第二百六十五話 迫るその時 限界の思い込み
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事の発端になったのはレインボーウィザーズ全員そろって南雲さん家のバグダンジョンの探索を放送していた番組が終了した後だった。
「しかし、所詮バラエティーだよなこれ。俺らの苦労よりも面白おかしくダンジョン探索する所ばっかり紹介されてるし」
「こういうのも相まってあたしらの期待もますます大きくなってるよねー」
「……でもあれ以降あまり戦闘も行っていない、そこら辺の依頼もめっきり減った」
「人が足りていることは素直に喜ぶべきなんだけどね。僕たちもおかげで元々の稼業に専念できてるし」
地方都市奪還作戦、今でいう第一次人魔大戦後に探索者達は数もレベルも大幅に上昇していた。地方や一つの市町村に探索者が一チームでもいればいい方だったのも今は過去だ。
あの時のグレイトアンデッドドラゴンを降しての魔物からの国土奪還はそれだけインパクトがあったと言う事だ。
高校生、大学生、社会人だって多くの人々が探索者になるべく志願をし、試験を突破しようと日々努力している。
そしてそのおかげで探索者人口はさらに膨れ上がったが、同時にそれは探索者に対しての依頼がなくなると言う事でもある。以前は依頼がガンガン舞い込んできて日本の治安維持やレベル上げの為にダンジョンに潜り続けていたが、依頼がなくなって、自然とダンジョンに潜る機会が減って来ていた。
「以前は依頼なんて掃いて捨てる程あったのにね」
「後さ、レベルアップに対するモチベーションがちょっと無くなって来てるよね?」
「あ、あー、それ言っちゃう? 確かになんかレベルの上がり悪くなってるよね」
そして次に話題に上がったのは自分達のレベルの上がりが悪くなったことに対する愚痴だった。確かにレベルの上がりの悪さもモチベーションの低下を招いている。
確かに秋彦でさえ地方都市奪還作戦以降にレベルは上がっていない。地方都市奪還作戦前にレベルが30に到達している人々は確かにいたが、それ以上はあまり見なかった。
それにグレイトアンデッドドラゴンはあんなに強かったにもかかわらずあの一戦でレベルが上がった人はだれもいなかった。レインボーウィザーズのメンバー全員でさえ地方都市奪還作戦後にレベルアップした人は秋彦以外一人もいない。
しかも今の秋彦の狩場はあの狂ったレベルのバグダンジョンだ。数体倒しては逃げて数体倒しては逃げを繰り返しているあのダンジョン。それでもオークを狩りまくるよりもだいぶ効率的である。
「もうレベルはあそこじゃないと上がらねーしな。地方都市奪還作戦後のレベルって俺32だったんだけどさ? オーク何千体ブチ殺してもレベルあがりゃしねーのにダーク・ボーパルバニーを数体やれるようになったらきちんとレベル上がるんだもんさ。おかげで俺の家に移したあの宝箱の中身今殆どオークの肉になってんだけど。全部売ろうとしたらジュディに止められちゃうし」
「そんなことしちゃったらオークのお肉が値崩れしちゃうじゃない! だめよ絶対、あれはしばらくは定期的に売りに出して、追いつかない分は身内だけで消費するわよ」
「はいはい」
実際に秋彦はあの後東京地下鉄ダンジョンでオーク相手にレベリングを行ったのだ。
その結果、途中で秋彦がマジックバッグにオークの死体を入れるのが嫌になるまで同士討ちをさせた物の、結局レベルは一つも上がらなかったのである。
「でも気を抜いたら死ぬようなとこでのレベリングってのもちょっと流石に嫌気がさして来たし、大体そんなんしてるくらいなら基礎トレーニングしてた方が有意義なんだよなぁ」
「「「「基礎トレーニング?」」」」
秋彦のさりげない一言にその場の全員が喰いついてきた。
「おう、探索者になる前も俺は空手やってた事の延長線で基礎体力作りに探索者基準でクッソ重い錘持ってのランニングとか筋トレとかしてるんだけどよ。案外自分の身体って常識に縛られて本来の戦闘力を出し切れてない部分があるんだよな。例えば俺、もう普通の自動車どころか中型トラックも持ち上げられるんだぜ?」
その言葉に全員がぎょっとする。中型トラックは車両総重量7.5t以上11t未満だ。つまり今の秋彦は誇張でなければもう重機を持ってこなければ持ち上げられないようなレベルの重さの物を持てると言うとこになる。
「い、いや流石にそれは盛りすぎでしょ……」
「……人間が持てる重さじゃない」
桃子と茜が冷静に誇張表現を戒めようとする。だが秋彦はそこにさらに突っ込む。
「そうそれよ茜、常識で考えりゃんなイカれた重量なんて持てっこねーよな? そういう思い込みが自分の力を無意識にセーブしちまってるんだ。たぶん魔法力の開放も肉体の持つ力も、タダでさえとんでもない俺らだけどまだまだ十分に扱いきれてねーと思うんだわ」
「そ、そうなのかしら?」
秋彦はうんうんと頷く。
「俺だってこんな修羅場を潜り抜け続けなきゃ考えもしなかったと思うんだがな、気づいちまえば後は簡単、徐々に徐々に、どんどんと自分に負荷をかけながら基礎トレーニングをして、自分がどこまでやれるのかを把握するんだ。俺の見立てじゃこの中で一番肉体力無いモモでさえ1tくらいなら普通に持ち運べるんじゃねーかな?」
「え、あたしが!? あたし純後衛のマジックキャスター、バードだよ!? 肉体力大したことないよ?」
突然話題にあげられて困惑する桃子。しかも常識はずれな事を言われてしまい、猶更である。だが秋彦は尚も冷静に告げる。
「そうは言ったってお前だって装備無しでも肉体力1万あっただろ? じゃあ重いとは思うだろうけど行けるはずだ」
「え、う、うっそー……」
驚愕のあまりへたり込む。茜の腕は女性らしい細さであり、一般人男性が抱きしめただけで骨が折れそうに見える程だ。
その細腕で1tを重いながらに持てると言われれば流石に現実が受け止められないのも仕方ない事だ。
「まあそんな感じで自分の中の常識に縛られて案外戦闘力を十全と生かし切れてねーところがある訳だ。そういう所の常識から解放されることを、錆落としがてらやっといた方がいいんじゃねーの? 最低でも自分の装備を無しにした素の戦闘力がどれほどの物かを慣らしていく試していった方がいいと思うんだわ」
そうして秋彦が普段行っている基礎トレーニングから更にそれぞれの能力の傾向から行うべきトレーニングを秋彦が考えてプログラムをそれぞれに組んだのだ。
今は負荷を一日ごとに強めて自分がどこまでの重さ、負荷に耐えられるかを試しつつ、自分はここまでできると言う限界を見極めているのである。
このトレーニングが本当の意味で実を結ぶことになるまであと少しである。
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次の投稿は2月16日午前0時予定です。
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