第二客二十九話 終わりの始まり 覚醒の狼煙
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
『……あれ?』
気が付くと、優太は見たこともない場所にいた。全裸で。そこは白い世界。優太ともう一つ以外何もない不思議な空間だった。
優太はぼんやりと、夢を見るような思いでそこにいた。
思考がぼやける中、優太はなんとなく思った。この空間は以前に覚えがある。これは、確か……
『なんかこれ、魔導書を開いて魔法を覚えた時の感覚に似てる……』
何とも言えない感覚だが、あえて言い表そうと言うならそういうほかない。この白い空間は魔導書を見た時、魔法のすべてが頭に叩き込まれた時にいるあの場所にそっくりだ。
だが、その時と決定的に違うのは、目の前に魔導書が無い事と、代わりに今優太の目の前にある物だろう。
『……なにこれ……?』
そこにあったのは巨大な球体だ。一見壁のようにも見えるその巨大な球体。上を見上げて見なければ球体だとは分からなかっただろう。
だがその球体の放つ圧倒的な存在感。
優太は思わず目の前のそれに手を触れてしまった。普段ならそんな迂闊なことは絶対しないだろうに、優太は自然と手を触れてしまった。
『え、あ、あ、あ、あああああああああああ……!!!?』
優太が目の前の物に触れたその瞬間、突如全身の感覚が消えた。いや違う。消えたと言うよりはそのすべてが快楽に浸されているかのような気分にさせられるような感覚だ。
意識が澱み、足元はふわふわと揺らいで落ち着かない。視界さえおぼろげな中、その感覚はどうしようもないほどの幸福感に包まれていた。
この圧倒的な安心感は、幼いころ、母の胸に抱かれていた時の様な安心感だ。大きく、そして自分を守ってくれるかのように包まれ、このまま意識を手放したくなるような感覚だった。
この状態は何と言って例えればいいかもわからない程だが、あえて例えるならば、浸かっているだけでどうしようもないほどに気持ちよくなれる流れるプールの様な物に放り込まれたかのような感覚だ。
ただ浮かんでいれば流され続け、その間はずっと幸福感に包まれていられる。そんなどうしようもない程の感覚だった。
ああ、このまま意識を手放したならどれほどの幸せを享受できるのだろう。思わずそんなことを考えてしまう。
もう、何もかもどうでもいい。ただこの快楽に浸ってさえいれば……
優太はすっかりその快楽に魅了され、そう思い目を閉じようとした。
だが、その瞬間にチクリと心が痛んだ。
これは……この痛みは……知っている。ついさっき味わったばかりの物だ。
その痛みを思い出した途端、頭から冷や水を浴びせられたかのように、あるいは絶対に失敗してはいけないところで失敗をしたかのような体が頭のてっぺんから凍る様な感覚を覚えた。
どうでもいいなんてことある訳ない、今ここでこんなものに浸っている間にも、秋彦は、自分の親友は戦っているのだ。たった一人で、今も無謀に敵に突っ込もうとしているのだ。
そう思い始めた時、ここに来てから何となくぼんやりとしていた自分の意識がどんどん戻ってきているのを感じるようになった。
「こんなところでこんなことしてる場合じゃないんだ僕は!」
優太が思わず大声を出した瞬間、靄が掛かっていた視界が一気に晴れたような爽快感で頭が一気に覚醒した。
「はぁ……はぁ……ここはどこ?」
しかしその覚醒した頭、靄が晴れた目をもってしても相変わらずここがどこか分からない。見ている物自体はここに来たばかりの時と同じ、魔導書を開いた時にいた世界のような場所、そして目の前にある巨大な球体だけがある場所だ。
「待って待って待って……そもそも僕は何故ここに来たの?」
頭が覚醒した今思い出すのはたやすい。
優太はあの時全身のすべてから魔法力を捻り出すべく自分の内側に全神経を集中させていた。わずかな魔法力も見逃すまいと神経を集中していた。
それ故か気付いたのだ。
自分の身体から、魔法力がどこかに飛んでいっているその様を。
「普段だったらあんな程度どうでもいいっていうかそもそも気付けない位の魔法力だったんだよなぁ……」
そう、普段の優太であればどこかへ飛んでいっているあの魔法力であれば、あの程度の魔法力に執着もせず、そもそも気付きもしないであろう程度の微弱なものだった。
魔法力も体力も空っぽ限界。こんなに切羽詰まっているような状態でなければ、逃すまいと意識を集中させ、取り戻そうとその魔法力を追ったりしなかっただろう。
そして追った先にこの世界と球体があったのだ。
「……もしかしてこれってとんでもない力の塊だったりするのかな?」
優太はこの球体を前に一つの予感を感じ取っていた。
これは力の塊であり、この力を持って帰れれば魔法力の全回復どころか、パワーアップも可能であると。
しかし触れれば、さっきの様に快楽にまみれ、意識を手放そうとしてしまうかもしれない。だが背に腹は代えられない状態であることも確かだ。それに先ほど意識を手放しそうになったのはぼんやりとした頭で不用意に触れたからだ。
頭がはっきりした状態で触れれば、後は自分の精神力次第。
「よし、お願い神様仏様、僕にこの球に取り込まれない精神力を……」
『大丈夫だ。君はすでに資格を得た。今後ここには、あんな危ない橋を渡るようなことをしなくても来れるし、この球の力も少しは持って帰れるようになる』
「え!? だ、誰?!」
居もしない神にお願いして、意を決して再び球体に手を触れようとしたとき、どこからか声が聞こえてきた。
顔もわからず、どこからか聞こえてくる声は話を続ける。
『私は君に危害を加えるつもりはない』
「え、あ、貴方は?」
『時間が無い、よく聞きなさい。今はこれからこれだけ力を持って帰りなさい』
話しかける誰かがそういうと、球体から、縁日でよく目にするスーパーボールすくいのスーパーボール程度の小さい球が優太の手に飛び込んできた。
「え、たったこれだけ?」
『あの【禍津腐死龍】あるいは【グレイトアンデッドドラゴン】程度ならばそれだけ持っていけば十分だ。それとこれを。君の親友に渡してあげなさい』
今度は球体から槍が出てきた。
普通の物とはどう見ても違う様な強力なエネルギーを感じる。そのエネルギー量は凄まじく、あのアンデッドドラゴンやダイダラボッチを見た後でも、それらに後れを取らないであろう力を感じる。
『これから君はここには何時でも来れるし何度も来ることになるだろう、これとつながり力を持ち帰る者たる【接続者】よ、今は行きなさい。そして必ずやこの日本に平和をもたらしなさい』
「え、ちょ、ま」
まだ全然何も聞いていないので思わず声の人物を呼び止めようとして、そして意識が途切れた。
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次の投稿は10月19日午前0時予定です。
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