第二百八十五話 中級ダンジョン 睡眠
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
デーモンベビーが手下の魔物を呼び寄せた時よりも大きく声を上げる。そしてそれに呼応するかのように呼び出した手下の魔物がこちらに向かってきた。つまり戦闘開始である。
だが、今の秋彦達には余裕さえ感じる。
「はは! いつもなら雷光突きの一撃で終わらせるところだが、今日のところは遊んでやるぜ、さあどう出る?」
秋彦の言葉に触発されたのか手始めに攻撃を繰り出して来たのはくるみ割り人形のような見た目をしたおもちゃの兵隊だ。手に持ったマスケット銃の銃口を、秋彦ではなく茜に向ける。
だが、その凶弾が撃ちだされる瞬間も、その後さえ秋彦達は動かなかった。
「……遅い」
茜はその一言と共におもちゃの兵隊が撃ちだした凶弾を、最小限の動きで交わし切る。
秋彦達はだれも凶弾に狙いを定められた茜を庇えなかったのではない。庇わなかったのだ。すでに茜はその程度の速度の物などものともしないと理解していたからだ。
「……不思議、中級ダンジョンにいる魔物の攻撃がこんなに簡単にかわせるなんて」
その自分の成長に一番戸惑っているのはむしろ茜本人かもしれない。
本人も遠距離アタッカーとして攻撃力に磨きをかけていたし、増して回避なんてジュディというタンク役が最初期から一緒だったこともあって、相手から喰らう攻撃はあまり意識したことはなかった。
なのに初見の相手の遠距離攻撃を難なくかわしたのだ。正直これには茜自分が驚いた。
「……お返し」
新調した新装備は巫女服ではなく多少雰囲気が違う物の秋彦達が最初に出会った時の様な正統派の弓道着だ。道着に胸当、足袋といった和装で全身を包んでおり、結んだ先が地面にまで届きそうな程に長い鉢巻をしている以外は弓道着と言える装備だ。
その茜が和弓を引き搾って矢を放つ!
おもちゃの兵隊はその矢を撃ち落とそうと再び銃を撃つが矢を撃ち落とす事は出来なかった。
茜の矢がそれだけ強力だったのか、はたまたマスケット銃という狙いが付けにくい銃には酷な話だったのかは分からないが、撃ち落とせなかった事は相手にとっては正に致命的だった。
寸分たがわず放たれた矢は狙い通りにおもちゃの兵隊の頭を粉々にした。これがもし人間だったらと思うとぞっとする程に鮮やかな一撃だった。
「おいおい一撃かよ……今回の俺たちの目的分かってるか?」
「……分かってる、しくじった。まさかこんなにもろいとは思わなかっただけ。次はうまくやる」
さりげなく物騒な事を言っているがそれも仕方のない話だ。
このデーモンベビーとその配下たち。戦闘力は多く見積もっても1万未満だ。おもちゃの兵隊だと大体戦闘力7,500といったくらいだろうか。配下としてはトップクラスだが、秋彦達と比べては明らかに格下だ。
忘れている人たちがいるかもしれないがこのチーム、秋彦を除いて尚平均戦闘力10万の化け物揃いの面々である。戦闘力にして10分の一以下が相手なのだ。正直この戦闘欠伸が出る程に格が違う。
だがそれでもなお一旦相手の様子を見るのは中級ダンジョンに仕掛けられているかもしれないギミックを見極めようと言う所から来ている。今の秋彦達のレベルなら欠伸が出るような戦いだが、まあじっくり見極めるとしよう。
次に動いたのはボールの魔物だ。高速で跳ね飛びながら速度と威力を増していく体当たりを食らわせるつもりらしい。こういうのは速度が乗る前に拘束を行う魔法や道具で捕まえてしまうのが定石だが、今回はあえて最後まで攻撃せず、相手が攻撃を仕掛けて来るまで見届けることにする。
天井に壁に床に、体を叩きつけながら尚加速し力を増していく姿は、普通ならば本気で焦るべき光景だ。恐らく初級を突破したばかりの探索者では一撃で粉砕されてもおかしくないレベルである。
そしてその速度と力を持った体当たりがついにさく裂した。相手に選んだのは……優太だ!
「よーいしょっと」
だが今の優太にはそんな初級制覇したての探索者を一撃で殺すに足る一撃を、体力のない子の放ったドッジボールの玉を取るかのように易々と掴んで見せた。
前衛ではない、後衛の優太である。この時点で既に勝負は決まっていたとさえ感じる瞬間だった。
「うーん……検証やるにしてももっと下の階に行かないと不毛かもしれないな……おお?」
だんだんと退屈になってきたところで頭に違和感を覚える。こめかみが少し痛む、というよりざらつくようなこの感覚は覚えがないタイプの物だがなんとなくわかる。これは無効になっている状態異常攻撃を受けている感覚だ。
無効になってはいても状態異常攻撃を受けている時は攻撃を受けている自覚は出来ると言うのは情報収集をしているときに知った事ではあるが、実際に受けてみることでより実感を得られると言う物である。
この頭の痛み、もといざらつきの元はすぐにわかった。デーモンベビーだ。
デーモンベビーの持っているガラガラの音だ。あのデーモンベビーは前衛を壁にして後衛からガラガラの発する催眠音で状態異常の眠りを付与するスタイルらしい。
そして眠った相手を集中攻撃するという訳か。
戦法としては基本に沿った戦い方ともいえるが、流石に戦力差がありすぎたと言うべきか。もはやこの戦いから得るものなしと見切りをつけ、戦いを終わらせにかかるとしよう。
ここでもたもたしていてもいいことなどないとはっきりわかったからだ。
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次の投稿は4月17日午前0時予定です。
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