第二百六十二話 北沢さん家の特殊ダンジョン 今後の処遇
累計PV数452万突破しました!
これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
「は、は、は、はーすっきりしたー!」
晴れやかな笑顔で大声を上げる秋彦。
そこにはもはや荒し放題にされた結果面影すらなくなった畑と大量の野菜だけがあった。収穫祭を存分に楽しんだことが見て取れると言う物だ。秋彦もかなり2Wave目でフラストレーションがたまっていたことが見て取れると言う物である。
「っとと、言ってる場合じゃねぇ早く回収をっと……」
慌ててアイテムの回収を始める秋彦。戦闘自体は装備のおかげも相まって楽だったものの、溜まりに溜まったフラストレーションを発散するかのように戦った秋彦は魔物が倒した際に変化した魔物素材に手を付けていなかった。踏んでしまったとかそういったことはないので、早い所回収しなければ。
しかしそう思った瞬間秋彦に青い光がまとわりつく。秋彦はこの光に見覚えがあった。
「え、帰還石の光!? 待った待った発動してないし、何より報酬を回収してねー! ぎゃー! ホント待ったホント待った!」
突然のことに慌てて抵抗しようとするも虚しく、秋彦は突如別の場所に移動してしまった。
転移してしまった後で秋彦は思わず頭を抱えてしまう。
「最悪だー! まだ野菜とか全然拾ってなかったのにー! って、あれ?」
移動した先はダンジョンの外……ではなく小部屋だった。だが見覚えのある物があることで状況を理解した。
見覚えのある物とは小部屋の中には巨大なディスプレイと大理石で出来た台座だ。いつもダンジョンの最奥でDPを受け取るときによく見る物。と言う事は……
「まだダンジョンの中ってことでいいんだよな……? あ」
そう考えた秋彦の目に見落としていたものが飛び込んできた。宝箱である。
順当に考えればこれが今回のダンジョン制覇のお宝なのだろう。リザルトも大事だが、とりあえず秋彦は宝箱を開ける。
「ああ! これって!」
中に入っていたのは大量の野菜。恐らくさっきの転移で拾われなかったものがそっくりそのままここに入ったと思われる。そしてそれとは別に違う道具も入っていた。それは……
「太古農家シリーズの装備一式じゃねーか……」
そう、今回のダンジョンで最後の最後に大活躍をした植物魔物特攻を持つ装備の一式だった。つまりこれからも植物魔物が来たらドレスアップリングでの早着替えで一気に仕留められるようになったと言う事だ。これは正直地味に大きいのではないか?
「……まあ兎にも角にもおやっさんとこに戻らないと……」
道具の回収も無事に終わったところでリザルトを確認し、秋彦は早々とダンジョンから外に出る。
………………………………
「「うんめー!!!」」
八百屋の北沢、その店先で秋彦と店主が手に入れたばかりの魔物を倒して手に入れた野菜の試食会を行っていた。
「何これ、今まで喰ってた野菜何だったの!? 腐ってたの?!」
「こんな極上の野菜初めてだ……こんなものが世にあるなんて!!」
二人が絶賛しているのは【魔界トマト】というトマトの魔物を倒したことで手に入ったトマトである。何の味付けもなくまるかじりしただけだったのにこれが信じられない程に美味い。驚くべきことであった。
「しかしまともに戦えば戦闘力が10万越えの敵と相対するのか……」
「おう、戦闘力十万って言ったら地方都市奪還作戦においては一都市部の開放の際に出て来る共食い強化済みのラスボス魔物レベルだからね。正直この装備が無ければ数も考えれば俺だって生きて帰れないレベルだ」
最後の階層だけは特攻ありきで考えられた階層であるからこその狂った戦闘力と考えられないこともないが、あの戦闘力の水準は確かに異常だった。このダンジョンはこのアイテムによってさらに人を集めるであろうことは目に見えている。
しかしそんなとんでもない物がダンジョンから手に入ると言う事は一つ確認しなくてはならない。
「なあ、北沢のおっちゃん、このダンジョンでこんなもんが出てきた以上、もうダンジョンに依頼で氾濫を抑えてもらうどころの話じゃないってのは分かるよな?」
「……勿論わかるよ秋ちゃん」
「じゃあ、それを前提としてだ。このダンジョン、どうするつもり?」
この質問はダンジョンが発生した土地の持ち主なら遅かれ早かれ選択を余儀なくされる質問だ。ダンジョンは多くの恵みをもたらす一方一歩間違えたらその場一帯が死に絶える劇薬の様なものだ。扱いは慎重にしなくてはいけない。
勿論野菜の魔物が野菜のダンジョンアイテムとして出る以上北村さんも利用したくてしょうがないだろう。でもかといって土地の所有者に対して有利過ぎる条件を提示すれば探索者はこのダンジョンから離れていくだろう。
要するに秋彦はこのダンジョンに対してどういった形で落とし所をつけるかを聞いているのだ。
一言に落としどころと言ってもそのつけようはいくらでもある。
例えばダンジョンに入る際に入場料を設けたり、ダンジョンで手に入れるアイテムの一定数をダンジョンの管理人となる北沢さんに譲り渡す。はたまたダンジョンの氾濫を鎮める事だけを目的として地域専属探索者に依頼するなど、対処は様々だ。
その上で北沢さんがどうしたのかを聞いているのだ。そして北沢さんはゆっくりと話す。
「やはり……僕としてはこのダンジョンがもたらす多くの野菜を売って探索者向けの目玉商品として売り出したいよ」
「うんうん」
「でも全部買い取る余裕がある訳じゃないし、それに独り占めする様な事をしたらきっと探索者もいいようには思わないよね?」
「当然だね」
一つ一つ確認するように考えを吐き出す北沢さん。急転直下な展開に頭の理解を必死に間に合わせようとしている様にさえ感じる。
何せ北沢さんから言わせれば、ある日ある時何の前触れもなく自分の敷地内にドル箱が降ってわいたような物だ。取扱注意の飛び切り危険なドル箱を。
「だ……だめだ。今すぐどうこう結論出せないよ……」
「そう……雨宮さんにこの事を話しておくから、落としどころの付け所を探ってみて。これは俺らにとってさえ重要な事だから、慎重にね?」
「……ワカッタ、ありがとう……」
憔悴した様子が声からもにじみ出ていた。くれぐれも早まった判断を下さず、落ち着いて結論付けてほしい物だが。こればかりは北沢さんの胸中次第であるとしか言えないだろう。
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次回の投稿は2021年2月7日午前0時予定です。
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