第三百六話 ㈱北村建設
累計PV数611万突破いたしました!
これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
「どうもどうも南雲さん、ご無沙汰しとります」
「どうもこちらこそ、地方都市奪還作戦以来ですかね?」
「ああいえ、奥方様とはよくお会いしておりますよ、こちらとしてもお得意様ですんで」
「ああ、そういえば会社関連で色々お世話になってるとかそんな話もあったか。失礼致しました」
「ささ、ここで立ち話で済む話ではありませんわ。こちらへどうぞ」
「おっとっと、こりゃどうも。では、失礼させて頂きますよ」
ライゾンから後で業者が来ると言われて4日後、秋彦とジュディは北村建設からの連絡を受けて今日改めて住居のリフォームについて詳しい話を聞く事になったのだ。
そして詳しい話を聞くとして、説明の為この場に来たのは……多くの傷が刻まれ、ただでさえの強面がより恐ろしげになっている顔に、がっしりとした体格。黒いスーツをビシッと着こなしており、隙のなさが印象に残るだろう人物。
「しかし、まさか貴方が来るとは思っていませんでしたよ、霧島さん。九州の会社がこっちに支社出すってなった時に副支部長になったんですって?」
「ああいや、その、お恥ずかしい。多分今のあっし……じゃなかった私ほど副支部長としての仕事をしていない副支部長なんていやしませんよ。土方上がりの探索者で、右も左もわかんないってのに、顔が売れているから関東の探索者とコネ結んでついでに仕事とってこいってこっち放り出されたんでさぁ」
「あらら、やっぱり探索者関係の建築物なら真っ先に名前が上がる様になったこともあって人手が足りない感じですか?」
「ええ、お陰様で。というかこっちも急に全国展開の商機だ、旗揚げすると言われた時にゃあ流石に社長の正気を疑いやしたがね。探索者としての鍛えた体と余らせてたDPを学術的地力とかに急遽振って何とか事なきを得ている感じですな、はっはっは!」
「お、お疲れ様です、はい」
元九州における探索者の最強の一角であった北村建設魔物対策課のリーダー、霧島龍。人呼んで【地獄の昇り竜】その人だ。
今は北村建設がこちらに支店を出すとなった時に、探索者としての横つながりの多さを見込まれて副支店長としてその腕を振るっていると聞いたことがあるが、世間話から漏れ出た乾いた笑い声が苦労を伺わせるというものである。自分も社会に出たらこうなるのだろうかと、学生としてまだ社会に出たことのない秋彦が一抹の不安を感じてしまうのは無理からぬ事だろう。
「さてさて、そろそろリフォームのお話の方をさせて頂きましょうか。まず一階部分は前の家から部屋の位置関係は変えておりません。玄関入ってすぐ左手には縁側がありますし、大広間もそのままです」
「お、よかった。実はこの間取り結構気に入ってたんだよな」
「もちろん万一の避難所として使えるように大広間や風呂にキッチンなどは以前のものと比べかなり広くなってます。トイレも元から二つあった様ですが今回主に追加する2階部分に一つ追加して全部で三つとなりますよ」
「そうね、万一の時に人が増えるとなったらそこの争奪戦はキツくなっちゃうものね。そこは必要だわ」
「そうでしょうそうでしょう。で次に家の素材などについての説明なのですが……」
そして霧島と秋彦、ジュディの話は続いていった。
…………………………………
そうして霧島から説明を受けること数時間。ある程度家のリフォームについて具体的な日にちや目処がたった頃には、陽が落ちるのも冬だけあって早く、辺りはすっかり暗くなりかかっていた。
「ありゃいけねぇ。もうこんな陽が落ちる時間か。結構急足で説明したつもりだったんですが、すみません」
「いえいえ、必要な事でしたし、話を聞いていて楽しかったですよ」
「しかしおっかない値段だ……自分用の防護施設みたいなもんだからと言われりゃ納得できる金額ではあるんだけど」
「いや、これだけの値段が個人で払えるとは素晴らしい、さすが今最前線を走る探索者、夢がある」
「はは、そんな俺らでも流石にこの金額は懐が寂しくなりますって……」
「我々としては懐が温まって有難い限りですな、はっはっは」
豪快に笑い飛ばす霧島を恨めしそうな顔で見てもどこ吹く風である。さすがは営業マンと言ったところか。
「おっと、そうだ。今日はもう一つ伝えなきゃならんことがあるんですよ」
「あら? 改まってどう致しましたの?」
ジュディの言葉から一瞬間を置いて、霧島は先ほどまでの営業スマイルを引っ込め、真剣な表情で話を始める。
「こっからは探索者としてのお話ですぜ。最近この辺りにも闇ダンジョンと闇ギルドが出来ている噂が出回り始めてやす」
霧島の言葉を聞いた秋彦とジュディの表情も険しくなる。
闇ダンジョン。以前もライゾンから話があったが、どうやらライゾン達の敵がライゾン達の作ったシステムを悪用して作った手軽にダンジョンに入る免許を持たない、持てない様な悪党が使用できる様にしたダンジョン。
出てくるものも人々の欲を刺激したり殺人、窃盗などの良からぬ行為を助長するような道具だったりと碌なものが出ないろくでなししか使わ無いようなダンジョンと、そこで手に入る物を専門に扱う探索者ギルドである闇ギルド。
そんなものが近くにあっては間違いなく地域の治安の悪化は避けられないだろう。
「ほう……どこからそれを?」
「まあ、あっしらにもツテが色々ありやしてね」
「あ、そう言えばあなた方ってそっちの方々って噂あったみたいだけど、あれ本当なんだったんですね」
ふと気になって話の出どころを聞いたらはぐらかされてしまった。
その態度をみてそういえば以前ライゾンから聞いた話を思い出した。曰く北村建設は社会の裏口なのだと、裏には有名な反社会勢力がいるのだと。
一応それまでもそういう噂はあったが、ギルドも事実無根と言っていたし、何より今まで積極的に関わり合いになれる場所にいなかった為スルーしていたのだが。
「おっと、そっちのあっしとはあまり関わり合いにならん方がいいですぜ。今のあっしはあくまで北村建設の霧島であり、皆さんのお友達でもある探索者の霧島なんですからね」
「ええ、こっちも喧嘩売りたくてこんな話し出したんじゃ無いので。でも、同じ探索者としての頼みなのですが、根城わかったらマンハント系の依頼としてこっちに寄越してくれません? 俺の地元でふざけた事する奴がどうなるかは俺がきっちり教えますんで」
笑顔で霧島に話すが明らかに怒気が隠れていない。地元に自分の預かり知らぬところで裏だの闇だのが出来たことが腹立たしくて仕方ないようだ。
「……わかりやした。こっちとしてもそっちの方が手間や苦労がなくていい。こういう依頼はマンハントとしてギルドからも依頼が来るんで見逃さない様にしてくだせぇ。マンハントは人と人とが殺し合うから、あんまり人気ないんで普段は全部こっちでもらっちまうんですが……むしろ先にとって回す様にしやしょうか?」
「すみません、できればそうしてもらえると助かります」
「いえいえ、こちらこそ。これからも良いご関係でいやしょう」
「ええ、建設業者としても探索者としても」
玄関で行った握手は、どちらも力強く固いものだった。
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次回の更新は1/10(月)とさせていただきます。宜しくお願い致します。




