第二百五十九話 北沢さん家の特殊ダンジョン 八百屋の北沢倉庫のダンジョン
累計PV数437万突破しました!
これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
それは唐突に起こった。
季節は12月。そろそろ中級ダンジョンが世に現れる頃合いであり、そのことで世間が、探索者達が浮つきつつも緊張感を以って準備を始める頃合いだ。
秋彦達の住む関東圏では雪はなかなか降らないが、降ってもおかしくなさそうな天気の日だった。
秋彦はいつも通りに学校での授業を終え、家に帰ってからこれから何をしようか考えていたころである。
レア掘り、骨加工、依頼の受注など、やれることもやりたいことも盛沢山だ。何をしようか迷っていた。
時間は授業が終わってすぐのテレポーテーションを使用しての帰還なので午後3時ちょっと過ぎ。まだまだ夕飯どころかおやつの時間で、一日を終えるには早すぎる時分である。
「今日は何しようかなー……」
なんていう独り言が口から出てきた次の瞬間だった。突然インターホンが鳴り響いたのだ。こんな日、こんな時間にこんなタイミングで一体なんだと思ってインターホンのカメラを見ると、よく見知った人物がひどく焦燥した様子、あるいは不安げな顔で門の前にいた。
それを確認して秋彦は応対する。
「はいー? どうしたの北沢さん?」
『ああ! 秋ちゃんいたのか! ごめんちょっと話を聞いてもらいたいんだ!』
「ちょっと待ってて今門開けるから」
そこにいたのは仲町商店街で八百屋を営む、八百屋の北沢店主だった。
あまりにも慌てた様子に門を開ける言うとすぐに家の門に向かう。こういう時に門があるのは少々不便である。門を開けるとやはり焦燥感を募らせる店主の姿があった。
そしてその後に一体何があったのかを店主から聞いたのだが、その話に思わず白目をむきそうになった。
………………………………
「うわ……うわぁ……本当にダンジョンじゃねーかこれ……」
「やっぱり? ダンジョンだよねこれ……」
八百屋の北沢の裏手、普段八百屋の北沢が倉庫として使用しているプレハブ小屋だが、今このプレハブ小屋が異様な変貌を遂げていた。
なにせドアを開けるとそこから魔法力が充満した空気が外に出てきたのだ。明らかに普通じゃない。と言うかこの感覚は、探索者なら誰しも覚えがあるダンジョンにいるとき特有の代物だ。どう考えても八百屋の北沢の倉庫はダンジョンと化していたと言わざるを得ない。
「いったいなんでこんなことに?」
「そんなの俺が知りたいよ! 秋ちゃん、何とかできない?」
「やっぱり心当たりないか。つってもなぁ……」
秋彦がダンジョンについて情報収集をしている中で、ある日何でもなかったような場所が突然ダンジョンになっていたと言う話もあったが、まさかこんな近くでそんなことが起こるとは思ってもいなかった。
「とりあえず最低限湧き潰しはしとかねーと……」
「そ、そうだった! 自分の敷地内でダンジョンが出来たら土地の保有者が管理人になるんだった! 秋ちゃん何とかしてー!」
「だー! くっつかないでおくれよおっちゃん! にしてもなぁ……兎にも角にも中を見て見ないと……」
だが正直全く未知のダンジョンとあっては警戒せざるを得ない。いくら初級を突破し、戦闘力も装備含めて20万前後ある秋彦であっても、ダンジョンの傾向次第ではどうなるかわからない。
秋彦は取り敢えずダンジョンウォッチでこの新しくできたダンジョンを探す。
そして探し当てた時、最悪の懸念が当たってしまったことに肩を落としてしまう。
「な、なんだい秋ちゃん、どうしたんだい?!」
「おっちゃん……いいたかないけど、ここ【特殊ダンジョン】だわ……」
「と、特殊ダンジョン……?」
「ああ……これは面倒なことになったぞ……」
思わず頭を掻く秋彦。
特殊ダンジョン。それは、書いて字の如く特殊なダンジョンだ。なにせ、ダンジョンに入るための条件があるのだから。
それは例えば決まった装備での攻略だったり、ステータスがダンジョンの定めた基準値以内に収められたりと。通常では考えられないような物ばかりである。
地方都市奪還作戦及び、第一次人魔大戦後に現れるようになったと言うこの特殊ダンジョンは、ダンジョンの定めたルールにうまく適合できればレベル関係なくクリアできる物の、ルールに適合できなければ明らかに格上の探索者でも死人が出るという話が上がっており、ある意味一番ホットな話題となっているダンジョンである。
そしてダンジョンウォッチに記された条件が、ダンジョンが用意した装備での踏破と言う非常に厳しいものとなっていた。
普段使い慣れている装備からダンジョン指定の装備になるのは、探索者としては非常にいただけない。それはつまり戦闘力による圧倒的暴力が通用しづらいと言う事でもある。装備の戦闘力を頼りにしていては非常につらいダンジョンであると言う事である。
その説明を店主にすると、店主はがっくりと膝を落とした。
「そ、そんなぁ……何とかならないの?!」
あまりにも絶望的な目をする店主だったが、むしろ秋彦はこのダンジョンに興味津々だった。
「何とかするさ。とりあえず俺入ってみるよ」
「ほ、本当?!」
死んだような表情をしていた店主の目に一気に生気が宿ってきた。
「俺の地元の危機だぜ? 地域専属探索者がいるっつったってそいつらが対応できなきゃおしまいなんてさせねーよ。まずは俺が行って中の様子を見て見る!」
「あ、ありがとう秋君!!」
「だー! だからくっつくなって! 大丈夫だよ、俺とおっちゃんの仲だ、タダで行ってみるから。吉報を待っててくれって!」
興奮と気分の高揚から思わず抱き着いてしまう店主を払い除け、秋彦は改めてこのダンジョンの調査を勢いのまま無償で受けてしまう。
尚、このことでジュディに大目玉を喰らうのはまた別の話である。
皆様からのご愛顧、誠に痛み入ります。
これからも評価、ブックマーク、感想など、皆様の応援を糧に頑張って書いていきます。
次回の投稿は2021年1月31日午前0時予定です。
応援宜しくお願い致します!