第二百三十六話 秋彦の現在 新たなる義務
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「よし、今日はここまでだ。号令」
「起立! 気を付け! 礼!」
金曜日の最終授業の終了。
授業が終わると弛緩した空気が教室に漂う。大きな欠伸を一つする秋彦。学校の生活は今の所比較的のんびりしたものである。
秋彦達が行う偉業にすっかり慣れ切ってしまっているからか、あれやったからこれやったからと言っていちいち生徒たちが集まってくることもなくなった。
いわゆる秋彦、優太だから仕方ない状態である。
そうは言っても優太以外に秋彦のところに来る人はもちろんいる。モンスターキラーズの面々である。彼らは秋彦を崇拝するでもなく、尊敬するでもなく、対等な仲のいい友人として話をしに来てくれる得難い存在だ。
「お疲れ様だね~」
「おう親友、お疲れさん」
「うっす! お疲れちゃん!」
「おうエミー、お疲れ」
さっそくと言わんばかりに登場するのはモンスターキラーズのムードメーカーであるエミーこと笑屋だ。
「いやーあれからもう三か月か、早いねー。あの死闘から生き残れたことを嬉しく思うぜ」
「お前それ会うたびに言ってるよな……」
「もう三か月経ってるのにな! なんかもう逆に言わないと話が出来なくなってきたまであるぜ!」
「いい加減聞き飽きたぜ……」
エミーはいまだにあの死闘からの生還を喜んでいる。まあ今までなんだかんだ健全着実に実力をつけていれば負けない戦いばかりだったなかで初めてこちらが負ける寸前まで行った戦いだったのだから喜びもひとしおなのかもしれないが。
「まあまあ、ところで明日は例の日な訳なんだけど、勿論俺らも一緒に連れてってもらえるんでしょ?」
「……あ、あー……嫌なこと思い出させないでよエミー……まあいつも通り一緒に行くけどさ」
「今更ハブったりしねーよ、ちゃんと連れていくから安心しろって」
「わーい、あんがと、いつも通り赤龍前待ち合わせでいい?」
「おう、それでいいぜ」
エミーとの会話でいやなことを思い出し、げんなりと顔を伏せる秋彦と優太。
明日は一か月に一度、探索者にとって半ば義務化された事の為にとある場所へ行かなければいけない日だ。モンスターキラーズはそれを秋彦の瞬間移動魔法、テレポテーションで手間なく連れて行ってもらおうとしたのだ。
その義務化されたことの中にあっても秋彦と優太の扱いはまた別なのだが……それがどうしようもなく大変であることを考えると、行きたくないと言う思いが強くなると言う物である。
「ああ、でもなぁ……嫌になっちゃうね、あの日は……」
「今更何言ったってしょうがねーぜ、ランクが上の人間は半ば強制的だし」
「だねぇ……」
そして盛大にため息をつく。
………………………………
週末土曜日、この日はいつもであれば探索者達はもっぱらダンジョンに潜ってレベルアップに勤しんだり、ダンジョンを攻略することでダンジョンボスの宝箱から珍しいアイテム、レアアイテムを手に入れる通称【レア掘り】と呼ばれる行為ついでにDP稼ぎに精を出す探索者達で盛り上がる日なのだが、今秋彦達はダンジョンの近くにはいない。
今秋彦達は陸上自衛隊の駐屯地にいる。秋彦達の住む場所から一番近い駐屯所の部屋の一室、講義室である。
「あーああ、今日一日憂鬱だなぁ……」
「言うな親友。俺だって憂鬱だっての……」
朝8時、土曜日にしては早々と活動を開始している部屋にいる人々は一様に詰まらなさそうだったり欠伸をしていたりしている。
だが部屋には人がぎっしりいる上に他の部屋にも大量に探索者達がいる。
地方都市奪還作戦改め第一次人魔大戦に参加した探索者もいれば無名の新人、果ては秋彦達を見るためにやってきただけのやじ馬に近い探索者も多いが。
ここにいる人々は皆一様に新たに加わった探索者の義務を果たすべくここにいる。
それは、【戦術戦略講習会及び演習会】の参加義務である。
事の発端は前回の第一次人魔大戦の後だ。
あの第一次人魔大戦は世界中の人々が見守り、その勝利を喜んだ。
そしてそれを軸として他の国々は計画的に初級ダンジョンを攻略することで、自分達の都合のいいタイミングで氾濫を凍結させ、地上の魔物を討伐する指針を立てることが出来るようになったわけである。
そしてその指針たる日本のやり方は他の外国によってさまざまな考察によってこうすればよかったああすればよかったと言う考察がインターネットを始めとして行われていた。
そしてその考察の中でも有力な説であり、それを認めざるを得ない日本の戦い方の弱点、そしてあの第一次人魔大戦の総評が露わになったのだ。
それは「最強の個人の寄せ集めを、ずぶの素人が指揮してしまったことで起こった薄氷の勝利」である。そしてそれは当時の日本の方針を如実に表していたと言えるだろう。
そもそも地方都市奪還作戦においてチームを解体し、それぞれの特性に揃えて部隊を編成しようという形を取らなかったのは、慣れない編成で下手に連携を取ろうとしても逆に足の引っ張り合いになることを危惧し、いつも通りの面々でいつも通りに戦う事が最善とされたからであった。
しかし結果を見れば、それは雑魚戦では有効な手段ではあったが、ファイナルバトルにおいては全く生かされていなかった。
集団行動を習熟していれば、魔防壁を全員で合わせて強大な攻撃を防ぐことが出来たように、あるいは土魔法使いが総出でダイダラボッチを作り上げたように違う戦い方が出来たかもしれないのにである。
それはつまり、個を重要視し過ぎた事で集団の力が上手く使えなかったと言う事である。
もしもあの時優太と秋彦が覚醒し、その力を振るえなければ、恐らく日本は、日本の探索者達の戦いは大敗で終わっていたはずだ。
あんな奇跡に頼り切ってはいけないとして政府は急遽、万が一のことがあった場合に備え、探索者達に政府が【迷宮緊急事態】と指定した事態に直面した際に探索者達を一時的に政府の指揮のもとに動く部隊として命令をし、探索者達はそれに従わなければならないと言う新たな法を制定。
それが発令された際にどう動くかを一か月に一度教え込み、知っていれば探索者のスペックを加味した上で動けるようにすることを目的としたこの講習、演習を、戦術戦略講習会及び演習会とし、それを受けることを探索者の新たなる義務として制定したのだ。
そしてこれは講習だけでなく演習も兼ねており、集団行動を前線で指揮し、集団行動を行う事も義務となっている。
政府に不満を持つものはこれを事実上の徴兵として現政権を攻撃し、またこの法に対し反発した組織団体は多くあった。
しかし第一次人魔大戦の最後に起こした失態を加味すれば、いざとなったらギルドマスターと言う戦術、戦略の素人に任せるよりも自衛隊などの戦術戦略のプロによる指揮による行動の方が安全安心であると言う世論によって今の所ではあるが、与党は支持を得ている。
ギルドマスター達も、いざ集団行動が必要になった時の為に戦術戦略面に長けた人物を側近に置くことも一時期考えられてはいたが、結局、それぞれの得意分野で動いた方がいいという結論に至ったのである。
一か月に一度の軍事講習並びに演習。それは初級を突破した探索者達にとっては義務であり、それ以下のダンジョンで訓練を行う探索者には任意の講習として新たに知れ渡ることになる。
ちなみに初級ダンジョンを突破していない人々は任意としたのは、対象となる探索者が多すぎるためだ。
迷宮緊急事態を宣言しなければ動かせないとはいえ、事実上の兵があまりにも多いと、国際社会を強く刺激してしまいかねないという懸念もある。
探索者人口は現在約10万人、そのほとんどが入門ダンジョンを突破し、初級ダンジョンでレベルアップや戦闘を行っている段階であることを考えれば妥当ではある。
かくして、秋彦達の長い一日が幕を開けることになるのである。
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次回の投稿は2021年1月8日午前0時予定です。
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