第二十五話 決戦!
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魔物の大きな咆哮が終わると、魔物は矢場チームに突っ込んでいく。
矢場チームの一人がとっさに前に出て、盾を構える。小太りな眼鏡をかけた男である彼が、チームの盾、タンク役であるのだろう。
右肩を突き出してのタックルを盾で受け止める!
「うお?!」
「大さん?!」
しかし予想以上の威力にかなり後ずさってしまった。ケガはないようだが、アスファルトを抉りながらの後退。守りは相当に固いようだが、それ以上に相手の攻撃力が強い様だ。そしてその勢いのまま、盾を殴りつけられ、体勢を崩される。アスファルトがひび割れるほどの威力で、地面に押し倒される。その体制で二つの頭が大さんと呼ばれた盾役の男の方に噛みつく!
よけることも出来ず、まともに齧り付かれてしまった。
「ぐああああああ!!」
「この、大さんを離せ!」
矢場と、残りのメンバーは引きはがそうと武器を使って攻撃するが、お構いなしに齧ったままだ。あまりダメージにはなっていないらしい。
「『力よ、宿れ』パワー! 『力よ、強まれ』ストロング! うらあああ!」
これはまずいと思い、秋彦が強化を自分に施し、魔物に攻撃を仕掛ける。
一気に近づいた所で、魔物の尻尾部分の蛇が秋彦に威嚇をして来たが、構わずに突きを喰らわせようとすると、魔物はすぐに大さんを離し、跳んで距離を取った。
「大丈夫ですか!?」
「ポーションで回復できる圏内です、ありがとうございました」
「……『力よ、宿れ』パワー! 『力よ、守れ』バリアー! ……とりあえずどうぞ。次は大丈夫のはずです」
「助かります。あ!」
秋彦が大さんに強化魔法を施している間に、魔物は別のチームに襲い掛かっていた。
「くそ、あっちこっち節操のない!」
再び秋彦が魔物に追いすがるが、またもや離脱されてしまう。
今度はダメージを受けたのは二人。やはり前衛だった。
「大丈夫ですか!?」
「くそ、あいつ、前衛の方でも守りの緩い攻撃役を狙ってきやがった……頭も回りやがる……!」
「とりあえずあんた達にも……『力よ、宿れ』パワー! 『力よ、守れ』バリアー! もいっちょ『力よ、宿れ』パワー! 『力よ、守れ』バリアー!」
「わぁ……力が溢れてくる……これは一体……?」
「ああ! あいつまた違うチームに……説明は後!」
今度は雨宮率いるチームに向かって行ったようだ。
だが、今度は雨宮チームが三人がかりで魔物を抑えている。上手く守り切れているようだ。
「南雲君! 足止めできているから早く!」
「はい!」
三度目の攻撃、三人がかりで押さえている内に距離を詰める。
すると相手も激しく暴れまわり、詰め寄る三人を振り払い、跳躍する。
が、今度は逃げられなかった。
「『土よ、我が命に従い、敵を落とせ!』ピットフォール!」
雨宮が、魔物が飛ぼうとした瞬間に足元に小さな落とし穴を作ったのだ。跳ぼうとした瞬間に蹴ろうとした地面が無くなり、魔物は思い切り体制を崩した。
チャンスだ。攻撃範囲内に来れた。うずくまる背中に思い切り槍を突き立てた!
悲鳴のような咆哮。そして槍を抜こうとさらに激しく背中を震わせて暴れまわる。ものすごい力だ。押さえつけられている地面の方が耐えられていない。落とし穴の中の地面の影響がアスファルトの大きなひび割れとして出ている。
だが今の秋彦はストロングで強化されている。単純な力比べでは負けない。
必死で押さえつけていると、尻尾の蛇が、今度は秋彦に噛みついてきた。
「あ、やばい!」
押さえているのに必死で動けない秋彦が、攻撃を喰らうかと思ったら、先ほどまで相手の攻撃を抑えていた雨宮チームの前衛達が盾で防いでくれた。
「あ、ありがとうございます!」
「押さえてもらっているからね。今はこれを何とかしないと!」
「南雲君が魔物を抑えている、今なら尻尾を何とか出来れば奴は丸腰だ! 尻尾を攻撃するんだ! 動きが速いから付け根部分を狙って! そこなら避け様がない!」
雨宮が声をかけると、全員秋彦が抑える魔物の尻尾に対して集中攻撃を仕掛ける!
尻尾は、槍で動きを抑えている秋彦を必死で攻撃してくる。秋彦を何とかしなければ、一方的に攻撃されるだけだという事がわかっているらしい。
魔物の尻尾が必死の猛攻をしてくるのを、先ほど強化魔法をかけた面々も、一緒になって守ってくれている。おかげで順調にダメージを与えられている。このままいけば、こちらは無傷で終われる。
しかし、やはりそう上手くはいかないようだ。
しばらく押さえつけていたが、なんと押さえつけていた槍の先端部分がへし折れてしまったのだ。
魔物はすかさず跳躍し、その場を離脱した。
「ああ! や、槍が!」
「くそ! だがよくやった。予想以上の成果だ。流石にダメージにはなったはずだし、仕切り直しだ!」
雨宮の号令に、全員が返事をする。
跳んで少し距離が離れた魔物は、こちらを睨み、相対している。どうやら逃げる気はないようだ。
魔物の二つの首が、息を深く吸い始めた。
「あ! 全員散れ!」
一瞬早く相手が何をする気なのかに気づいた雨宮が声をかける。
意図に気づいて逃げられたものもいるが、逃げられなかったものもいる。そして、あえて逃げなかったものも。
二つの首が、それぞれの口から炎と、氷を吐いてきた。いわゆるブレス攻撃というやつだ。
逃げられた面々は4分の1といったところか。残った4分の3はまともに炎か氷のブレス攻撃を喰らってしまう。
「み、皆さんご無事ですか……!?」
「こちらは何とか……そちらは?」
「た、盾と強化が無くなりました……強化をもらっていなかったら死んでいたかもしれません……」
魔法強化を受けた盾役が前に立ってくれたおかげで、死者は出なかったようだが盾役の強化と盾が壊れ、本人たちのダメージも深刻だ。
これで前線の守りは事実上壊滅したようだ。
「こ……くっそぉ!」
「あ、待って……いや、違う。各自今のうちに回復魔法やポーションで立て直して!」
もう一度ブレス攻撃を喰らったらまずい、そう思った秋彦は、盾役がダメージを引き受けたことでダメージを減らせた事で、自分がまだ動けることを確認して、何とかブレスを打たせまいと、へし折れた槍を捨てて向かって行ったのだ。
魔物はというと、槍がなければ勝てると踏んだのか、先ほどまでは逃げていたのに、秋彦に向かって行った。
「『力よ、宿れ』パワー! 『力よ、強まれ』ストロング! 『力よ、宿れ』パワー! 『力よ、守れ』バリアー! フル強化だこの野郎! わああああああ!!」
互いが一気に距離を詰め、秋彦が先制で腹の部分にストレートを叩き込む!
一撃をまともに受けた魔物は思い切り吹き飛ばされ、東京駅の壁を突き抜けて、駅構内に叩き込まれた。秋彦も更なる追撃の為に空いた穴から駅へと入る。
そのまま追撃しようとする秋彦に、魔物は両手を振り降ろして爪で切り刻もうとする。
秋彦はそれを寄りにもよって腕でガードする。はっきり言ってもう正気ではない行動だ。
だが、バリアーで強化されているからなのか、腕に大きな裂傷が出来たが腕をバラバラにはされなかったし、血は噴き出ているが動かすことに支障はない。
脳内麻薬が痛みを抑えているのもあるのだろうが、戦闘続行はできる。最も、近くにあった大きな柱はバラバラになったのだが。
秋彦は受けた状態のまま思い切り跳んで、右の頭にかかと落としを食らわせる!
鼻の部分に思い切り喰らい、口からは血が噴き出し、秋彦を濡らす。
が、魔物はひるまずもう片方の頭で、秋彦の左肩を噛みちぎらんばかりに噛みついた!
だが秋彦はここで左肩を噛みつかれたまま、左腕を首に回して捕まり、右腕で、後頭部を滅多打ちにする!
激しい咆哮が駅構内に響き渡る。
あまりの大声でガラスが何枚か割れる程だ。咆哮の主である一人と一体。いや、もはや2匹の獣とでもいうべきモノは、互いの血を被り、尚も暴れるような戦いを繰り広げている。
更に魔物は尻尾の蛇で秋彦に噛みつこうとする。が、今の姿勢で秋彦には蛇が見えておらず、よけようともしない。
が、蛇が秋彦を噛む事は無かった。
ようやく立て直った前線のアタッカー、矢場が尻尾を切り落としたのだ!
押さえつけた際に何度も付け根に攻撃していた事。蛇も秋彦しか見ていなかったことで付け根が隙だらけになっていたことが功を奏した。
咆哮を上げ、地面をのたうち回る魔物。矢場は蛇の頭に剣を突き刺してとどめを刺す!
そして素早く離脱する。
秋彦も一度離脱して、矢場と一緒に魔物から距離を取る。そして矢場に一喝される。
「無茶しすぎだ! あんな滅茶苦茶なインファイトして!」
「す、すんません……やっとちょっと冷静になりました……」
「全くだよ……けどよくやってくれた。ほら見て」
雨宮が立ち上がった指を差す。
魔物は既にフラフラで、立つことすら儘ならなくなっている。背中からは青い液体。おそらく血だが、かなりの量が流れている。
「終わりは近いですね……」
「ああ。改めて全員で取り囲んでいる。ブレスでまとめて全滅は無いはずだ」
魔物はゆっくりと姿勢を低くする。クラウチングスタートのような格好だ。その先にいるのは……秋彦だ。
「君との決着をご所望の様だ。戦いたい?」
「……いや、これ以上はちょっと……結構ギリギリなんで……それに今更付き合ってやる義理もないし」
「そうだね。タイミングを合わせて。あいつが跳ぶであろうタイミングでまた落とし穴を作る。今度は深めだ。最後は魔法でぼこぼこにしよう!」
全員から返事が来る。
秋彦はあえて乗ろうとするかのように少し前に出た。
最後のあがきを行おうと闘志を燃やす魔物。その動きは結構わかりやすかった。
「『土よ、我が命に従い、敵を落とせ!』ピットフォール!」
絶妙のタイミングで駆け出した魔物を捉え、足が地に着くタイミングで穴を作った雨宮。
すかさず全員が穴に向かって魔法を放つ!
何度も、何度も。生存確認さえせずに。魔力が切れるまで。
全員の魔力が切れたところで、爆発の後にも近い土煙が晴れる。
穴の淵は魔法の余波かボロボロだ。中がどうなっているのかがわからない。
「……だれか槍を貸してください。死んだのかどうか確かめてきます」
真っ先に言い放ったのは秋彦だ。
確かにもし生きていても、さっきあれだけ大立ち回りをした秋彦なら問題ないだろう。
槍を渡したのはさっき魔物に組み伏せられていた、矢場のチームメンバーである盾役の男だ。
「じゃあこれを。気を付けて」
「ありがとうございます。ええっと……」
「萌黄 大五郎だ」
「ありがとうございます萌黄さん」
槍を受け取り、穴に近づく。穴を見るとあお向けになった魔物が血だまりに沈んでいる様子がわかる。ここから見ただけだと完全に死んでいるのだが……ここで息を吹き返しても不思議ではない。
秋彦は槍をもって穴に入る。体に乗っても反応はなかった。
ダメ押しに、人間でいう心臓の部分に槍を突き立てた。
……反応は……ない。完全に死んでいるようだ。
「確認しました! 心臓を刺しても反応ないんで死んだものと思われます! 俺たちの勝ちです!」
一瞬間を置いた後、勝利の雄叫びが響き渡った。
日本中で起こった魔物の氾濫という大災害。真っ先に片が付いたのは。東京だった。
皆様からのご愛顧、誠に痛み入ります。
これからも頑張っていきますので、ぜひ評価感想の方を頂戴したく思います。そうしたら私はもっと頑張って作品を展開できますので。これからもどうぞ、よろしくお願いいたします!




