第二百三十九話 秋彦の現在 研修の終わり 天魔反
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優太の測定が終わり、周りの測定の為にいる人々があわただしい動きをしている中、秋彦はため息をついてしまう。
「はぁ……次は俺の番か……」
検証もそこそこに秋彦に対しての検証の準備も進んでいる。
計測するための装置を体のあちこちにつけ、計器の測定範囲内へ入り、ため息をつく。もう三度目のこの測定。
必要は必要なのだろう。秋彦と優太と言う個人がどれほどに成長するのか、今どれほどの力を持っているのかを把握しておくのは政府としても重要だろう。
それに秋彦としても普段使わない超必殺技を定期的に出すことは使用感を忘れないようにするにはちょうどいいのだろう。
今回はあくまでも測定であり人様に見せびらかすような物でもない。
でも、この技が自分に対して結構な負担になっていることは正直忘れないでいてほしいとも思う。
そもそもこの槍、二か月前くらいにライゾンから帰ってきたときにはこれでもかと言わんばかりに封印処理を施されていた。
かつてグレイトアンデッドドラゴンを倒した時とは比べ物にならないほどに今の天魔反の力は衰えているはずだ。
だがそれでもこの超必殺技はあの時から変わらず護国の切り札として最大の信用と信頼を寄せられている。
要はそれだけあのグレイトアンデッドドラゴンにとどめを刺したことはインパクトがあったのだ。優太の原初の炎が齎す終焉もそうだが。
そう思い自分の手元に戻ってきた槍を見つめる。
奇妙な槍だ。槍自体は刃の付け根、名称でいえばけら首から口金の部分に羽の様な装飾が施されている以外は特に派手な装飾はない。
羽の装飾は、天使の羽のような美しい装飾だが、槍も装飾も色が真っ黒である事から天使と言うより堕天使を想像させる。
とはいえそれ以外では別段何のおかしなこともない槍の様に見える。
しかしこの槍は手に持っている秋彦には神々しくもあり、また禍々しくも見え、まるで手に持つものに天国と地獄の性質を両方持ち合わせさせられるような奇妙な混沌を思わせるのだ。
こんなとんでもない大槍が封印の甘い状態で渡されていたと言うのだから、制御に苦慮した挙句に処分を検討してしまうのは最早仕方なかったとさえ思う。正直あの時この槍を手放そうとした判断は今でも間違っていなかったと思えてしまうのだ。この槍はそれほどの代物だと、力が弱まって自分の手元に帰ってきた今だからこそ再認識させられる。
ちなみにこの槍自体に名前と言う物はなく、銘もうたれていなかったので、秋彦がこれに【天魔槍】と名前を付けた。神聖な物の様であり、邪悪な物の様でもあるこの二律背反の属性を体現したこの槍にふさわしい名前だと秋彦は思っている。
秋彦はぼうっと槍を見つめる。
本当に不思議な槍だ。ライゾンが言うには、誓って使い続けることでおかしなことになることもないどころか、使えば使う程に強くなれるすごい槍なのだそうだ。
しかも封印する前からすでに無茶苦茶なほどのスキルと戦闘力の向上能力もあった。が、それらは成長の妨げになるし、使用も難しくなるとの事で封印したとの事。残念だが仕方がない。
総合的に槍を評価するなら悪影響どころかいい影響であり、その力は留まることを知らない。
封印されたことで戦闘力の向上は1万程度になってはいる物の、今の天魔槍が持つスキル【封印開放】を使用することで一時的にかつての強大な力をその一端であっても扱えもするので、力が弱まったことに絶望した人々も何とか納得してもらえた。
尚、封印開放すると様々なスキルと共に戦闘力が100万近く跳ね上がる。正直もう全部秋彦一人でいいのではないかと思われるレベルである。
今のところたった10分しか持たない封印開放だが、今の戦闘力では十分だ。
と、言った具合に槍を見ながら考えていたら、声を掛けられる。
「お待たせいたしました。準備が完了いたしましたので、いつでも撃っていただいて結構ですよ!」
「あ、ああ、ありがとう……」
研究員はいつにもまして目を輝かせている。その目の輝きがどんな意味を持っているのかを考えると正直もうため息しか出ないが、あえて呑み込み槍を構える。
「ほんじゃまずは……てい!」
秋彦は掛け声を上げると補助魔法と共に封印開放を発動する。今のところたったの10分だけ。しかもグレイトアンデッドドラゴンを倒した時よりもはるかに弱体化したが、それでも優太を除けば現状日本における最高戦力の降臨である。
『……天開き地闢く夫婦の御業を此処に』
落ち着いて、重々しく言葉を発する。それに呼応するかのように周辺を雲が覆い、辺りが薄暗くなる。
『成り余る逆矛を成り合わざる仇に、刺し塞ぎて産まるるは太平楽土』
槍を抱き込むように、あるいは念を吹き込むように槍を額に付け、更に続ける。
『国土蹂躙せし悪鬼生くること能わず、天下動乱せし魑魅入ること能わじ』
この奥義と言うべき技を放つのはもうこれで四度目だが、槍から流れる力を受け止めるのはなかなか慣れない物だ。
それでも抱きかかえた槍から流れ出る力を受け取り切り、いつも通り投擲の構えを取る。
『我らの父母在りし日の如く、果てなき光輝の満てし世の有らん』
秋彦は槍を投げた! その槍は魔物に向かってではなく分厚い黒雲が覆う天空に向かって。
槍は空高く飛んでいき、飛んでいき、どこまでも飛んでいき……黒雲を突き破り空に巨大な大穴を開けた。
この黒雲を突き破り隠れていた太陽の光が降り注いでいた。この光景はいつ見ても神秘的だ。すでに何度も見ている物なのだが、この瞬間だけは思わず感動してしまう。
『高き橋より矛を指し下ろし、今此れにある渾沌れを貫け――――――――!』
投げた槍が黒雲に開けた巨大な風穴と同じぐらいの大きさになって魔物役の土くれに向かって刃の部分からまっすぐ落ちてくる。
その巨大さによる圧倒的な質量をもって土くれを両断せんと空から超巨大な槍が降ってくる。
それはもはや圧倒的な質量による暴力だ、あんまりな程に巨大化した槍は巨大な土くれに向かって落ちていく。
そしてその槍は期待通りにゴーレムの形をした土くれはいともたやすく両断された。
しかも今回はそれだけではなく、槍が地面を貫く余力まであった。槍の威力はゴーレムの形をした土くれ程度では障害にならなかったらしい。
そして貫かれた地面は悲鳴を上げ、貫かれた個所を起点に地面に亀裂が走り、巨大な爆発が起きたのだ。
それは大地を貫く強大な力は地面だけでは受け止め切れず、余剰の力が行き場を失い、空中に爆発という形で顕現したのである。
恐ろしい力である。
優太の原初の炎が齎す終焉と同等レベルの力ではある物の、この見た目と言い凶悪な威力と言い、最終兵器と言っても差し支えのないレベルだろう。
「ふぅ……はい、終わったぜ」
その場にいた研究員に声を掛けるが、すでにその圧倒的な威力に研究員は興奮しっぱなしで計器の前にいる。
その興奮しきった様子にどこかつまらない物を見るかのような、あるいは呆れたような視線を向けてしまう。
「うわああああ!!! とうとうここまで……!」
「もう土くれ程度では話にならないか。破壊範囲どうなっている!? どれくらいに被害が及んだ?!」
「……じゃあ、俺ら帰りますからね。おつかれーっす」
もう秋彦達の事を見ているんだか見ていないんだかわからない連中に一応声だけかけて秋彦達はテレポテーションで地元に帰還する。
これが一か月に一度ある定期訓練及び身体測定である。秋彦達の新たな義務であり、日常である。
これが一か月に一度あるのだから辟易もすると言う物である。
こんなものを受けるならダンジョンに一日中籠っていたいと思うのが本音だが、お上の都合なら致し方ないのである。
ちなみにこの様子は夕方のニュース番組で特集されている。
月を跨ぐごとに、強くなっていくその力を見ているのは研究者だけではない。もはや見世物にされているような気分にさせられるのだ。
思わずため息が出ると言う物である。
家路についてジュディ以外の全員と別れた後は、どうしようもなく複雑な思いが湧いて出ると言う物である。
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次回の投稿は2021年1月11日午前0時予定です。
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