第三話 ダンジョン
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辺りの日がすっかり落ちてしまい、街灯に照らされた道を歩く大男ともう一人、右腕に包帯を巻いた、先ほどまでパンツ一丁だった秋彦の親友。
先ほどまであの不良たちと起こした喧嘩騒ぎの事情聴取と後始末を終え、帰路についている。川沿いの一本道が学校の駅に一番近い。土手それなりに大きい土手で街灯もあるので道に迷うことはないが、静けさが、肌寒さと相まって、少し震える。
「すまんな親友、付きあわせちまって。証言があれば連中を退学にできると思ったんだが、結果、停学止まりになっちまったし」
「むしろ助かったよ、本当に……」
「あんなむちゃくちゃやられて……やり返すなり逃げるなりすればよかったのに」
「僕じゃ歯向かってもやられてもっとひどい目に合わせられるのが関の山だよ……僕弱いんだから。いつもゴメンね」
「親友は俺が体デカくなって、ビビって誰も近寄らなくなっても普通にしてくれてたしな」
「秋彦がいい人なのは知ってるからさ」
「俺だってお前がいいやつだってのは知っているさ。嫌なもんだな全く。そうだ、親友の家によっていいか? 飯を食いたい」
「おごり?」
「馬鹿、ちゃんと金払うよ。中華の赤龍の常連だからな。当然」
まだ入学して一週間もたっていないのにあんなステレオタイプの不良に目をつけられ、早々にいじめのターゲットにされたのには流石に驚いたが、まあある意味いつも通りともいえる。
悲しいことだが、優太は虐められ慣れている。それを秋彦が追い払うところまでがテンプレートなのだが、何度見ても優太がひどい目に合うのは秋彦としては心が痛む。
秋彦にしてみれば、体がこんなバカでかくなっても変わらず接してくれた数少ない人物なのだ。大切にしたい。仲良くしたいのが偽りない本音だ。
弱い優太が強い秋彦を取り込んだだの、虎の威を借る狐だの言われたりしているというのだからたまらない。中学を卒業し、高校に入学し、やっと心機一転と思った矢先にこれだ。真面目に優太には何か呪いの類でもあるんじゃないかと秋彦は思い始めている。
「まあでもあれだ、でももうそれが俺の存在意義みたいな気もしてるしな」
「僕からしたら堪ったもんじゃないけどね、いつもありがとう、親友」
「おうともさ、これからもよろしくな親友」
そういって互いに拳を突き合わせる。
「あいつらもあれで懲りてくれりゃいいんだがな……ああいうのがいるとわかった以上登校が一緒に出来ないのはちょっと辛いか」
「ま、まあ通学路とかは結構学生たちの目があるからさ……」
「ボイスレコーダーとか、小さいカメラとか用意しとくか?」
「お金がかかるのはちょっとなぁ……何とか安価で父ちゃんたちに心配かけないようなものはなんかない物かなぁ?」
「うーん、注文が多い。だがそうさなぁ……あん?」
「ん? どうした……の……?」
優太のこれからの学園生活を死守するために二人で知恵を出し合っていると、秋彦達に生暖かい風が吹いた。高校に入学し、通い始めて1か月半、まだ風は寒い時期だというのに不自然に生暖かい。
風が吹いた方向に二人が目をやると、そこには大きな穴があった。
大きな穴というよりは洞窟のような感じだ。あたりはもうすっかり暗いが洞窟の中は不自然に明るい。まるで洞窟の壁がわずかに発光しているかのようだ。
だが、それにもまして不気味なのは
「……こんな穴さっきまであったか?」
「い、いや。こんなのあったら街灯で気づいてる。さっきまでは確かになかったよ?」
「だよなぁ、なんだこれ」
そう、先ほどまでは確かになかったのだ。突然に洞窟が自分たちの真横にできたとさえ思える。
明らかにおかしい。明らかに不気味なはずの物なのだ。
「な、なあ。ちょっと入ってみねぇ? なんだろう、こう……ワクワクしねぇか?」
「秋彦も? 実は僕も、なんか入ってみたくてしょうがないんだ。まるで……なんだろう、僕らの冒険がここから始まるって感じ……不思議だ」
「よ、よし、ちょっと入ってみっか」
「うん!」
普段の秋彦なら、警察に通報しようという場面のはずだ。そしてそれに優太が同調する。
仮に秋彦が入ろうといっても優太は間違いなく止めるはずなのだ。
なのに二人はまるで疑うことなく、不気味どころかワクワクしながら洞窟の中に入っていってしまった。
まるで吸い込まれるかのように。あるいは誘蛾灯に誘われた虫のように……