忍軍で修行をし、武術や迷宮荒らしとしての工作技能だけでなく、探索者としてのスキルとしての【忍術】をも習得しており、伊賀忍軍から免許皆伝を受けているらしい。
パワーこそ少ない物のやれる事の多彩さは秋彦達よりも上と言えるだろう。迷宮荒らしという盗賊的技能によって罠解除や罠設置などの工作も行える分、戦闘以外の探索者としては奏の方がよほど真っ当とも言えるかもしれない。
そんな探索者としての自尊心を満たすために、とびっきりの装備を作りたがるようになったのはある意味当然のことだ。
とは言え、材料の調達はかなり骨を折った事は想像に難くない。まさか2月の終わりにやっと終戦したイギリスの人魔大戦、魔物からの国土奪還戦争にて、地方都市奪還作戦でいうエリアボスとして初期の頃から探索者達に立ち塞がったグリーンドラゴンの素材を手に入れて加工を依頼してきたのだから。
新たに国土を奪還した国となったイギリスは、金を持っている探索者向けに多くの龍の素材を放出したという話は聞いていたが、まさか奏がその恩恵に預かっていたとは思わなかった。
だがいくら素材が良くてもそれをちゃんと加工できなければ意味がない。まだまだ骨加工の職人は数が少ないことを考えると、秋彦のところに持ってきたのは正解だろう。
秋彦は友人の頼みを受けて自分の中でも特に力と気合を込めて作った一作となった。
「いやコレいい経験になったぜ。作ってて楽しかった」
「おお、本当に」
「龍の骨の内側に血を少し仕込んで、皮を貼って鱗を一枚一枚貼り付けて龍素材を入れた火で焼を入れて、丁寧に叩いて行くんだがマジで繊細かつ大胆に行かないと綺麗に一体にならないんだよな……強く、綺麗に仕上げんの本当に大変だった……」
「おおう、お疲れ」
語る秋彦、どうやらだいぶ疲れた顔をしてしまったようで、エミーに労われてしまった。
「じゃあコレも持ってくな。いやー悪いな世話になりっぱなしで」
「何、職人として旗揚げするならこれが常になるんだしな。お代はギルド通じて振り込んでおいてな。そうじゃないと税金の計算とか自分でやらなきゃ行けなくなるし」
「そうなんだ……本当に色々やってくれるんだなギルドって」
「俺らの為の税理士や弁護士なんかもいるくらいなんだ。エミーももっとギルド使わないと損だぜ? ただでさえ素材の買取の時色々差っ引かれてるんだから」
「それは違いないかもね。じゃ、ありがとー!」
「おー、いってらっしゃい!」
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次回の更新は5/30(月)とさせていただきます。宜しくお願い致します。




