第二百四十三話 新生仲谷商店街
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
「さて……今日はどうしようか……」
母を見送った秋彦は一寝入りして、時間は現在正午。
ジュディは渡してあるテレポテーションの魔法石を使ってどこかへ行っているようだ。龍之介とエリザベスの気配も感じられない。恐らく自宅にある林のダンジョン以外のダンジョンにでも遊びに行ったのだろう。
近くにいるからこそ逆になかなか一緒にいられないと言うのは少しもどかしい気もする。とは言えそれならそれで時間の潰しようがあるのであまり考えてはいけない。時間はこれから先もずっとあるのだから。
とりあえず今日は商店街をいろいろ回ってみよう。最近中谷商店街は行政や商工会議所等の手が入ったらしく、色々探索者向けの店舗が増えて、今や日本中の商店街の中でも相当に活気づいていると言えるくらいだ。依頼を出してくれるお得意さんへのあいさつ回りもそうだけど、ついでに食事も商店街で済ませてしまおう。
そうと決まれば早速支度を始める。最近気に入ってよく着ている薄緑色のパーカーと深緑色の長ズボンをはいて、財布にスマホ、家の鍵をもって外へ出る。
「おおー、やっぱりいいねこの【適温調節】効果。半袖なのにちっとも寒くねぇ」
鍵をかけている間に最近自分が手に入れた服の効果を実感する。
晩秋に入ったこの時期、正午と言う事もあって息を吐けば白くなると言う事はない物のコートが無ければもう寒い。だがコートがあると汗ばむ程度には温かいのが困った所である。過ごしやすいのは確かなのだが。
しかし秋彦の今の服装は半袖のパーカーである。明らかにもうすぐ冬も近い季節に着るような服ではない。だが今の秋彦は寒さを感じる訳でもなく当然暑さを感じたりもしていない。
最近では服に魔法の素材を使う事によって、体温調節自在の服が最近高価ながら存在している。それを着れば薄着だろうとほぼ紐の様な服であろうと暑くも寒くもなくなり、常に自分に適した温度になるのだ。コスプレイヤー大喜びの代物である。
ただし加工には素材によっては高い裁縫スキルが要求されたり、素材自体も探索者でもないと相当にお高い。スキルが無くて外注するとなったら掛かる金額はさらに跳ね上がると、いいことづくめと言う事はない。
この服自体は探索者向けの布製品を扱う株式会社カッソロさんからモデルの仕事を請け負った時に頂いたものである。依頼料とモデルをしてきた服もつけてもらっていたのだ。秋彦は割と気に入っている。
現在あの会社は探索者用の服ブランドとしては業界トップクラスである。あのおばちゃん社長、最近大成功を収めた社長としても時の人となっており、ビジネス的なテレビに頻繁に出ているので割と知名度も高めである。出世したものだ。
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歩いて数分。中谷商店街にやってきた。
今日も探索者達で大賑わいである。この商店街は秋彦と優太の地元であり、最近になってジュディまでこの商店街を頻繁に利用する事になってからすっかりレインボーウィザーズ御用達の商店街として知名度を上げている。
今のご時世にレインボーウィザーズ御用達。それがどれほどの宣伝効果を発揮するかなど言うまでもない。この周辺は探索者達の聖地と言っていいだろう。
その聖地にあこがれ、あるいはあやかろうとしてか、この周辺のアパートなどの賃貸はほぼ探索者で埋まっている状態である。そして遠出してまでわざわざこの商店街にやってくる人々だって結構いる。
勿論探索者では無い一般の人だっている。探索者に興味がある人々や探索者の使っている物、食べるものの方に興味があるだけの人だっている。
そしてそんな人々、主に探索者ではあるが、人々の需要と期待に応えるべく探索者でないと手を出さないような物も結構売っているのである。
例えば肉屋では今や探索者向けにオーク、突撃牛といった食用として需要の高い魔物の肉や骨、古本屋ではレシピ本といった具合である。
勿論純粋な素材の買取額ではギルドなどと比べれば劣りはする物の、そこはサービスで還元していくのが商店街のやり方である。
例えば肉屋ではギルドではセルフか、料金がかかる解体の代行を無料で行ったりしているし、古本屋では顔と名前を覚えてもらえれば欲しかったレシピ本が売られてきたらすぐに連絡をしてくれたりする。ここら辺は人情商売で培ってきた個人との繋がりの強さと言う物である。
当然ながらギルドではこうはいかない。そこまで細やかに人に対応できるわけがない、あちらは日にやってくる人々の数が違う。ある程度機械的な対応が求められることも仕方ないのだ。
秋彦は少し前の寂れていた商店街どころか、子供の頃からこの商店街を知っている。
今の商店街の光景は、今まで見た事がない位に活気づいており、幼いころに見た商店街の盛り上がり以上である。まさか10年近くにもなって商店街の最盛期が訪れようとは思ってもみなかった。
少し前までは通りに一人二人歩いているかいないかのレベルだったのに、今では人がいない時間帯が無い。
しみじみと物思いにふける秋彦。
ちなみにこうやって商店街を歩いている秋彦だが、探索者達は声を掛けない。秋彦と優太が商店街にいても不必要に声を掛けないようにするのは最早暗黙の掟であるからだ。この辺り大分商店街に店を構える店主たちから注意が行われたようで、ここは秋彦が人に追い掛け回されずに済む数少ない場所でもある。
「さて……まずは蔵屋敷のオヤジさんのとこでコロッケでも買うとしましょうかね」
だいぶ減ってきた腹をさすり、まずは軽く腹ごしらえを済ませるべく、歩き出す。今日一日はまだまだこれからである。