第二百四十九話 ジュディの仕事
累計PV数424万突破しました!
これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
『いかがでしょう? これほどの大規模な施設は未だ無いはずです』
『ええ、お見事ね。よくぞたった三か月でここまでの施設を作り上げたわね、素晴らしいわトーマス』
『光栄ですジュディお嬢様、いえ、次期社長』
○○県××市、郊外の緑豊かな日本のとある場所にジュディは今来ていた。無論仕事がらみである。
ジュディの父、クリストファーが経営しているマクベスコーポレーションは日本へ、それも探索者業界への本格的な参加を表明して日本の市場へ参戦。
そして今ジュディがいる施設は探索者達が迷宮から持ち帰ってくる魔物素材や宝箱から出て来るお宝を解析したり、探索者達の装備を量産化のために、魔法力の籠った装備を機械による製造を目指す為の研究開発を行う施設である。
一般的に強力な魔法力の籠る道具や装備と言うのは本来スキルを持った職人の手以外では決して手に入らないと言うのが通説であり常識だ。
機械によって量産化された道具や装備に籠る魔法力は総じて低い。使うのはせいぜい入門ダンジョンへ挑戦するレベルの探索者や一般人レベルになる。機械で作られた道具に初級、あるいは中級ダンジョンで通用するアイテムは作れない。それが今のところの魔法の装備、道具における常識である。
だがジュディを始めとした企業は、そんな常識をぶち壊さんとするべくいろいろと動いているのだ。
成程、確かに機械によって量産化された道具や装備に籠る魔法力は総じて低い。それは事実だ。それが風評被害や悪辣な噂ではなく、れっきとした事実である以上、事実は事実として受け止めるしかないだろう。
だが、人間は常にそんな常識に研究を以って立ち向かい、新たな発見と推論に基づく実験によって常識を覆し、新たな事実を見つけ、新しい常識を打ち立て続けてきた。
機械で作られた道具に初級、あるいは中級ダンジョンで通用するアイテムは作れないという常識。今回の打ち破るべき常識もきっと壁は高い。
だがこの壁を乗り越え、あるいはぶち壊すことが出来たなら、その先にある探索者達と企業の未来はきっと明るいものになる。
探索者達には身の安全、命を次に繋ぐために必須の道具を得られ、企業はその探索者達が持ち帰る道具などによって手に入れる金銭を引き換えに得ることによって。
故にその常識をいち早く破壊すべく企業は動いているという訳だ。大企業、大手企業はすでに持てる資産をつぎ込んで研究資金を投資していたり、あるいはクリストファーのように自らの関連会社に研究をさせたりしている。
ジュディが日本にその研究施設を置いたのはレインボーウィザーズとしての活動をするからでもあり、探索者達が他の国よりも一足も二足も早く強くなっているこの日本に拠点を構えることによって、常に本国であるイギリスでは得られない初級ダンジョンの道具を定期的に手に入れられるようにするためでもある。
なんだかんだ言ってイギリスはまだまだ初級ダンジョンを踏破した人間がいない以上、迷宮に関しては後進国である。その点日本は初級ダンジョンを踏破している探索者の数も多い事からその環境には天と地ほどの差がある。
また、そんな初級ダンジョン制覇者から支持を得られれば、それは必ず本国の探索者達からも支持を得られるだろう。探索者のレベルの高さは則ち、求められる道具のレベルの高さと同義だ。だからこそ、腕を磨くには探索者のレベルが高い日本が最適なのである。
『しかしよくこれだけの機材を得ることが出来ましたね』
『はい、機材もそうですが、今回はオカルト関連に秀でた人材も多く雇用いたしました。また、枝野氏のご友人である機械工学に秀でた人材、緒方 紅葉氏の採用にも成功いたしました』
『まあ! と言う事は枝野さんが使っているあの魔法解析装置を作り上げた一人と言う事ね!』
『その通りです。彼もまた、この魔法の業界に興味を持っていたことで鞍替えを考えていたそうでして、お嬢様が次期社長となるこの研究施設の話を持ち込んだ所喜んで引き受けられました』
その報告にジュディは思わず喜んでしまう。
魔法解析装置。当時はなりたてのギルドマスターだった枝野が、師匠である黒部の教えを受け、魔法の力を機械によって感知、解析、計測できるように、他の多方面のオカルト仲間達、同期の黒部の弟子達と共に生み出した装置だ。
作られた当初は半ば趣味の領域であり、大した役には立たないかもしれない物だった。作った本人達もそれでいいと思っていたしその信憑性も正直よくわかっていなかった。
だが、黒部にその出来を「俺はお前たちを誇りに思う」とまで称賛されたその装置は、たちまち今魔法の道具や装備から魔法力を計測するのに欠かせない物となった。
現在は大企業が莫大な金額を支払ってまで購入、あるいはリース契約(長期間借りて利用する契約)をしてまで魔法関連の研究施設には必ず一つはある装置となったのだ。
その制作者の一人と雇用契約を結べたのは僥倖だろう。この装置自体は共同制作なので下手にいじる事は出来ないが、この魔法解析装置以上の装置を作ることが出来る可能性があるのだから。
『いずれにせよ、魔法に関する研究や魔法の道具を作成することは急務よ。わが社のブランドを日本の探索者に広めるの。早ければ早いほどにシェア争いに優位に立てるわ』
『その通りですね。必ずこの異郷の地でも我らの名を世に轟かしましょう!』
『頼りにしているわよトーマス、私は探索者としての活動もあるから面倒を掛けることも多いと思うけど』
『お嬢様のネームバリューを考えれば当然かと。むしろ会社に来てばかりなら私の方から迷宮に送り出させていただきますので』
『分かったわ。でもたまに顔は出すからね。この会社は貴方の会社ではなく私の会社であることを従業員に確認させるためにもね』
毒を吐き合い笑い合う野心家二人。意外と馬は合うらしい。彼らの見据える未来はこうして始まりを告げるのであった。
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次回の投稿は2021年1月21日午前0時予定です。
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