第二百四十二話 秋彦さん家のバグダンジョン
累計PV数424万突破しました!
これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
「はい、今月の分ね」
「はいありがとう! これでまたしばらくは安心ね!」
次の日、母にインターネットショップ用の装飾品を納品した。納品したと言っても母が秋彦達が住んでいる家にまで取りに来ただけなのだが。
「いつも悪いね、取りに来させちゃって」
「仕方ないわよ、これだけ量があると車じゃないと一度に持ってこれないじゃない!」
「まあ、それもそうなんだけどさ」
今回納品した武器や装飾品の数々は、昨日作成した分を含めてかなりの数になる。いくらそんなに強くない装飾品と言っても、新規参入してくるレベルが低い探索者が買いあさっていくので需要はいくらでもあるのだ。当然数も膨れ上がる訳である。
尤も、今の秋彦にとってはそんなに苦になる物でもない。何せ骨加工レベル5で作れる装飾品が10万くらいで売れたりするのだ。骨加工レベル20からしたら片手間でもかなりの量が作成できる物なのだがそれでも売れるのである。
まあ、これらの物をそんな簡単に作成できるようになったのは間違いなく秋彦自身の成長が生んだ物である。なのでこれらに関しては誇るべきことである。
そのように感慨深く感じていると、母がとても言い辛そうに声を掛けてきた。その表情を見るに何を言うかは分かっている。
「あの、それでその……」
「分かってるよ、これだろ?」
秋彦はそういってマジックバッグから小瓶を取り出す。
中に入っているのは炭だ、一見何の変哲もない子指一本分程度の長さの炭。だがその炭は熱を持っており、薪の中に入れればすぐにでも火が付きそうだ。
そして熱を持った炭だと言うのにその炭は赤い光を全く発しておらず、むしろ、黒い炎を発している。自然界には黒い炎など存在しないので、あえて言うならナトリウムの黒い炎のような物が炭から放出されているのだ。
「こ、これが……話に聞いた【暗黒の炎】なのね……」
「小瓶に親友が魔法文字で細工してくれたから消えないし瓶をもっても熱くないし持っていられるけど、あくまで種火だからね、言ってみれば【暗黒の種火】って感じかな」
「ありがとう! あの噂を聞いてから欲しがっている人はたくさんいるから!」
「まあ、俺の家の林大変なことになっちまった事だし、流石に自分で作ろうって勇気は出ないわな。一時期騒ぎになったしね……」
つまらない物を見る様な目で秋彦の自分の家の林を見る。
林は朝だと言うのに黒い霧の様な物に包まれて薄暗い。まるでその林だけ夜が明けていないかのような雰囲気さえ感じる。
秋彦が自分の工房を持つようになって暇つぶしの如く骨加工を続けていき、扱える素材が増えた際に、一つどうしても加工したいものがあったのだ。
秋彦がそれまでの蓄えの半分を失ってでも手に入れた物。地方都市奪還作戦の最後に自らがとどめを刺したグレイトアンデッドドラゴンの右腕の骨である。
巨大ではあった物の、人でいう上腕骨に相当する骨一本だったことや、秋彦が習得していたストレージと言う容量拡張魔法によるマジックバッグの拡張も相まって何とか一本持ち帰ることが出来たのである。
ちなみに他の骨はいまだに関ヶ原に置かれっぱなしである。いかんせん巨大すぎる上にそれ自体が強力な素材なのでとりあえず間に合わせだが、骨を中心に雨除けの小屋を建ててなんとかその場をしのいでいるところである。
秋彦はそのうちの一本を買い上げたのだ。
ギルド側からしても扱いに困る物を一本処理できたくらいに思って捨て値の様な値段でのやり取りだったが、それでも十数億と言う金を渡した。
途方もない金額を骨一本の為に差し出したことに優太も桃子も茜もかなり怒ったが、ジュディだけはむしろ、いい買い物をしたと褒めてくれた。
そしてその骨の加工に着手したのだ。
あまりに巨大すぎてすべてを加工するなんてどだい無理な話なので、巨大な骨を削り、使う分だけを加工するようにしたのだ。
そしてその加工の過程において火で炙って少しづつ形を変形させる工程があったのだが……そこで事件が起こった。
グレイトアンデッドドラゴンの骨を炙るのに使っていた火が、ある時突然に黒く変色し辺りを暗く照らし始めたのだ。
勿論黒く照らすと言う事は、すなわちあたりが真っ暗になると言う事である。当時は何が何だかわからなかったが、辺りが急に暗くなると同時にあたりに強力な闇属性の魔法力が漂った時は、ダンジョンの外だと言うのに完全武装をしたくらいには驚いた。
その場ではそれ以降何も起らなかった物の、それ以来この林はずっと闇に閉ざされたままである。家や周辺は光が差すと言うのにこの林だけは闇魔法力が止め処なくあふれ出て、夜のままにしてしまっているのである。
その後枝野率いる調査団や、調査団の目の届かない所でライゾン達までやってきて調べ上げられた際に驚愕の事実が判明した。
どうやらグレイトアンデッドドラゴンの骨に宿っていた凶悪なほどの魔法力が炎に炙られて空気中に霧散したことが原因である事。その魔法力は本来周りに漂い周辺一帯を永遠の夜に変えてしまいかねない規模であった事。
たまたま林の中にダンジョンがあった事でダンジョンが闇魔法力を吸収した事で林自体が環境結界のようになり、そのお陰で難を逃れた事。
しかし闇魔法力を強力に吸収したせいで林のダンジョンが、もはや意味が分からないほどに強化されてしまい、ライゾン達の想定を大幅に上回る凶悪なダンジョンに変貌してしまった事。
一応ダンジョンの魔物は、その凶悪さから逆に外に出たら生命を維持するための魔法力が足りずに数秒で死ぬため氾濫は起きないとの事だが、近くにそんなものがあることがすでに恐ろしい事である。
ライゾン達曰く。
「秋彦が戦闘中は常に封印開放を強いられる。じゃないと一瞬で全員殺される程度には敵が強い」
との事らしい。やらかした当時は、封印開放は数秒も持たなかったことから恐ろしくていまだに入ることが出来ていない。
そしてそんな大きく環境が変貌した代わりに手に入れたのが暗黒の炎である。闇属性の炎をこれでもかと言う程に宿した炎。さぞ闇属性の武具を作るときに役に立つであろうとされ、ギルドにも種火はちょくちょく卸していた。
それがこの度ついにインターネットショップのカタログにも並ぶことになったのだ。
「あのダンジョン、中にはまだ入っていないの?」
「ああ。一応俺の封印開放が、10分持つようになったからちょっとだけ入ってみようかって話は上がってるけど。正直皆乗り気じゃねーな。入り口からして危険感知が、ここには入るな! って大音量で警報鳴らしているし」
秋彦は盛大にため息をつく。
周りからは秋彦所有のダンジョンである中谷町林のダンジョンは、通称【南雲さん家のバグダンジョン】として知られ、中に何がいるのか、今どのような変貌を遂げているのか、どんなお宝が発生しているのかを検証すべく依頼が掛かっている状況だが正直受けたくない気持ちが圧倒的に勝る。入り口からしてあんなに恐ろしい雰囲気を放つダンジョンに立ち入りたくもない。
「秋彦、私は貴方が生きてくれていることが一番だからね、それだけは忘れないで」
「大丈夫だよ、たぶんね。時間大丈夫なの?」
「あ、そうね、そろそろ持って帰るわ。じゃあ、本当に無理しないでね」
「分かってる。またね」
話が終わると母は車で家に戻っていく。
その様子を見送ると大きく伸びをして、もうひと眠りする事にした。
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次回の投稿は2021年1月14日午前0時予定です。
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