第二百七十九話 中級ダンジョン 生まれ行く装備
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すっかり暗い話題で場の空気が重くなっていると、ビーカーになみなみと注いだ秋彦の血がビーカーから無くなっていた。
「おお、俺の血が全部怨呪骨に吸い取られたみたいだな。これで加工の第一段階は終了だ」
「てか秋彦いつの間に自分の血なんて抜き取ってたわけ?」
「ああ、知り合いの薬剤師、と言うか看護師免許持っている人に採血してもらったんだ。ナイフで腕切っても良かったんだけどやっぱりまだまだ度胸が足りなくて……」
優太の問いにさらっと答える。どうやら自分で血を抜いたのではなく、採血が出来る人から血を抜き取ってもらったらしい。
しかしそうなると気になることがある。
「え、秋彦にそんな知り合いいたっけ?」
「喜瀬川さんだよ。ほら、浪速商人連合で俺と同期の御霊具持ちの人だ」
「え、あの浪速商人連合の!?」
思わぬところで名前が出てきて驚くジュディ以外の全員。そんな交流があるのは知らなかったのだ。ジュディだけが冷静に思い出した。
「ああ、思い出した。交流会で糸魚川さんと漫才みたいなやり取りしてた女の人ね?」
「そうそうあの人。あの人実家の薬屋さん継ぐまでは看護師やってたんだって。採血はお手の物だって快く引き受けてもらっちゃったよ」
「あれ? でもあの人の実家ってお薬屋さんじゃなかったっけ?」
「そうそう、薬剤師の一家なんだって。元々家業を継ぐ気はなかったらしいんだけど、事情が変わったとかで、今は薬剤師の免許取るために探索者と並行して大学入り直してんだってさ」
「ふーん?」
事も無げにいう秋彦。優太はとりあえず納得はした様だ。だがこの後に話を続けたのはジュディだ。
「にしてもあの人とそんなことを頼めるくらいに気安い仲だったの……?」
「あの人相手にはあの後も何度も龍角散売ったりしてるからな。必然的によく話したりするんだよ」
「いつの間にそんなやり取りをしてたの……?」
「別に隠れてやってた覚えはないんだがな。それに覚えてないのか? あの人今の俺の家に来たこともあったぜ? あいさつしただろ?」
「そ、そういわれればしたような……あの時は日本支店の立ち上げとかで忙しかったから……」
秋彦のあまりにも後ろ暗い思いが無いような言葉に思わず思い出そうと記憶をほじくり返そうとしてしまう。
当時マクベスコーポレーションの日本支社立ち上げの為にあちこちを奔走していたのは今から二か月近く前だ。
その頃はあまりの忙しさに記憶さえ定かではなかったが、あの時期からすでにそこまで深い交流があったのかと思ってしまう。
「あのなー、あの人とはただのビジネスパートナーってだけなんだからそんな嫉妬する様なことなんか何もないぞ?」
「な、し、嫉妬なんかしてないもん! 知らない間に取引相手を増やしていたのがなんか悔しかっただけだもん!」
「はいはい、じゃ、そろそろ次の工程行くぞー」
尚も噛みつかん勢いで食って掛かるジュディを軽くいなし、秋彦は自分の血を吸った4つの怨呪骨を手に取る。
手に持つ怨呪骨は血を吸って間もないからか、まだしっとりとした感触を持っている。ここに一気に火を入れて、硬く強く形成しなくてはいけない。
あらかじめ暗黒の種火を使って小さく火を着けておいた暗黒の炎を使用して、骨を一つ一つ、炙るようにゆっくりじっくり熱していく。その様は黒い炎に熱せられて血と魔法力で赤く染まった骨が更に魔法力を帯びて、素材から装備に変わる瞬間を見ているかのようであった。
骨一本にたっぷり十分以上をかけて、時々圧をかけ、アクセサリーになるように曲げて、炎で形を固定することで形成していく。
おどろおどろしい炎で骨を曲げながら形成されていく様は、呪われた道具を作るかのような儀式のようであり、またその一方で手際の良さから芸術品の作成を見ているかのような気分にもさせられる。
そしてある程度形になった所で暗黒の炎に炙られて赤黒く変色した骨を、水の中に静かにいれる。
この水は秋彦が今回の装備を作るに当たって用意した【悲しみの水泡】という物である。一見水泡とは程遠いただの水に見えるこの素材。ビーカーに入れられると猶更ただの水にしか見えないが、赤黒く変色した骨がこの水に入ると普通の水同様、熱せられたものから熱を取ろうと、泡を立てて蒸発しつつも骨の熱を奪っていく。
だが、熱せられ、蒸発していく際に生まれる泡が消えてなくならずに宙に放たれていくのは予想しえないことであるはずだ。
「うわわ?! な、なんだこれ!?」
「これはレシピ本によると闇属性の魔法力と水属性の魔法力が深く混ざって生まれた魔法力のエネルギーらしいぞ。結構たくさん出たけど、この泡を割って骨入りのビーカーに戻していかないといけないんだ。これこそが怨呪骨の焼き入れに最も適した水であり魔法力なんだとさ」
そういいながら秋彦は串を使って浮いて出た泡をビーカーの上で破裂させ一つづつ丁寧にビーカーに戻していく。割と手慣れている様子である。
そしてビーカーの水に沈んだ骨を取り出し、秋彦は満足げに頷く。
「さーてと、これと同じことを後三回繰り返す。気の長い事ではあるが峠は越えたから、もうちょい付き合ってくれ」
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