第二百五十一話 茜の仕事
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
探索者と言う職が世に現れて早半年。荒事が生業である探索者達ではあるが、そんな彼らをさりげなく支え、国がルールとしてその存在を認め、保護をしている。
そして、ここはそのルールを決めたり進言したりする場である。
「やはり、この税金をもっと重くするべきなのでは?」
「あまり税を重くし過ぎると探索者が他国へ行ってしまうぞ」
「だがたった1%でもこの税収の上がり方は凄いものがある……今は復興の為にも元手が欲しい」
「その負担を探索者にさせた結果探索者の人口が減少するのは笑えないと言っているんだ」
「それに我々政治家に対して悪感情を持たれるのは困る。彼らは地域の活性化の要であり、経済を支える柱として成長しつつあるのだ。反発されたらどうなることか」
「うむむ……ならこういうのはどうだ? 例えば……」
今こうして議論をぶつけあっているのは政治家の中でも若手の部類に入る人々だ。通称若手議員の会。政党の垣根を超えて若い議員が日本の未来を憂いて法を議論し合う場である。
現在の専らの議題は迷宮探索法である。
かつて突然世に現れたダンジョンに対抗するために緊急的に出された法律であったが、この法は大幅な見直しが検討されている。
何せ法律が発令された頃はダンジョンが世に一斉に現れ、世を混沌に叩き落していた真っ最中だ。粗削りで大雑把、でも探索者としては最低限確保しておきたい要点を抑えただけの急ごしらえが見て取れる法律だった。
だが、それでもよかったのは単純に法律と言うのは一旦発令したらもう取り返しがつかない物ではなく、法改正によって内容の修正が出来るからだ。
現状にそぐわなければ変えてもいい。故に突貫でもなんでもいいからとりあえず迷宮探索法として提出し、可決された。これが無くては、探索者はその存在を国が認めていないも同然であり、国が認めていないと言う事は、探索者は何も保証がないままに命を危険にさらすことと同じだ。
あの時、舞薗巌議員が提唱した迷宮探索法は、探索者にとっては生命線だった。そしてそれは今でも探索者に対し大きな手助けとなっている。
だがそれも日本がまだ氾濫の影響を受けていたころが基準で作られたものだ。日本の国土から魔物がいなくなったのであれば、それに応じた法にしなくてはいけない。
この場にいる若手議員たちはその観点から迷宮探索法を見直しているのだ。
この国の未来にとっても必要な事でもあるし、国益にもなる。何より迷宮探索法は見直す余地が大量にある上に今注目の議題であることから発言の一つ一つが大きく取り上げられたりもする。つまりこの法に対して発言すると自分の名が売れるのだ。若手の議員にとっては注目を集める大きな好機でもある。
「……だからこそ探索者に対して理解を求める必要がある。探索者の中には国の為ではなく目先の金を目的に命を懸ける人々もいる、税金で持っていかれて不満に思う人は多い」
そして今そんな若手議員達の中で堂々と発言。意見しているのが舞薗茜だ。
現在迷宮探索法に対して的確な発言、改正を提言している巌議員の娘であり、最近ではもっぱら巌劇場などと呼ばれる迷宮探索法に関してのご意見番である議員の事実上の黒幕ともいえる少女。
この若手議員の集まりの中で唯一当選経験が無い、この場においてはゲスト的な立ち位置であるにもかかわらず、その発言力はこの中で一番と言えるだろう。
レインボーウィザーズの一員だからと言うだけではない。この若手議員達の集まりの中でも唯一の探索者なのだ。
この中でも探索者の事情に最も明るい人物であり、その言葉は実態を思い知った人間の発言として周りから受け止められる。
若手の政治家から探索者になった人物がいないので、猶更である。若手であるにもかかわらず政治家と探索者の二足わらじを履いている者がいないのは少々意外かもしれないが、それほどおかしな話でもないのだ。
いくら若手と言ってもそれは政治家の中での話だ。彼らは39歳以下で初当選し、現在45歳未満の議員で構成されている。普通の業界では十分中年層だ。
探索者の中にあっても最高齢はせいぜい38歳。探索者の人口は16から29までと若年層が多い。
その中にあって茜は弱冠16歳。彼らの三分の一程度しか生きていないし、探索者の中でも若い。はっきり言って子供も子供の年齢だ。
だが数多くの修羅場を潜り抜け、文字通り命を懸けて日本を魔物の手から解放した探索者チームの一員である茜は、酸いも甘いも噛分けた老獪な出し抜き合いによって磨かれた政治家達が持たぬ気迫と存在感によって、この場にい続けている。
それこそがこの場にいる他の政治家が欲しくて欲しくてたまらない物だ。戦闘力とそれによる自信。現場を見てきた経験からくる法に対する視点や改善点は、この場にいる誰もが貴重に思う情報である。
茜は今、探索者稼業もそこそこにこういう若手の政治家たちと話し合い、手を取り合って自らの勢力を拡大し続けている。
茜も政治家の娘として世に生まれている。舌戦や相手の腹を探る行為には優れているのだ。それが探索者として成長したことで更にいろいろなものが見えるようになっていた。
今茜はこういった集まりにはむしろ呼ばれる側なのだ。議員となった経験はないにもかかわらずである。
それは将来の大物に対する先行投資か、あるいは牽制なのか。だが茜はこういった場で他の意見を聞ける機会を好ましく思っている。彼らはこの日本の為に討論を繰り返しているのだから。
かくして今日も茜の政治的なコネクションを作り出す会議は進んでいくのであった。
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次回の投稿は2021年1月23日午前0時予定です。
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