第二十四話 共食い
累計PV70000突破しました!
今日もブックマークと評価を頂いたことで、月間ランキングローファンタジー部門で39位でランキング順位を更新しました!
東京上野。アメ横があったり、国際西洋美術館があったり、上野公園の不忍池が有名だったりする場所。
東京における有名な場所の一つであるこの場所で、本日もう何度目かもわからない火柱が上がった。
焼け落ちたのは虫型魔物だ。夥しい程の数は吐き気を催す程に気持ち悪かった。パワーとストロングをかけた上でファイアボンバーを使って一気に焼き尽くすのは仕方ない事なのだ。
「ゼー……ゼー……やったな……」
「う……うん……」
かなりのハイスピードであちこちを駆け回り、魔物を倒してきた。二人だけで倒した数でさえ、もう1000匹は優に超えているであろう魔物の量だが、やっとその数が目に見えてなくなってきた。
現在、時間は深夜2時。マップのアップデートが入り、本格的に攻勢になってから4時間。今回の魔物の氾濫が始まってから実に7時間が経過している。
イヤホンマイクから聞こえてくる声からも、それぞれの疲労困憊が容易にわかる。皆一様に疲れていた。
優太はダンジョンウォッチのマップを開き、改めて確認する。
マップを見る限りでは、さっき吹き飛ばしたからか、今はもう範囲になるような群れなどはいない。点として表示される魔物の単体ならまだちらほらいるようだが。ちらほらといっても東京中にいる事を考えればまだ大量と言える。
これらをしらみつぶしに潰していかねばならないと思うと膝から崩れ落ちそうになる。
普段ならどこであろうとも東京ならば交通網が発達しているため、電車やタクシーを使えばどこだろうといけないことはないだろう。
だが電車や車がつかえない今の東京というのは想像以上に広い。たとえ身体能力が大幅に向上したダンジョン経験者にとっても。
せめて自転車でもあれば、身体能力の向上した彼らからしたら違ったのかもしれないが。
もっとも、それがあったとしても、作戦開始当初は魔物や被災者を探しながらの戦いだったのだ。そんなものに乗りながらでは捜索が疎かになるので、雨宮達もその手の乗り物は用意していなかったのかもしれない。
……単純に用意し忘れた、あるいは考えが回らず、用意をしなかっただけのような気もするが。
「……ふぅ……ちょっと落ち着いたか。残りどうするか……流石にこんなこまごまとしたの潰して回るってのは……親友?」
「うう……」
残った散らばっている魔物をどう対処するか相談しようとしたら、優太が腹を抑えて苦しそうにしている。
「お、おい親友、どうした?」
「ご、ごめん……おなかが……痛い……」
「……え? な、なんだ毒か?」
「ち、ちがう……普通にトイレ……」
まさかの非常事態である。確かにいつあってもおかしくないものだが、まさかこのタイミングとは。
「え、ちょ、おま、マジか! 何でよりによってこんな時に……やっべ、ええっと、コンビニとかどっかに……」
慌てて辺りを見回す。秋彦。
幸いというか、流石というか、東京にあって、コンビニは探さなくても看板が目に付く。
「あそこ、コンビニあるぞ、行こう」
「う、うん……」
慌ててコンビニに走る二人。しかし入り口を見て眉を顰める。
コンビニの内側から、雑誌を陳列する陳列棚でバリケードが形成されていたからだ。おそらく中に人がいるのだろう。必死に生き延びるために籠城作戦をとったのも頷ける。だが、今はそれが果てしなくうっとおしかった。このままでは親友から尊厳があふれ出てしまう。
「おい、誰かいるのか?! 入れてくれ!」
「ひぃ! なんだ、生き残りか?!」
思った通り人がいた。人間が話しかけているのに声を上ずらせ、叫ぶように声を出している。怯え切った声だ。まあ仕方ないのだろう。
「違う、俺たちはこの辺りで外の化け物を討伐しているんだ。悪いんだが、トイレ借りたい。開けてくれ、ついでに何か売ってくれ」
「……あ……ああ?! その奇抜な服……あんた達もしかして自衛隊と協力して魔物退治している、【探索者】ってやつか?!」
「……えっと……そいつらの指揮取ってる人の名前言える?」
「え? えっと……雨宮猛っていうらしいが……」
「ああ、じゃあそれは俺たちの事だ。それはそうと早く入れてくれ」
「わ、分かった!」
バリケード越しに見ていたひとりが声を上げてくれたおかげでスムーズに話が進んだ。
自分達が、敵対勢力でない事の確証が得られたようで、すぐに中にいた数人がバリケードに隙間を作ってくれて、その隙間から入店することができた。
優太は我慢の限界だったようで、すぐにトイレへと駆け込んでいった。
とりあえず一息付けそうだ。ざっと見ると、イートインもある最近のコンビニの様だ
気が緩んでしまったからなのか、腹の虫がなった。くたくただったこともあり、秋彦は待っている間食事をとることにした。
が、その前に店の中にいた、従業員数名と、客に取り囲まれた。
「いや助かった! 正直おびえながら立てこもっていたんだ。ここでは逃げられないだろうが外にいるよりは安全だろうと思って……うう……」
「さっきの轟音は君らがやったのか?! ツブヤイッターに凄腕の大男と小男コンビが、ものすごい大火力の炎を繰り出せるって話があったんだがあれは君たちなのか?!」
「我々のような巻き込まれた人々が集まっている場所があるんだろう!? もちろん連れて行ってもらえるんだよね!?」
安心からくるものなのか興味からくるものなのか、年は客も店員もバラバラの様だが、皆一様に目がキラキラしている。
盛大にため息をついて、とりあえず一言放つ。
「……とりあえず疲れたんで、飯と飲み物買って休みたいんですが、いいっすか?」
………………………………
秋彦はハンバーグ弁当とお茶を買ってイートインで食べながら、現在の外の状態をその場にいた人たちに教える。
聞いている人達は今にも噛付きそうな勢いで話を聞きこんでいる。
信じられないといった表情をする人もいれば、魔法の存在に更に目を輝かせる人もいる。
「これが、今の俺たちが知っている事、体験した事ですね。到底信じられないとは思いますが……」
「そ、そんなことが……」
「いいなぁ魔法! 僕もダンジョンに行ってみようかな……?」
「じゃああれは一応ただの人でも一匹や二匹くらいなら倒せるんですね? だ、だったら俺だって……!」
「もう粗方倒したっていうんなら、もう外へ出てもいいんじゃ……」
「馬鹿、危ないわよ! まだバラバラに散ってる取りこぼしがうろうろしてるんでしょ?!」
軽く騒ぎになっている。
そうこうしている間に優太がトイレから出てきたようだ。
「ただいま……って、どうしたのこれ?」
「ちょっと飯休憩がてら、現在の状況報告を。てかなんであんなタイミングで腹下すかね……まあ休憩できたからいいんだけどさ」
「うーん……たぶんマジックポーションの飲みすぎだと思うんだよね……」
「え?」
「ほら、僕って魔法で大抵薙ぎ払ってるじゃない? 魔法効率上がったからって、魔力を消費しないわけじゃないじゃない? 秋彦はあんまり怪我もしないし、ポーション飲まないじゃない。僕はガンガン飲むわけで……」
「あー……それで腹下しちまったのか……こりゃ魔法使いの宿命……てか、効率のいい魔力の回復手段の無さが起こした必然の事故だったのか」
「そこら辺も今後何とかしないとね」
優太もお握りとお茶を買って一息つく。
しばらく食事休憩をしていると、客の一人が話しかけてきた。
「あ、あの、ちょっとお聞きしたいんですが……」
「はい? どうしました?」
「お二人は敵を探すことができるんですよね?」
「ええ、今このダンジョンウォッチで敵を探せます。僕らはそれを頼りに今、敵の殲滅を行っているのです」
「あの……では今近くに敵はいますか? すみません、勝手なこと言う様なんですが、家に帰りたくて……」
「うーん……正直言ってまだ危ないですよ? バラバラに散った敵のことを考えると、自衛能力がある人でないとおすすめできません」
そうですか……といってがっくりと肩を落とす客。だがこれは別に意地悪を言っているのではないのだから理解してほしい。
そうしてしばらくイートインスペースでしばらくぼーっと、もとい体力を回復していると、突然本部の雨宮から連絡が入ってきた。
「本部の雨宮だ! 各自、マップを開いてくれ、そして東京全体が見えるように地図を広域表示してくれ!」
突然の知らせに驚く。なんだなんだと思いつつも、素直にマップを開き、東京全体を確認する。
すると、細かい点で表示されていた、バラバラに散っている魔物が一か所を目指して集中している様子が分かった。
集結している先は……東京駅。時計がある駅の真正面だ。
「……魔物が一か所に集まっていますね」
「ああ。今までは群れがやられてからはバラバラに行動していた魔物達が、何の前触れもなくこのような行動に出た」
「これは一体どういうことなのでしょう?」
「……分からない。だが……何か嫌な予感がするんだ。皆、至急東京駅へ集合してくれ。どちらにせよ、散らばった魔物が集結している以上、東京駅に来なければいけない」
「分かりました!」
現在地は上野。まさかの東京駅へのとんぼ返りに思わず舌打ちをする秋彦。とりあえずコンビニにいる人たちに状況を報告する。
「とりあえず、この辺一帯はもう安全みたいです。帰っても問題ないと思います。散らばってた魔物たちはなぜか東京駅に集結しているらしいので。僕らは招集に従いすぐに東京駅に向かいますね」
「え、じゃあもう外に出ても大丈夫ってことですか?」
「はい、このあたり一帯はですが。危険なので東京駅には来ないでくださいね。親友、休憩はできたな? 行くぞ!」
「うん!!」
数人がかりで隙間を作ったコンビニのバリケードを一押しで崩してから秋彦達は駆け出す。
………………………………
雨宮は胸騒ぎと、自分たちが一番近い位置にいたことから、避難民や自衛隊の対応を自分のチームメンバーに一旦任せて、自らが様子を見に行くことにした。もちろんチームメンバーも後から合流予定だが。
呼びかけながらの移動。他のメンバーの到着予定時間を聞くが、集まる時間はどうも芳しくない。
仕方ない事なのかもしれない。なぜならすでにその一帯は開放した場であり、魔物の殲滅の為に都心から離れている人間が多い。あちこちに魔物が散らばっていた中でまさか都心に急に集まり出すという状況が想定できなかった。それに疲れからか、反応が遅れている様子さえうかがえる。
……とりあえずまず自分が状況を把握しなければ。
拭えぬ嫌な予感が、早く早くと自らを駆り立てていた。
そうして、しばらく走るとすぐに東京駅が見えた。が、そこにあったのは普段よく見る東京駅の様子ではない。
「な、なんだあれは……!?」
それは異様な光景だった。魔物同士が争いあい、殺した魔物を食い合っていた。
勝者が敗者を喰らい、力を高めているかのように。
それは蟲毒を想起させる光景だ。種類の違う毒虫を同じ容器の中に入れて争わせ、最終的に生き残った毒虫の毒を使う呪術。
おぞましくも強力な呪い。それを想起させる光景に雨宮は総毛だった。
あれが勝手に共倒れするならむしろ願ったりかなったりだろう。だが、もし、あれらの一匹が最終的に生きのび、最も強い個体となって人間に牙をむいたら?
……それは恐ろしいことだ。いくら元はただの雑魚魔物であってもこの数だ。どんなものが生まれても全くおかしくない。
雨宮は動かなかった。いや、動けなかった。雨宮も魔法は使えるがその属性は「土」と「水」である。
土の攻撃は石礫を発射する攻撃しかない。水も氷の棘を放つか大量の水で押し流すかのどちらか。前者は単体用の攻撃と言わざるを得ないし、後者も大量の水が必要になる上に周りの被害が甚大なことになる。要するに雨宮はこの場で戦うことに適した属性を持っていなかったのだ。全体攻撃に適している炎か風を持っていれば話はまた違ったのかもしれない。が、こればかりはどうしようもない。
おまけにすでに強力な個体になりかかっているのが集まってきた魔物を次々に喰らっている。これは……すでに自分が炎や風の属性を持っていたとしても一人で行くのはまずい物になっている。
雨宮はすぐに全体に呼びかける。
「こちら雨宮だ。今東京駅にいる。奴ら、互いに集まって互いを食い合っている。そしてうち一匹が、異様に強化された個体になっている。既に一人、あるいは一チームで突っ込むのはまずいと思われる規模になっている。皆早く来てくれ!」
………………………………
最速で東京駅に到着できたのは6チーム。
秋彦達、ジュディ率いる三人、矢場率いる五人、雨宮率いる六人、そして名前を知らない五人からなる二チーム。
だが、遅かったといわざるを得ないだろう。
雨宮の懸念通り、そこに居たのは一匹の化け物だった。
元は犬型の魔物だったのだろうその面影は、もはや頭と爪しかない。その頭でさえ、犬の頭が二つある。爪も血に濡れ、切れ味を増しているように見える。
深緑色をした体は、ゴブリンが大きくなったかのように人間の骨格をしており、足は鶏のような形をしている。太腿の部分には羽がまだ生えているのが微妙に滑稽と言えるかもしれない。
尻尾の部分は蛇になっており、背中には翅が生えていた。この東京で出たあらゆる魔物をミキサーにかけて出したような化け物だ。
だが、そいつから放たれる威圧感は通常の魔物とは一線を画するものだった。
これまでの魔物退治はただの虐殺だったが、これは6チームいても勝てるかどうか怪しい凶悪な物だ。
「お、おいおい……なんだこりゃあ……」
「……これは……うん。やばい」
「……!」
「もうちょっと早く来れていれば……」
「もう言ってもしょうがない」
「そうだよ。何とかして、あれ倒さないと」
食事を終えた化け物は新しい得物を見つけ牙をむく。笑っているように見えなくもない。
「……ふん、まあいいさ。いい加減ただ一方的に魔物をぶっ倒すのにも飽き飽きしてたところだ」
そういうと秋彦はゆっくりと化け物の前に歩いていく。
「あの時点で雨宮さん以外こうなることを予想もできなかったんだし、こうなっちまったら誰が悪いだのそういうのは言いっこなし。ラストにふさわしい相手だ。これ終わったら東京の戦いは終了。きっちり全部終わらせよう!」
言いながら槍を構えるその姿は堂々とした物があり、その場に来たメンバーに覚悟を決めさせた。
「雨宮さん」
「……なんだい?」
「この戦い、初の多対一。いわばレイド戦です。指揮の方、お願いしますね?」
「……分かった。この戦いにみんなを巻き込んだ張本人として、責任をもって、最後まで指揮をする!」
「ありがとうございます!」
言い終わる頃には、前衛と後衛はそれぞれの位置に付き、みんな一様に武器を構えていた。
「よし、皆、これが今回の東京最後の戦いだ! ここまで来たらみんな生きて帰るぞ!」
全員が、返事をすると、前方の化け物が犬、いや狼のような遠吠えのような雄叫びを上げた!
「さあ! 来るぞ!!」
皆様からのご愛顧、誠に痛み入ります。
これからも頑張っていきますので、ぜひ評価感想の方を頂戴したく思います。そうしたら私はもっと頑張って作品を展開できますので。これからもどうぞ、よろしくお願いいたします!




