第二百五十話 優太の仕事
累計PV数424万突破しました!
これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
「餃子二人前とチャーハン二人前上がったよー!」
「はい、追加でチャーシュー麺とチャーハンを一人前ずつ!」
「はーい!」
中谷商店街随一の中華料理店、赤龍。今日も今日とて店内厨房では注文を読み上げる声と食材を焼き、炒める音で賑わっている。
最近になってようやく店舗の建て直しが終わった事で新装開店したわけなのだが、以前から贔屓にしてくれていた常連と探索者で毎日ごった返している。
店の大きさも客席の数も大分大きくなっており、最大収容人数も大幅に上がって尚店には客でいっぱいだ。
なので最近は優太の活動も専ら忙しい店の手伝いが主になっており、探索者としての活動はなかなかできなくなっている。
正直申し訳ないと思いつつも、優太は鍋を振るこの時間は非常に充実していると思っている。元々優太はこの店の跡取りとして幼い事から料理のイロハを両親から教わってきた。鍋を振る行為は優太の日常であり、この店こそ自分の居場所であることを再確認する大事な行いである。
今でさえ、探索者としての活動と店で料理を作ることを天秤にかけられたら一も二もなく店で料理を作る方に傾く。
秋彦だって、それを薄情だの裏切りだのとは思わないだろう。秋彦もこの店の常連として親しみがある。だからこその選択だ。
「ぶっはー! 美味い!」
「やっぱ赤龍で飯食って酒飲んで一日締められるってのはこの町に拠点を置く探索者の特権だよな!」
「はいよ、餃子とビールのお替りお待ち! ジャンジャン食べておくれよ! んでうちにたっぷりお金落としていっとくれ!」
「おう! あんがとよ女将さん!」
「おっほー! 【赤龍式シリーズ】だ! いっただっきまーす!」
優太の母と探索者の客の会話が聞こえてくる。どうやら赤龍が探索者の為に魔物の食材をたっぷりと使用した赤龍式の料理は今日も客に受けているらしい。
実際売り上げの大半はこの赤龍式シリーズが稼ぎ出しているといっても過言ではない。強くなるうえに非常に美味な魔物食材をふんだんに使用した料理と言うのはどこであっても需要がある。それが料理スキルの高い職人によって生み出されているのだから当然効果も桁違いだ。
実際にこの店でレベルアップする事も割と珍しくなく、食後に自らのステータスを見る探索者は多い。
勿論その分値段は跳ね上がるが、稼ぎの多い探索者達は景気よく注文し、金を使っていく。
成長にも関わるとあれば、命あっての物種であるこの界隈では出し惜しみする様なところではない為か、本当に酒も食事も見ていていっそ気持ちよくなるほどに大量に注文していく。
そうしてみるとこの店はすっかり探索者用になってしまっている様にも思えるかもしれないが実際はそんなことはない。
それどころか探索者に迎合したことで店の料理のクオリティはむしろ大幅に上がったと言える。
「はいよ、ビールと油淋鶏お待たせ!」
「ありがとね女将さん。うちでもやってるけど、やっぱこのオークのラードが入った油で作られた揚げ物は最高だね!」
「揚げる油は赤龍式の物と一緒だからね。分けるのも面倒だし、油の汚れも少ないから助かるよ」
今日も飲みに来ている肉屋の蔵屋敷さんが優太の母と話し込んでいる声が聞こえてくる。
実は一部赤龍式で作成している料理に使っている素材を一般の客に出すリーズナブルかついつもの赤龍の料理として出すものと一部共有していたり、余った魔物食材の端材を一般の客に出す方に混ぜたりもしており、それが料理のクオリティアップに貢献しているのだ。
例えば揚げ物に使う油。これは油にオークの脂身から作成したラードを使用しているが、これは赤龍式と普通の料理と区別せずにすべて同じ油を使用している。
また例えば餃子に使うひき肉。これにはオークのラードを作った後に出て来るそぼろを少し混ぜ込んだりしている。
オークのラードなんていう物は当然まだ市場に出回っておらず市販化されていない以上、一から手作りしなければいけない。
ラードの作り方自体はそれほど難しくはない。
まず鍋に脂身と水を入れ、中火にかける。約10分ほどそのまま熱し、アクが出てきたら丁寧に取り除く。
すると肉の繊維が脂と分離するので、こし器、または編み目の細かいザルを使って肉の繊維を一度こす。
更にふきんやキッチンペーパーを使って、さらに細かくこす。それによってふきんや紙の臭いが消えるのだ。
そうして更にキッチンペーパーでこした物を冷蔵庫で冷やすと、白く固まったラードが完成となるのだ。
肉の繊維が脂と分離したその肉の繊維、それがいわゆるそぼろと呼ばれるものである。
このそぼろはそのままひき肉のようにあんかけに入れたり、炒めてコロッケやメンチカツに入れたりすると美味しいのだが、それを赤龍式の料理ではふんだんに使用している。
そしてふんだんに使用しきり、余ったそぼろは量こそ多くはない物の一般の人の口にも入るのである。
その味は当然絶品であり、赤龍は一般の人にもリーズナブルに魔物食材の恩恵にあずかれる店としてすごく有名になっている。
また、そんな赤龍で料理の腕を磨くためか結構な量の人々が店の従業員として働こうと店にやってきたりもしている。
中には探索者が本業として料理人を目指して弟子として雇って欲しいと言ってくる人までいる。こういった人々の中からすでに何人か雇用しており、この広い厨房にスタッフは石動一家だけではないのだ。
まさに目まぐるしいほどの変化と言えるだろう。
「たった数か月で変わりすぎだよなぁ……」
ぽつりとつぶやく優太であったが、この変化は不思議と嫌には思わない。いかに変化しようともこの場所は間違いなく自分の居場所なのだから。
「優ちゃん! チャーハンと回鍋肉を追加で!」
「はーい! 先に前のチャーシュー麺とチャーハン上がるよ! チャーシュー麺の準備して!」
「はい!」
新たに雇用された従業員に声を出しつつ、今日も優太は忙しく赤龍で鍋を振る。
皆様からのご愛顧、誠に痛み入ります。
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次回の投稿は2021年1月21日午前0時予定です。
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