第二百九十四話 中級ダンジョン 一階層目ボス 後編 1
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これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
「はあああああぁぁ!!」
ジュディが金色の壁を盾から放出し、一気にメイド羊たちの元に突っ込む!
銃を持っているメイド羊はその壁に向かって発砲するが、壁が壊れる気配はない。
「すごいなこの魔防壁! ていうかいつの間にこんな強くてでかい壁を一人で作れるようになったんだ?」
「今ちょっと思いついた事を試しているの。ぶっちゃけていえばぶっつけ本番。この魔防壁がどこまで通用するか……試させてもらうわ!」
抑えられない高揚感を原動力に、魔防壁は更に厚みを増し、走る足はさらに速くなる。
だが敵も手をこまねいている訳では無い。銃では止められないことを判断すると、二体の大剣持ちのメイド羊が前に出てジュディの魔防壁に切りかかる。
流石にその程度ではびくともしないが突進の速度は鈍る。そしてその機を逃がすまいと銃を持ったメイド羊2体が魔防壁の範囲外から回り込りこもうとする。
ジュディの魔防壁も流石に部屋の端から端まで届いている訳では無いので回り込まれれば銃弾は届くだろう。このままでは先ほどと状況が変わらなくなってしまう。
「く……この! 私あんたたちの相手したいんじゃないのよ、あっち行ってよ!」
「ああクソ、どうする……?」
どうしたものかと頭を抱えていると、後ろから声がかかる。茜だ。
「……遠距離攻撃の撃ち合いをして一体づつ動きを抑える……1対1で正面からかいくぐれる?」
「おー、ほっほう。成程ね」
それを聞いて秋彦は瞬時に理解する。
この状況を打破する為には両方とは言わずともせめて片方は秋彦が抑え、倒してしまわないといけない。だが3体の繰り出す銃での遠距離攻撃をかいくぐるのは難しい。
そこで後方の優太と茜がそれぞれ別のメイド羊に攻撃を繰り出すことで、攻撃は撃ち落とされようと注意を引き、一対一の構図にしようと言う魂胆らしい。
大剣持ち2体はジュディが抑えているし、銃持ち3体を1体づつ抑えれば1対1で切り崩せるかもしれない。
ただし1体とはいえ向こうは銃で攻撃をしてくる。
元々秋彦はただの拳銃なら飛んでくる銃弾を掴み取ったり摘み取ったりすることは可能だし、そもそも通常の銃での攻撃では何のダメージにもならない。地方都市奪還作戦の時にも銃を試しにやったことはある。眉間に打ち込まれても文字通り痛くもかゆくもない程度だ。
その秋彦が目では銃弾を追いきれないことや危険感知で危険と感じると言う事はやはり只の銃ではないのだろう。だがここで勝負できねば一気に崩されてしまうだろう。何せ今優太と茜が行っている最後方のコマ・シープ・ディーコンの呼び出してくる、数が揃うと一気に眠らせに来るスリープ・シープの駆除の手を止めてメイド羊の掃討にあたろうと言う話なのだ。手早く、速攻で片を付けねばこちらが窮地に立たされてしまう。
ここが正念場か。腹をくくって秋彦は槍を構え直す。
「わりぃ、ここ任せる」
「分かったわ、手早くね!」
秋彦の様子を見たジュディも笑顔で答える。そして秋彦は後ろの優太と茜に声を掛ける。
「おっけ、やってやろうじゃねーの。二人とも足止め頼む! 出るぞ!」
「任せて!」
「……頑張って」
「うおおおお!! 勝負だああぁぁぁ!」
その言葉とともに秋彦は魔防壁を飛び出し、二匹の大剣持ちメイド羊を通り越し、一気に加速して、回り込まずに正面に残って魔防壁の解除に備えていた銃持ちメイド羊との距離を詰める!
回り込もうとした2体の銃持ちメイド羊はすぐに秋彦に照準を合わせようとするが、即座にそれぞれ優太と茜の魔法攻撃と弓矢の攻撃を撃ち落とす。
「やらせない、付き合ってもらうよ!」
「……勝負!」
そしてその様子を見た大剣持ちメイド羊。表情の変化は分からない物の剣に籠る力が鈍ったように感じた。
「あらよそ見しちゃ駄目よ、二匹でようやく止められてるのよ。頑張って止めないと、もっと距離詰めちゃうわよ?」
脅しをかける様にささやくと魔防壁を押し戻そうと大剣に籠る力が戻ってきたように感じる。これで抑えとしては上々か。
そして秋彦はダンジョンが中級ダンジョン仕様として生み出した強力な銃相手に真正面からの勝負を挑んでいた。
一発目は足元の地面を抉り、二発目は頬をかすめ、三発目は肩に直撃したが鎧が受けた。
三発目の銃弾の威力から察するに、やはり受けられないものではない。だがやはりこの銃を通常の銃の様に眉間に食らったら間違いなく死ぬだろう事は感じ取れた。やはり死が可能性として挙がってくると恐れの感情がせり上がってくる。指先がしびれ、震えるような感覚があるのは、秋彦が人間らしい感覚を失っていないからだろうと再認識させられる。
だが、一度攻撃を受けたことによってスイッチが入ってしまった。
痛む肩を抑え、はらわたの奥底にしまい込んだどす黒い感情があふれ出そうになっていた。頭が赤く、或いは真っ白になるこの感覚。もうすでに何度も味わった、地方都市奪還作戦のグレイトアンデッドドラゴンとの戦いでも味わった、冷静な判断を砂浜に指で書いた文字を波がさらって消してしまうがごとくに拭い去ってしまうこの感覚。
「痛ってぇな……ああ上等だ。上等だよクソッ垂れ! テメーらまとめてジンギスカンにしてやる、テメーだけは特別にミンチにしてハンバーグにしてやる、テメーだけは只じゃ済まさねぇ……よくも、よくも。よくもよくもよくもよくもぉ! ぶっ殺してやらぁああおわあああああ!!!」
秋彦が冷静さをかなぐり捨て、吼えた。
銃に対する恐怖という秋彦が持っていた人間らしさも秋彦が持っているスペシャルスキル、怒りの暴走が取り去ってしまったのだ。
怒りの暴走、敵から攻撃を受けると、攻撃力が大幅に上がる代わりに攻撃を受けた相手を倒すか味方からなだめられるまで止まらなくなる。ある意味でデメリットスキルだ。
だがこれも戦いの際に感じる恐怖といった感情を取り去るという意味ではメリットのあるスキルなのかもしれない。本人の理性が飛ぶので恩恵は感じづらいかもしれないが。
だがこうなってはもはや秋彦は止められない。四発、五発、六発と銃による攻撃をかすめ、或いは受けても止まらない。
しかし理性をなくした状況であったがだんだんと体に攻撃を受ける頻度は確実に減り、そしてとうとうメイド羊の元に到達した。
秋彦は目の前にいて尚発砲しようとするメイド羊の銃を裏拳の要領で打つ!
当然それで銃を取り落とす事は無い物の体制を崩すには十分だ。崩れた体制は秋彦にとって非常に掴みやすかった。
秋彦は持っていた槍を地面に突き立てると、体制の崩れたメイド羊の持っている銃を両手で掴み取り、その体制のまま胴に蹴りを叩きこむ!
蹴りの威力に勢いよく吹き飛ばされるメイド羊。その手には、銃は握られていなかった。
そしてメイド羊が手に何も持っていないことに気付いた時、メイド羊は頭を射抜かれていた。
かつて自分が持っていた銃によって。
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