第二百四十四話 仲谷商店街連合
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
「ん~、やっぱオヤジさんのコロッケうめーな」
「おう! あんがとよ!」
コロッケを頬張りながら笑顔でコロッケを提供してくれた店主と話をする。蔵屋敷精肉店の店先で食べるコロッケはやはり格別だ。
この店はカウンターが店の外と中両方にあるタイプの店なので、肉の総菜は外に面したカウンターで、精肉は店の中で取り扱っている。総菜を仕切っているのは蔵屋敷精肉店、店長の蔵屋敷 隆文、通称肉屋のオヤジ。よく赤龍に顔を出しては飲んだくれている人だ。
そして精肉を仕切っているのは蔵屋敷 恵子、通称肉屋の女将さんである。飲んだくれているオヤジの首根っこを掴んで、引っ張って家に連れ帰る光景はある意味地元の名物だ。
それにしても、今秋彦が食べているコロッケ、食材的にはただのポテトコロッケで値段も120円と安めの代物だが、それにしてはうますぎる。まるで魔物食材を食べているような気になる。疑問に思ったので聞いてみる。
「にしてもオヤジさん、このコロッケ120円だったけどただのコロッケじゃねーよな? なんかエネルギーの高まりを感じるけど」
「お! 秋ちゃんってば違いの分かる男だな! この店の総菜はオークの脂身から作ったラードで揚げてるのさ」
「成程、揚げる油変えたのか! 道理で魔物肉が使われてない割に力が漲ると思った!」
「これも集合知の結晶って奴だな! オークや突撃牛を使った揚げ物はどうしても値段を高めに設定せざるを得ないが、これだったら成長効果ありでコストも抑えられるって寸法よ!」
営業努力が見て取れると言う物である。
こういった探索者達だけでなく、元々いた一般人の客にも配慮をするところが賢いご近所付き合いとして人間関係を円滑にしているのだろう。
中谷商店街ではもはや当たり前のように魔物食材が出回っている。まだまだスーパーやコンビニでは全然並んでいる代物ではないし、ショッピングモールでさえ置いているところは少ないが、人情商売で培ってきた個人との繋がりの強さが物を言っている。
なにせ探索者達は組織だっていないので、探索者達とのやり取りは、結局は個人とのやり取りになる。
いい物を置いて探索者達に常連になってもらえれば、多少の買取の安さをサービスで補うやり方はなかなかに有効なのだ。
その最初の一歩である探索者達に常連になってもらうべく探索者達のお眼鏡にかなういい品を揃えるところで、金銭的な理由で躓いていたが、そこを商工会議所や行政がてこ入れを行った事で中谷商店街はいい流れを生み出せている。
勿論この商店街の戦略を真似して商店街を活気づかせようとする流れはあったのだが、探索者達が多く集まる場所である事も前提として重要であることから、成功しているところはあまりないらしい。
「まあそうは言っても流石にラード作った時に出来たそぼろをコロッケに入れるとするとやっぱり値はあげなきゃならねーけどな」
「ずいぶん豪勢じゃん、オークの在庫大丈夫なの?」
「問題ねぇよ、うちもおかげさまで稼がせてもらってるからな。それにうちのバカ息子も探索者始めたしな、依頼とかもしやすい所があるってのはいい事だぜ」
「ああ、【中谷商店街連合】の事? 【地域専属探索者】としていち早く旗揚げした?」
「応ともさ! この商店街の発展と治安維持を目的とした探索者チームの中にうちのバカ息子がいるんだ、正直こんなに誇らしい事はねぇよ!」
「地域専属探索者か。俺らみたいに行きたい所に行っていろんなものを取ってくる探索者も必要ならそういう探索者だって必要だよなぁ」
感心しながら秋彦は最後のコロッケを頬張る。
地域専属探索者と言うのは地方都市奪還作戦が終了後から出てきた探索者の中でも、地元を愛し、地元を守り、地元の経済を回すために結成された探索者達の事を言う。行ってみれば「ご当地探索者」である。
そういう人たちは地域を守る義務からか自分達の近場のダンジョンを、縄張りのように出ようとせず、迷宮から出てきたアイテムもギルドに売り払わず、地元で必要としている人々に売り渡していく。
稼ぐことを第一に考えたら愚の骨頂だろう。しかしそんなことは分かり切ったうえで地元愛故に、自らの損を顧みず地元を守り、地元の経済を回す探索者。それが地域専属探索者である。
一見地元愛に捕らわれて一般的な探索者が持っている自由さと言うメリットをすべて捨てている様にも見えるが地域専属探索者にもちゃんと一般的な探索者が持っていないメリットを持っている。
一つ目はローカルなネットワークによる情報網の強化である。
地域専属探索者はいわば地域の探索者の主だ。当然探索者同士のトラブルにも真っ先に駆り出される。それ故に見知らぬ探索者の情報や自分達が設定した地域にいる有力有名な探索者達を把握しやすくなり、必然的に情報に強くなる。
二つ目は、地域の人々から受けられる恩恵がさらに増える事だ。
その地域の人々から頼られると言う事は、逆に普段頼られている人々を逆に頼っても無碍にはされにくいと言う事でもある。やれる範囲の事であればたいていやってもらえるし多少危なくとも頼みを聞いてくれるケースは多い。何せ地域と地域専属探索者は持ちつ持たれつであり、一方的な関係ではないのだから。
三つ目は行政から受けられる支援である。
いくら地域の人々から受けられる恩恵が増えると言ってもなんだかんだ面倒が増えることも多く、地域の人々といい関係を築けないとただただ貧乏くじになる場合だってある。
そんな探索者達からの不満を軽減する為なのか政府は地域を守り地域に貢献する探索者達に対して支援もするようになった。
活動内容などを報告する必要はある物の、支援を加味すれば自由に探索者活動をしている人々と比べても収入面は大差なくなるくらいには支援されているのだ。
「俺には真似できねーわ、本当に尊敬する」
「まあ秋ちゃんはもっと大きく名前と顔を売ってくれればそれがこの商店街の為になるからそんな風に言わんでいいって」
「ん、ありがと。じゃあそろそろ行くわ。悪いね長々話突き合わせちゃって」
「なーにこうやって秋ちゃんと仲良くしているところを人に見せつける事は俺にとっては店の宣伝にもなるからな。また来てくれよ!」
「おう、ありがとね」
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次回の投稿は2021年1月16日午前0時予定です。
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