第二百三十七話 秋彦の現在 仲間と自分のギャップ
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
「では本日の講義は終了となります。午後からは演習となりますので食事をとり終えたら13時までに演習場まで来てください」
その言葉と共に部屋から教官役の自衛隊員が出ていく。それが合図となり全員ぞろぞろと外へ出ていく。この周辺はあまり食事処もないが、施設には食堂はあるのでそこで昼食を取る。
「いやー、皆久しぶりだな。元気してたか?」
「僕とモンスターキラーズの面々は学校で顔合わせてるけどね。でも確かに学校以外で最近会わなくなっちゃってたね。お店が忙しくてさ……」
「あたしらも本業が忙しくてうれしい悲鳴さ。プロデューサーだけが時間の調整がつかないって本当に悲鳴上げてたけどね」
「……私は最近青年局とコンタクトを取っている。新政党【迷宮党】の発足も近いかもしれない」
「私は家で毎日顔を合わせているわね。家の事業の事もあるから忙しくしているけど」
「んだな。最近めっきり探索してねーな俺ら」
今回は秋彦率いるレインボーウィザーズも笑屋達同級生チームのモンスターキラーズも現在桃子が率いているアイドル探索者チームのビューティフルドリーマーもそろっての食事である。最近のビューティフルドリーマーは本業のアイドル活動が忙しく中々会うことが出来ない状態である。
尤も、そうは言ってもそれは桃子だけではない。
茜は将来を見据えて与党の中でも若い人々で組織され運営されている青年局とコンタクトを取り、これからの探索者達のための法についての話し合いなどを熱心に行い、その合間に顔を売っているようだ。
優太も、最近改装が完了したことで広くなった赤龍が大繁盛していることで料理人として精を出している。
ジュディも同棲しているとはいえ親の会社が日本に進出し、探索者向けの事業や研究を始めるに当たって参考としてよくあちこちに呼ばれている。
つまり、最近のレインボーウィザーズはそれぞれがそれぞればらばらに活動しているため、秋彦も学校では優太と会うが、それ以外では自分の買い上げた自宅に住んでいるジュディ以外とは顔を合わせなくなってしまっているのだ。
まあそうは言っても今の秋彦達がダンジョンに入って何をすると言われたらもうレア掘りするくらいしかやることはないのだが。
それでも腕が鈍るのでたまには探索者稼業にも精を出したいのだが、そう思っているのは探索者以外の面が無い秋彦しかいないところが悲しい所である。
「しかし今毎日充実しているよ、忙しいけどやっぱりあたしの目的を果たせたって気がする! アイドル二世以外にも自分で勝ち取った自分で誇れるもので手に入れた立場! お母さんも喜んでたし、いやー探索者様様だよ!」
「……確かに。私もこれから何十年もかけて積み上げて手に入れる名を一気に手に入れたからか政治の世界においてもスムーズに入っていける。年齢さえクリアできれば、選挙で勝てそうな程に」
「僕も降ってわいたように名前知れ渡ったけど、お店の繁盛に繋がってるからね、こうなったら徹底的に利用してお店の売り上げに貢献してもらうんだ!」
「そうそう、やっぱり名は売れてて悪い事はないわよ、今後のあらゆることに有利になるからね」
そういって楽しそうに話をするレインボーウィザーズ。だが秋彦の表情には影が差している。
秋彦からしてみれば、名声なんて邪魔でしかないのだ。名前が知れ渡って以降、おかしな連中につけ狙われ、付き纏われる事が圧倒的に増えた。
同じ学校の友人とも知り合いとさえ言えないような誰か、近所の子供達、それだけならまだかわいい物。
怪しげなものを買わせようとするスーツ姿のセールスマン、秋彦のサインや秋彦自身の武勇伝を聞こうとする厄介な自称ファン、派手な化粧に露出の過ぎる服を着た女性、スキャンダルや特ダネ狙いのパパラッチ。ここ等辺は以前から絡まれる時はあった連中だ、いい加減慣れた。
だが最近ではそれらだけでなくもっと面倒なものまで付き纏い始めてきた。
例えば、拠点を外国に移さないかと勧誘してくるさまざまな人種の怪しげな外国人。
あるいは、秋彦を神の使徒とし、宗教団体のように集まってきて崇めたりよくわからない祝福の言葉を投げかけて来る胡散臭い連中。こちらも一部日本語が怪しい奴らがいる。
さらに街で歩いているだけでよくわからない物を押し付けるように渡しては金品を要求してきたりする変な輩。
そして、家に押しかけては恵まれない子供たちに愛の手を、と言って金を要求してくるよくわからない連中。
寝ても覚めても人から追い回される日々である。探索者として精神を鍛えられていなければ、とっくに嫌になって探索者を引退しているだろうとさえ思う。
そういう訳で秋彦自体は名声を疎ましく思っているまであるのだが、それを使って楽しそうに生活を謳歌している残りのメンバーを見ていると、自分がおかしいのだろうかという妙な疎外感に襲われてしまう。
他のメンバーが上手く扱えている物を扱えないでただ持て余していると言うのは、ちょっと仲間外れになっている気はする。
「ん? どうしたの秋彦?」
「いや、なんでもねーさ。さて、そろそろ飯も終わって時間も迫ってるし、俺トイレ行ったら先行くわ」
優太に不意に声を掛けられても秋彦はさらりと返し、そのまま席を立つ。
その様子をぽかんと見送る友人チームと桃子が率いるチームのメンバー、そしてレインボーウィザーズ。
「え、何? 秋彦どうしたの?」
「さ、さあ……?」
「優? 秋彦どうしちゃったのかしら? 何かわかる?」
さっきまでどことなく上の空だったのに急に席を立って先に行ってしまったことに違和感を覚える他のメンバーだが、優太だけは秋彦の様子に覚えがあった。
その様子にジュディが目ざとく気付いて話を聞く。
「うーん、いつもの経験から行くと、多分なんか自分の中で何かため込んでるね……どうしたんだろう?」
ここら辺は流石に長年連れ添った友人同士である。友人のいつもと違う様子にも素早くあたりをつける。
そんな付き合いの長さを思わせる挙動にジュディはつい嫉妬してしまう。相手は同性だと言うのに。
「そう、分かった。家に帰ったら少しお話する必要があるみたいね」
「ごめんね、秋彦を宜しく」
「大丈夫、私に任せて!」
悔しさからそこからは自分の仕事と言わんばかりに話を聞いておくことを約束する。同性同士であればこそわかる話も聞きやすい話もあるだろうが、異性だからこそ引き出せる話もあるはずだ。
「じゃああたしらももう行くか」
「……確かにそろそろ時間」
時計を見ると確かに秋彦の言う通り時間が近くなっていた。三チームはそれぞれ支度し、演習場へ向かう。
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次回の投稿は2021年1月9日午前0時予定です。
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