第二百六十七話 迫るその時 サレンダーの有効活用法
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「ってことがあった訳」
「あらあら……また随分平和ボケした人たちがいるのね」
その日も一日が終わり、秋彦とジュディは奥のリビングでお茶の時間を楽しんでいた。ジュディが大量に紅茶葉を買うので一緒に消費を手伝っているのだ。
そうは言っても手伝うまでもなく最悪一人で消費してしまえるのではないかと思う程に普段からジュディは紅茶を飲んでいるのだが、これも二人のコミュニケーションの時間なのである。
「全くだよ、俺もモンスターキラーズも散々言ってんだけどな、困ったもんだぜ」
「でもそういう人って一定数いる者よね、周りから何を言われようとも自分がじかに痛い目に合わないとわからない人って」
「それに関しちゃ同意だわな。この手の馬鹿は一定数いるもんだ」
ため息交じりにイチゴの粒が入ったジャムをスコーンの上に乗せて齧る。
現在の話題はもっぱらHRで騒いでいた三匹、もとい三人の探索者の事だ。やはりどこにでも一定数そういう馬鹿はいるらしく、ジュディ達も苦労しているようだ。
「嫌よね、先生がとりあえず止めてもその後って空気悪くなるんですもの。被災した人たちの心情なんて全然考えてないんだから、やんなっちゃう。その後大変だったでしょ?」
「ああ、あの馬鹿共にモンスターキラーズがマジで喧嘩吹っ掛けそうになってたからな。空気なんてもう最悪よ」
正直あの後のクラスは思い出したくない程に殺伐としていた。
あの馬鹿三人はろくに自分が被害にあっていないことや、今のところの日本の探索者達が好調であることからおめでたく思っているのだろうが、そもそもダンジョン自体は資源として利用できるだけで大量殺戮の元凶であることには変わりないのだ。
あのクラス単体であっても、モンスターキラーズを筆頭とした取り返しのつかない物を奪われ心に傷を負った者。
あるいは取り返しのつく範疇であった物のいまだに被害を取り戻せない者も数多くいる中であのお気楽発言はあまりにも軽率だ。しかも何度もやっているのに本人たちの自覚が薄いのだから割とこうやって空気を悪くしたことは多い。
「え、ちょっとそれは流石に……」
「まずいと思ったからサレンダーかけながら仲裁した。笑顔でお互いやめにしようぜって言ってサレンダーかければ大抵収まるからな」
だからこういう時は秋彦の出番である。
秋彦はこのクラスの探索者に関して全員巣立ちまでの面倒を見ている。このクラスは全員アキーズブートキャンプの卒業生なのだ。
そんな存在がサレンダーを以ってなだめているのだ。その後暖簾に腕押しとはいえ、三人をちゃんと叱ることでなんとかその場を収めているのだ。
だがここでジュディの頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
「え、サレンダーって相手を降参させる無属性魔法でしょ?」
「ああ。相手に圧かけて降参させる、つまり相手の心を折る魔法だからな。頼み事しながら使うと、ここは引くか、みたいに引いてくれたり言う事聞いてくれるんだよ。まあ人間関係も折れかけるから多用は禁物なんだけど」
面白くなさそうに話す秋彦。
サレンダー、魔物にかけると自分よりも戦闘力が低い場合のみ魔物が逃げ出す魔法だ。運がいいとその魔物固有の素材かアイテムを落としていくときがあると言うだけの魔法だ。
だがこれを人間相手に使用すると、相手よりも自分が強いと相手が臨戦態勢であっても戦う事を止め、逃げ出していく。
普通に使うとただ相手がおびえて逃げていくだけの魔法なのだが、この魔法を頼み事をしながら使うと相手の心は頼みごとに対しての反抗心が折れるらしく言う事を聞いてくれることが多い。
その場が加熱していて言葉による説得が効かないような状況において、無理にでも矛を収めさせたいときには効果的な魔法である。
「そんなに便利なものだったのそれ!?」
「俺も最初はそんなつもりじゃなかったんだけどさ。あまりにもこういう事が頻発して何度も使ううちにわかったんだよな」
尤も、親しい人相手に使ったら後でちゃんとフォローなりケアなりしないと後の人間関係にヒビが入るので使用は計画的に行わなくてはならない。
結局はこんなものは脅して言う事聞かせているのと同じなのである。一旦その場を引かせたら、ちゃんと使った旨と話し合いをして闘いを回避させたかったことは伝えないと後の遺恨になる。親しい友人達だから茹だった頭を冷やさせるような使い方も出来るが、だからこそその場を引かせたらちゃんと説明と話し合いを行わなければならない。
親しい人を脅したままケアも無しに放置なんてことをしたら事実上の縁切りに等しい行為だ。モンスターキラーズだけでなくクラスメイトは皆一様に秋彦にとっては優太以外に出来た友人達でもあるのだ。こんな形で失うのはあまりにも悲しい。
「そういう訳で、ケアさえ怠らなければ人間関係にヒビも入んねーし最近で一番使ってる魔法かもしれねー」
「そうなの……」
秋彦の話を聞いている間、ぽかーんとした様子のジュディ。返事にも驚きから来る惚けが抜けていない。
「ジュディ? どうした?」
「ね、ねぇ秋彦? 悪いんだけど、サレンダーの魔法石を作ってもらえないかしら? 私もね、色々折り合いがつかない相手がね?」
「ダメに決まってんだろ! ジュディの場合喧嘩の仲裁だけで済むかどうかわからないし! 会社相手の取引でこれ持ちだしたらまずいだろ!?」
「いいじゃない、これで受けないならもうだめって言っても足元にすがって恥知らずなことばかり言ってくる連中なんて。面の皮が厚いったら!」
「いやいやダメだって、気持ちは分かるがもうちょっと温厚にだな……」
紅茶か茶菓子片手に過ごす夜。二人の夜は始まったばかりである。
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