第二百六十話 北沢さん家の特殊ダンジョン 潜入調査!
「さてと……勇ましく啖呵切ったはいい物の……」
かくして秋彦は覚悟を以って北沢さん家の特殊ダンジョンと言うべき場所に足を踏み入れた。
足を踏み入れるに当たり、ダンジョンが用意した指定の装備に身を包んでいる秋彦は、まさに農家と言うべきスタイルだ。洞窟の様な暗いトンネルを進んでいたらいつの間にか装備と道具が消失しており、代わりに全く覚えのない武器と防具を装備していたのだ。
装備が消失したことは別に焦っていない。この手の特殊ダンジョンで最初に消失したアイテムはダンジョンから出ると元に戻っているという情報はすでに得ているからだ。
全体的に茶色の和服に蓑に笠で身を包まれたスタイルに、盾もなく、鎌と鍬だけ持たされた形である。古き良き古にいた日本の百姓の姿である。
ここがダンジョンでなければ、かつての日本であればこの後すぐにでも稲刈りや畑を耕しに行けそうなスタイルである。
「なんだこりゃあ……この姿で、今から野良仕事にでも行けってか?」
だが、今回ダンジョン指定の装備として用意されたものもそう悪くはない。これは逆に言えば「この装備でも踏破は可能である」とダンジョンから告げられているも同然だからだ。
恐らくダンジョンの用意したギミックに逆らわず順応しきれれば探索者の勝ち。そして順応できなければダンジョンの勝ち、と言う事なのだろう。
「まあいい、とにかくやってみるか」
改めて意気込んで秋彦はダンジョンに入っていく。そして暗いトンネルを抜けて秋彦を待ち構えていた光景は……
「は……畑……?」
そこに広がっているのは一面の畑であった。だが、しばらくじっと見て違和感を覚えたので秋彦は作物にアナライズをかける。そして出てきた結果に秋彦は納得したようにうなずいた。この畑はただの畑ではないと理解したのだ。
野菜に果物。いろいろなものが育てられている。それ自体は不思議なことではないが、いくら何でもトマトを植えている列に続けてイチゴやニンジンなんてでたらめな順番で植えられている畑などあるはずもないだろう。育てられている物も順番もあまりに雑多過ぎて、正直一瞬畑かと思ったが違うと思い、改めてしっかり見て畑だと言う結論に落ち着いたくらいには畑に見えなかった。
秋彦はこの時点でもしやと思い装備にアナライズを掛けてみる。
【太古農家の鎌】
≪今は遥か昔の農業家が使用していた太古の鎌。この鎌は長年作物と言う名の植物を斬る事に使われてきた事で、植物を切ることに特化されている。如何なる植物であろうともこの鎌の前には一刀両断されることだろう。
肉体力+200
魔法力+100
特殊効果:
収穫斬りLv5(アクティブスキル。この技で植物属性の魔物に攻撃すると威力が5倍になる)
特殊能力:稲刈り(この武器を使用した際に植物属性の魔物に攻撃すると威力が100倍になる)≫
手に持っている鎌の能力を見た時に予想が当たりにやりと笑みがこぼれる。
そして他の蓑に笠、着物に至るまですべてアナライズした時に確信した。この装備はすべて揃うと植物属性の魔物に大きな特攻効果が表れる。鎌だけでも威力が100倍になっていたが笠や蓑、着物に至るまで植物属性特攻効果があった。
この一式の装備鎌の上昇肉体力はたったの200だったが、特攻効果に一式をそろえた効果まで付随され、何と植物属性魔物相手ならば戦闘力200万を超える超絶倍率に跳ね上がったのである。
「すっげーな。こういう装備も世の中にはあるってことなんだな!」
思わず感動してしまう。
本来この装備の総合的な戦闘力の上昇は1000もいかない程度でしかなかったのに、植物属性相手ならば封印開放状態の秋彦でも到達し得ない領域に足を踏み入れている。
まあそうでなければ特攻と声を大にして言えないと言うべきか。いずれにせよこの装備を以って戦えと言うのだ。恐らく相手は植物属性だろう。
このダンジョンでは盛大に無双させてくれると言う事か。ワクワクしてきてしまう。
ところが、畑を覗いていた秋彦はその予想が盛大に外れてしまったことを思い知る。何せまだろくに育ってもいない畑の葉っぱを食い荒らす芋虫の軍勢を見かけてしまったからだ。
「わあああああ!! 何さらしとんのじゃおらぁ!!」
どこの言葉かもわからない脅し言葉で害虫駆除を行う秋彦。とっさの行為ではあったが、秋彦の直感スキルも「この畑を荒らされるのはまずい」と告げていた。
だが今秋彦が持っている鎌は植物属性魔物に強力な特攻を持っていてもそれ以外の魔物にはほぼ役に立たないレベルの強さしかない。
増して秋彦は鎌を扱う為の戦術スキルも持っていなかった。とすると今槍を持っていない秋彦には残された選択肢は多くなかった。
「クソ、いやだがしょうがない!」
そこで秋彦は考えを変える事にした。
武器が役に立たないなら武器を使わなければいいじゃないかと。つまり素手での戦闘である。
芋虫と言えどそのサイズは指でつまめるような大きさではない。手のひら一杯にむんずとつかまなければ一匹取り除くのも苦労しそうなサイズの芋虫なのだ。だが選択肢の少ない秋彦には迷う余裕すらなかった。
秋彦は思いきり芋虫を手でつかんで土にたたきつけ、息のある虫を更に踏みつけてとどめを刺す。
「うおおおおお!!! 駆逐してやるううううう!!!」
………………………………
そうして秋彦は見事芋虫の大群相手に勝利を収めていた。
正直秋彦のレベル30の戦闘力を持ってるからなんとかなったと思わせる様な内容だった。
それにしても驚いた。まさか特殊ダンジョンにおいて用意された装備が全く持って役に立たないとは。
「装備が純粋に足かせになるダンジョンもあるんだな……」
だが、感心もつかの間だ。
すべての芋虫を退治したら、急にあたりが暗くなり、畑の作物が大きく育ち始めた。だがこれも今の秋彦なら何となく何が起こったているのかが分かってくる。
「1Waveが終わったから、2Wave目ってことか……もしかしてこのダンジョン階層ってこの一階層だけだったり?」
そうして畑に実りが青いながらも出来始めてきたとき、次の敵が見え始めてきた。
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次回の投稿は2021年2月1日午前0時予定です。
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