第三十話 免許証と妖精商店
日間PV15000突破、累計PV13万突破しました!
皆様の応援を頂き、月間ランキングローファンタジー部門にて29位を獲得し、ランキング最高順位を更新しました!
また、四半期間ランキングローファンタジー部門にて70位を獲得し、ランキング最高順位を更新しました!
皆様からのご愛顧、本当にありがとうございます!
今日はダンジョン探索の免許証の受け取りと、探索者ギルド発足の前祝いを行う予定となっており、前回集まった探索者達は、前回と同じビルの会議室に集まっていた。
「さて、皆さんお集まりいただき、誠にありがとうございます」
壇上の雨宮が深々と頭を下げる。
以前の白いスーツではなく、ビジネスで使うようなびしっとしたスーツが黒く染めなおした髪と相まって、チャラ付いた印象はもはやどこにも見当たらない。
「雨宮さん髪とかどうしたんですか? ホストっぽく見えなくなっちゃいましたけど」
「ふふ、ホストはもうとっくに辞めましたよ。あと数日で僕は政府お抱えの探索者ギルド【悪夢の終焉】のギルドマスターとして、皆さんにお仕事を斡旋していく立場になります」
歓声が上がり、自然と大きな拍手が上がった。
「僕が政府を通して地方の自治体や、一部の有力な方からダンジョンの氾濫を止めるための間引き、通称【わき潰し】と呼ばれる作業を受け持つことで得られるメリットはいろいろあります。これにより皆さんはより良いダンジョンとのかかわりを持てると思います」
例えば、依頼の成功報酬が大幅に上がる。個人や自治体が探索者にわき潰しを依頼する際に探索者ギルドを通せば助成金が支払われる。それは依頼者側にも探索者側にもだ。
これにより依頼者側は実質無料でわき潰しを依頼できるようになり、探索者側は成功報酬が、今まで2万が入門ダンジョンの相場だった所、5万に上がる。これは相当に大きい差となる。
ちなみにこれらの成功報酬は、国の防衛費から支払われるらしい。
更に【迷宮探索免許証】は保険証の代わりや、マイナンバーカード、身分証明書としても使え、社会における一定の立場を保証される。この免許証を持つことで、探索者専用の武器ケースの中に武器をしまっておけば、武器を持っていても許されるらしい。また、魔物の氾濫が発生した際は、その対処をする間のみ、街中で武器を振るう事も許されるのだとか。
そして生命保険も活動内容を申請することで、ある程度助成金が出る。万一死んだ場合に遺族に残せるものができる事は、危険と隣り合わせだからこそ魅力的に感じられる。
その他、ダンジョン内で手に入れた物、魔物や魔物からはぎ取った素材の売買もギルドが受け持つとの事。
雨宮曰く、それらはすべて政府の研究機関が買い上げるらしい。ギルドは探索者と研究機関の中をはさむ業者のようなものだそうだ。今の研究機関は、ダンジョン内で出た物なら何でも、それこそ石ころ一つでも買いかねない勢いだそうだ。それほどまでにダンジョンには多くの可能性と希望があるらしい。
「という訳で探索者は多くの特権を持つ反面、それに伴う検査や資格取得も厳しめです」
まず第一に行うのは身体能力検査、そして学力検査。最後に精神検査だ。
身体能力検査は当然として、学力検査は、IQテストのような筆記の試験内容。そして精神検査は、その人の精神が健全で、決して異常な精神をもって社会に害を与える存在にならないことを証明するテストだ。
今回第一陣として、先の騒動を解決したここに集まったメンバーは、特別に精神検査以外の試験を免除され、この後行われる精神検査を受け、終わり次第、迷宮探索免許証を渡されるらしい。
再び大きな拍手が起こる。
「えー、それでは皆様、どうぞこちらへ。これから探索者ギルド【悪夢の終焉】へ案内いたします。精神検査はそちらで行わせていただきますので、お手持ちのお荷物等を忘れないようお気を付けください」
歓声と共に、その場に集められた探索者は荷物をまとめて移動を始める。
「よーし、なんだかワクワクしてくるぜ」
「あんまり浮足立たないようにね」
秋彦達も案内についていく。デカいキャリーバッグを持ってきているからちょっと手間取る。初級ダンジョンで得られた物の説明をするために持ってきたアイテムと、妖精商店が地味に持ち運びがしづらい。
「あ、いたいた。ハーイ秋彦、優太。お久しぶりね」
移動中に話しかけられた。誰かと思って振り向いたらジュディ達がいた。
「あ、ど、どうも」
「どうもお久しぶりです、東京での一件以来ですね」
声をかけてきたジュディに優太が少し隠れた。ため息つきながらも秋彦も応対する
「ええ、二人とも元気そうで何よりだわ!」
「……久しぶり」
「やっほー、元気そうじゃん。相変わらずの凸凹コンビだな」
ジュディ、舞薗、楠の順で返してくる。正直秋彦達よりジュディ達の方がよっぽどでこぼこのような気がするのだが、秋彦はあえて飲み込んだ。
などと思っているとジュディが続けてくる。
「せっかくだし、ご一緒させてもらってもいいかしら?」
「あ、はい、どうぞ」
「構いませんよ、お話ししながら行きましょう」
「……よろしく」
「よし、よろしくな!」
こうして5人は近況や雑談をしながらギルドの本拠地へ向かうことになった。
………………………………
「さあ、皆さんようこそ。ここが探索者ギルド【悪夢の終焉】の本拠地です!」
東京新宿のオフィスビルの一角にあるその場は、綺麗なカウンターや発券場が並び、なんというか探索者ギルド、というファンタジーな名前を冠しておきながら、役所を思わせる見た目だ。
「……役所?」
「まあそう見えるよね。というか僕らもそう思ってるし。さあ、それはともかく、精神検査を行って行きましょう」
その後、精神検査が開始され、それらを無事に終え、晴れて迷宮探索免許証を手に入れた。
「ふー、やっと免許を手に入れたか」
「なんか長かったねー」
「とにかく、これでようやく探索者という職業が世に生まれ、ダンジョンへ潜っていけるのね!」
「どんなものがダンジョンであたしらを待ってるか楽しみだな!」
「……ワクワク」
免許証を手に入れて期待に胸を膨らませていると、雨宮がやってきて、声をかける。
「えー、ではこれをもって本日の事務作業は終わりです。この後、探索者ギルド設立の前祝を行わせていただきます。会場を用意しているので再び移動となりますが、何かご質問ありますか?」
「あ、じゃあいいですか雨宮さん。質問ではないんですけど、ちょっとした物を持ってきたんです」
「おや、秋彦君か。どうしたんだい?」
声をかけて、前に出る秋彦と優太。
「えっとですね。実は先日初級ダンジョンに入ってみましてですね」
「おお!? 早いね……突破レベル25のはずなのに勇気あるなぁ。それで?」
「はい、俺らそこで宝箱ゲットしまして」
ギルド内の空気が変わる。ざわざわと話声が聞こえてきた。
「ほう……中身を持ってきたのかな? それとも宝箱を丸ごと?」
「宝箱自体は持ってきませんでした。あれ、チュートリアルの時に持たせてもらったマジックバッグみたいに、入れられる物の量と見た目の大きさがあってないタイプの物だったんですが、宝箱自体がめっちゃ重くてですね……」
「肉体力380で重量挙げもLv3持ってる秋彦でもきつかった位ですから、なかなか持って帰れるものではないと思うんです」
「……続けて」
「で、中身を一部持ってきたんですが……気になったのはこれです」
そういってキャリーバッグを開けて持ってきたものを出す。
魔石と6種類のポーション。そして妖精商店。
「……これは?」
「まず魔石。これは様々な魔力のこもった魔石。魔法の触媒になったり、自然エネルギーとなったり、用途は様々らしいです。というかアナライズしてもそういう風にしか出てこなかったんですよね」
「……自然エネルギーに?」
「まさか……新エネルギーの可能性?」
「あり得ると思う。よくわかんないんですけど」
「これ、研究機関に買ってもらえませんかね?」
「……凄い値になりそうだなこれは……新エネルギーを含んだ物質なんて、今の日本は喉から手が出るほど欲しいはず。ダンジョンができる前からこの国はエネルギー事情には苦しんでいるからね……」
「……これが……!」
「あの、舞薗さん、近い、近いから」
いつの間にか魔石を広げた机に嚙り付いて、奪い取りそうな勢いで魔石を凝視している。
「……一つ頂戴?」
「いや、分かった、分かったから。一つな。で、次なんですが……このポーション類。これ、怪我専用、魔力専用、マジックポーションの強化版、毒消し、パワーアップと病気用のポーションだそうで。どれもマジックポーションよりも効果が上で、専門的に分かれているのもありますし、俺らは今後こっちをメインに使った方がいいかもしれんです」
「そうか……やはり入門より初級の方がいいアイテムが手に入るのか……」
うむむと考え込む雨宮。
前回の魔物の氾濫でも、ポーションの飲みすぎで腹を壊した人というのは実は優太だけに限らず結構いたらしい。より効果の高いポーションはよりポーションの摂取を抑えることができる。魅力的な代物だ。
「で、最後。このドールハウスに見えますが、これ、ドールハウスじゃなくて妖精商店っていう店みたいなんですよね」
「店? これが?」
「ええ、説明文には、妖精商人の展開する商店。店員の妖精商人を呼べば、カネーと引き換えに様々な商品を購入できる。店員を呼ぶにはおちょこ一杯分のはちみつを用意し、レジ前の呼び鈴を鳴らす事。ってありまして」
「ふむ、カネーというのはダンジョン内で拾えるこの硬貨の事かな?」
「おそらく……俺らもまだ起動させてないんで」
「そうか、ならこれは……とりあえず起動させてみたいな……はちみつあるかい?」
「おちょこも持ってきてます」
さっそくおちょこにはちみつをたっぷり入れてカウンターにあるベルを鳴らす。
「はーい、こんにちはお客様! この度は妖精商店の発見及び設置誠に……あら?」
ベルを鳴らした途端、リカちゃん人形に羽が生えたようなモノが、突然何もない空間に現れてテンション高めに挨拶してきた。そして周りを見回す。
「あらあら? これはいったいどういう事でしょうか、お客様がこんなに一杯? わたくしの店を発見した方はどちら様でしょうか?」
「あ、それは俺らだ。でも、俺ら二人だけだと持て余しそうだから、探索者ギルドに設置して皆に使ってもらおうっていうことにしたんだ」
「なるほど、そう言う事でしたか。なら一つお願いが。妖精商店をお使いになるときは一人、あるいは一チーム一杯はちみつをくださいませ。サービス料、チップのようなものとお考え下さい」
「ふむ、なるほど。皆それでいい?」
全員が頷いた。
「了解しました。皆さん納得しています」
「ありがとうございます! では改めまして……オホン! はーい、こんにちはお客様達! この度は妖精商店の発見及び設置誠にありがとうございます! この妖精商店では、ダンジョンの中で拾えはするけど、なかなか手に入りづらい魔法の装飾品やポーションなどの消耗品をカネーと引き換えにご提供させていただきます。まずはこちらをお受け取りください!」
そういって妖精が指を鳴らすとポンッ! という音と共に、どこからともなく分厚い本が現れた。
「これは【妖精商店のカタログ】です。その中に書いてある品物をこの妖精商店で取り扱わせていただいております。店頭に並べたいのですが、大きさの都合上どうしても並べきれないものが多いので、カタログという形で失礼します」
カタログを覗いてみると、いろいろな項目があり、例えばポーションには、先ほど秋彦が持ってきたポーション6種類を筆頭に喉の調子をよくするのど飴や、一回差せば一定時間暗い中でも物が見えるようになる目薬なんてものもあった。
装飾品には、毒、麻痺、眠りといった状態異常を無効にするアクセサリー。スタミナや魔力の自然回復が早まるチェーンなんてものもあった。
探索道具の項目には、無属性魔法のアナライズと同等の効果を撮影することで得られる【アナライズカメラ】や、周辺に魔物などの敵がいると大声で知らせる【警戒人形】更に秋彦達は持っている、見た目は小さいバッグだが、大量の物が入る【マジックバッグ】などの便利アイテムが並んでいた。
カタログを回し読みして、探索者達から驚きと喜びの声が上がる。
「こんなとんでもない物が店で買えるってのかよ……」
「はい。カネーがあればご提供いたしますよ!」
「うわぁ……すっごい……!」
「あ、そうだそれで聞きたいんだけど、カネーってこれの事でいいんだよね?」
雨宮はそう言いながら、ダンジョンで拾える硬貨を見せた。
「はい、それで間違いございませんよ」
「これは一枚につき一カネーという計算でいいのかな?」
「……えーっと、そこからですか。ではご説明させていただきます!」
そこから妖精商店の店員がカネーについて説明し始めた。
自分たちが持っている物はすべて同じカネーだと思っていたが、実は大きさや材質によって種類があり、それによって価値が変わってくるらしい。たまたま全員が同じ価値のカネーしか持っていなかっただけだったようだ。
店員はカタログの最後のページにある、カネーの写真を見せながら説明してくる。
自分たちが持っているカネーは、価値が二番目に低い【百カネー硬貨】らしい。五十円玉程度の大きさの金貨のように見えるが、金ではなく、別の鉱物らしい。
それより上なのが【一万カネー硬貨】であり、百カネー硬貨を一回り大きく、具体的には百円玉くらいだが、それを真っ白にしたような見た目だ。
更に上なのが【百万カネー硬貨】となり、こちらは五百円玉くらいの大きさので、色は黒となっている。
最後に最も価値の高い硬貨として【一億カネー硬貨】と言う物になる。五百円玉を一回り大きくした虹色をした硬貨だ。こんな色の鉱物があるのかと思いたくなるような見た目だ。
ちなみに一番価値の低い硬貨は【一カネー硬貨】であり、十円玉と間違えそうな、銅貨のような見た目の物だった。
なお、カネー硬貨のデザイン自体はすべて同じであり、表にはハトのような鳥が描かれており、裏にはよくわからない葉っぱの絵が描かれていた。
「結構種類あるんだな……」
「カタログにカネーの説明もあるのか、ならとりあえず迷うことはなさそうだ」
「カネーの両替も承りますのでよろしければどうぞ」
そこまで確認して、各自自分たちが今どれだけカネーを持っているのか数え始めた。
秋彦達も数えに入る。
どうやら大体の探索者が、1万カネー前後所持しているようだ。秋彦達は一万と千カネー持っていた。
妖精商店の基準で言えば、大けがを治すヒーリングポーションは二百カネー。魔力の枯渇を治すウィザードポーションは五百カネーとなっている。ここら辺はお手頃だが、装飾品がかなりお高い。
例えば毒無効の装飾品は、なんと一つ十万カネーにもなるらしい。効果を考えれば当然と言えば当然なのだが。まだまだ手に届きそうにない。
「では皆様、何かお買い上げになられますか? 初回ですし、今回だけはこのはちみつ一杯で皆様全員と商いをさせていただきます」
その言葉に一瞬の間があった後に、探索者達が店員に殺到した。
たとえ装飾品には手が届かなくても、ポーションや探索道具には買えるものもある。手に入れておきたいものはたくさんだ。
当然悲鳴を上げる店員。
「お、押さないでくださいお客様! 逃げも隠れも致しませんし、在庫がなくなるなんてこともありませんから、ああー! お客様ああああーーー!!」
少し可哀想だが、自分が言い出したことだ。自分で何とかしてもらおう。
「しかしこれ、今後はちみつ必須ですよねここ」
「うん。ちょっとこれは政府に経費として落としてもらって、妖精商店用のおちょこ一杯分のはちみつを単体商品としてここで売るようにしてみようか」
「そうですね。はちみつとか自宅から持ってくるの面倒ですし」
「うん、ではそうしようか」
………………………………
「ま、またのご利用を……お待ちしております……」
すっかりもみくちゃになってボロボロになった妖精商店の店員が、その言葉を最後に消えた。
探索者達は強力なポーションの買いだめが出来てほくほくだ。
中には一万カネーで買えるマジックバッグを買ったものもいたらしく、テンションが高い探索者の姿もある。
ざわつく探索者に雨宮が声をかける。
「よし、では皆さん。予想外の収穫で、ちょっと時間が押してしまっている。改めて、探索者ギルド設立前祝の会場に案内します。それでは付いて来てください!」
皆様からのご愛顧、誠に痛み入ります。
これからも頑張っていきますので、ぜひ評価感想の方を頂戴したく思います。そうしたら私はもっと頑張って作品を展開できますので。これからもどうぞ、よろしくお願いいたします!




