第三百四十三話 日常にいる探索者達
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厳しい寒さが続く年の瀬。次の年まであと1日となった今日この日。秋彦は自宅で宿題に全力で手をつけていた。
正直年末年始の間である冬休みで出す量じゃない様な宿題をせっせと行う。探索者になる前だったらこんな量は絶対に無理だったと思う量と内容である。冬休みでこの量となったら来年の夏休みの宿題はどうなるのだろうか。
普通の人だったら宿題しかしていない夏休みか、最初から出来ないと諦めて全てやらずに置く人のどちらかになるのではないかと思う。
だが探索者として勉学の方もそれなりに強化されている秋彦ならば苦もない内容だ。せいぜい量が多いので手が疲れるくらいだろうか。
取り組む事1時間。逆算した結果始業式に間に合わせるために1日に終わらなければならない量の宿題を終え、大きく伸びと欠伸をした。
「ふあぁ……よし、今日の分の宿題終わりっと。さて、今日どうしようかね……」
ポツリと独り言を言うが、頭の中ではやることは決まっている。
今日は大晦日だ。年末年始のテレビ特番はまあまあ面白い物が多いので見ない手はない。普段はテレビを見ない秋彦も年末年始の番組だけは見るのだ。
リビングに降りると秋彦の従魔である龍之介が秋彦の父の膝に乗って仲良くテレビを見ていた。
「あ、降りてきた降りてきた」
『パパお帰りなさい、何してたの?』
「学校の宿題です。何見てんの?」
「ん? 僕の好きなテレビドラマの一挙放送だよ。【孤高のグルメ】て奴。見たいものあるなら変えるけど」
「いやいいよ。今日は大晦日だし、今やってるのは去年か夜の本番の為の特番だろうしね」
そう言いながらスマホでテレビ欄を検索し、今年のラインナップを調べる。
スポーツ、歌、バラエティ、クイズとジャンルも多彩で。どれも面白そうではあるが、見慣れた単語もちらほら見受けられる。
例えば人工池の上に建造されたアスレチックを己の肉体のみで乗り越えて行き、アスレチックを全て攻略して、賞金や副賞を獲得する大人気番組【NINJA!】の紹介文には、「今売り出し中の探索者、NINJA! に参戦! 新たな伝説を見ることが出来るのか?!」という文がデカデカと乗っていた。
また、年の瀬の歌番組の中には「第一次人魔大戦をバードとして闘い抜いた英雄達が集結! 伝説のライブが今再びここに!」という一文がある。
そしてグルメ系の番組では「今東京で最も美味しいスポット! 魔物食材を使った【探索者飯】を格安で食べれる店、教えちゃいます!」と言う文字もある。
「にしても本当にテレビに出る探索者増えたよね。今はどこの局でやってる放送でも見かけるよ」
「これも雨宮さんの打った手の賜物だよ。おかげで地方都市奪還作戦前後で受けた妙なヘイトも今じゃすっかり聞かなくなったし」
いい事だと言って頷く秋彦。
思えば地方都市奪還作戦(メディアは何故か第一次人魔大戦という名称を推している)から後に探索者のイメージアップ活動の一環だったのか、地上波でもテレビでも探索者を取り上げる番組は増えた。
有名な探索者でかつ目立ちたがりな人々は喜んで出ていたし、宣伝したいものがある人は自らと一緒にそれらを売りに出してもいたのでWIN-WINの関係では有った。
その甲斐あって探索者という存在は概ね一般人には肯定的に周知されたと言っていいだろう。
その一方で探索者イコール芸能人の様な扱われ方をされかかってもいたりもしたが。
「すっかり浸透したよね。最近探索者になっちゃダメって子供に教えたり抗議活動してる人見なくなったし」
「市民権を獲得したのはいいんだけど、ミーハーなのも増えてるんだよね」
「ああ、【気楽な探索者】のこと?」
「そうそうそれ」
秋彦は少し溜息をつく。
探索者イコール芸能人という妙なイメージが築かれ始めてしまっているのだが、最近ではあながち間違いとも言い難くなってきているのだ。
何せ探索者となってレベル上げると肉体の能力が向上する事で、健康面に大きな影響が出る事がかなり影響が大きい。
例えば健康系の番組でも健康診断の結果、半年前に近いうちに死ぬと宣告された様な不養生の極みとも言える芸人が、探索者になってレベルを上げ続けた後に受けた健康診断を全てA判定でパスしたのは記憶に新しい。あれはネットニュースや掲示板でもちょっとした騒ぎになった。
また、元アイドルの大御所女優が、魔物食材をふんだんに使用した料理、最近では【探索者飯】と呼ばれる物を食べ続けた事で、10年は若返ったかのような肌のハリツヤや化粧ノリの良さをトーク番組で語る番組も今時一つや二つではない。
当然やらせを疑う声も出たが、生放送で健康体となって改善された、または若返った容姿を見ればぐうの音も出なくなった。そのたった数ヶ月で大きく変わった見た目は、どれだけ否定を重ねようとも拭い切れない程に顕著すぎたのだ。
こう言うこともあって、芸能人をはじめとした健康や美容に気を使う層や、その様変わりに羨望を抱いた者や新たに探索者となった芸能人達のファン達が、新たに探索者になるケースも最近では少なくないのだ。
尤も、そう言う人たちは本格的に探索者となって一攫千金を狙って命のやりとりを行いたいのではないので、精々入門ダンジョンに入って楽に戦闘をこなし、碌な戦果が無くても全く気にせず、まるでジムでひと汗流したかのような気楽さで探索者としての活動を行うのだ。
一応もしもの時に最低限動くくらいは出来るだろうが、ギルドの戦力人手としては期待出来ない、最低限足手纏いにはならない一般人に近い探索者。
気楽な探索者という新たな時代が生んだ新たな探索者。ダンジョンがこの世に現れたばかりの一昔前なら落伍者と呼ばれたかも知れない。彼らはちょっとダンジョンに入って敵を倒せるだけで探索者としては実力も無く、志も低いからだ。
だが、彼らは落伍者と違い、ダンジョンに対して求める利益も少ない。せいぜい自分の体に与える良い影響があればいいからだ。
ダンジョンで得た力でダンジョンの外で暴力を使い強欲に利益を得ようとする落伍者とはその辺りが大違いなのである。
「新しい探索者の形かぁ。最古参な俺としてはちょっと複雑だよ……」
「生まれて一年も経ってない新しい概念である探索者の界隈で何古参ぶってるのさ」
「……言われてみりゃごもっとも。いや、でも最初の氾濫の頃からずっと探索者やってたんだよこっちはさー」
「しかし本当によくやってるよね、僕なんて魔物が目の前にいたら逃げちゃうよ絶対」
「俺が持ってくる魔物食材食いまくってそこいらの初級ダンジョン挑戦中の探索者より戦闘力高い人がなんか言ってるんだけど」
「コカトリスのお肉ご馳走様でした! あのお肉本当に美味しかった! しかもそれで健康になって強くなってだもんね!」
「今父さん達レベル15程度あって他の装備一切無い素の戦闘力で無敵ベルトが付けられないくらいなんだもんなぁ、普通にクリスマス会で出したの失敗だった……」
「まあ良いじゃないの、いざって時の逃げ足の足しにはなるって、あっはっは!」
戦えない事を宣言しながら盛大に笑う父に思わず頭を抱える秋彦。下地はあるのだから武器を取ってくれれば秋彦も少しは落伍者の脅威に怯えずに済むのだが。
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