第二百十三話 終わりの始まり 呼び出してしまった物
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
とにかく、これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
「うおおおお!! まだまだだ!」
猛烈な勢いで槍を振るい続ける秋彦。すでに足元は魔物の死体で埋め尽くされている。邪魔だが、今は死体を焼き払う暇が惜しい。先ほどまで生きていた死体と言うのは存外燃えにくく、消し飛ばそうと思ったら相当な火力がいるからだ。
もはや数えきれないほどの魔物を倒しているがまだまだこれからだ。人間側の勝利でこの地方都市奪還作戦を終了させるために秋彦はさらに大声を上げた。
が、そこで秋彦は気づいた。魔物側の様子がおかしいことに。
魔物側の動きが止まった。先ほどまで一心不乱にこちらに向かっていた魔物達の動きが急にぴたりと止まったのだ。そして空を眺めている。
「な、なんだ……? どうし……たん……だ……」
魔物の唐突な停止に思わず魔物達の見る方向を見る。
急にあたりが暗くなった。本当に何の前触れもなくだ。
空が急に黒雲で覆われ、太陽が隠れたにもかかわらず、変に周りはしっかり見える。黒雲の合間から赤い光が差し込んできているからである。
さっきまでの晴天が嘘のように空が赤黒く染まっている、そして辺りから異常なほどに魔法力が高まっているのを感じる。
秋彦達はこの感覚に覚えがある。これは環境結界の中にいた時の感覚に似ている。だが妙なことにここにいることで自らの力に制限が課せられているような感覚はなく、むしろ自らの力が無理やりに上昇しているかのようにも感じられる。
「な、なんだ!?」
「ググ……ガアアアアアア!!!」
「げ?! しまったよそ見を!」
「アアアアアア!!!」
「へ? う、うわ!!」
突然魔物が吼えだす。吼えた事で魔物に向き合うと、魔物が弾けた。
それはもう比喩でもなんでもなく弾け飛んだのだ。まるで水風船に針を刺したかのように破裂音を鳴らして、魔物達が黒い汚泥の様な液をまき散らしながら一斉に弾け出したのだ。
単純に魔物が勝手に死んでいき頭数が減っているならこちらとしては万々歳だがそんな甘いわけでもないだろう。
そもそも今までだって魔物を倒したら死体は物としてちゃんと残っていたのだ。汚泥のような液をまき散らして弾けたケースなんて聞いたことが無い。
そんな状況が赤黒く染まった空と相まってこちらを不安にしていく。
「な、なんだ……? 一体何が起きているんだ!?」
そして秋彦はハッと気づく。先ほどまであちこちに転がっていたはずの魔物の死体が消えている。
……違う、消えているのではない。魔物が弾けて出てきた汚泥のような黒い水の中に魔物の死体が溶け込んでいるのだ。生きている魔物が変化した水に魔物の死体が溶け込んでいる。
そして次の瞬間、黒い水は突然吸い上げられたかのように空へと飛んでいく。
「え!? こ、今度は何だ?!」
黒い水はここからかなり上空にまで飛んでいき、一か所に浮かんだ。そして、黒い水はどこからか飛んできており、集まり始めているようにも見える。
秋彦は直感的に、黒い水は秋彦達が戦っていた場だけでない今まさにこの場に集まり始めている魔物達にも同様の現象が起こっており、集結しているように思えた。
それを見ていると秋彦の危険感知が全力で警報を鳴らしている。
「な、なんかやばいんじゃねーのかこれ!? く、チクショウ!!」
秋彦はクリエイト・ウェポンで投槍を作り出し魔法の槍を投げて攻撃を仕掛けてみる。
強化を受けている秋彦が渾身の力を込めて攻撃をしてみたが攻撃が通用した感じはしない。
いよいよ訳が分からない秋彦は、とりあえずレインボーウィザーズの面々の所へ集まる。幸い他のメンバーもそのつもりだったらしく、全員集まっていた。
「なぁ、あれなんだと思う?」
「わからない……でも僕は魔力感知的にも危険感知的にもなんかすごくまずい気がする」
「だよね、本当にどうしよう?」
「今のあたし達もなんか嫌だよね。なんか無理やり力を入れ込まれている感じするし」
「……ギルドマスター達の指示を待つ」
するとギルドマスター達が全員で本部を飛び出してきたらしい。全員が慌てて走ってきて、到着し肩で息をしながら話を始めた。
「はぁ……はぁ……! 皆いるね!?」
「雨宮さん! あれ何なんですか!? なんかもうパッと見ているだけでやばそうなんですが!?」
「私が説明する。私の師匠がどうやらこの状況をモニターしてくれていたようで、今の現状について考察を立てたみたいでね……すまない。この状況は我々ギルドマスター達の引き起こした事態だ」
枝野の言葉に周りがざわつく。
「ど、どういうことですか!?」
「1から簡単に説明しよう。今この黒い雲に赤い光が差し込んでいるこの状況、これは環境結界だ」
枝野曰く、日本の端から端まで探索者が迎撃したことで大量の魔物の死体が配置され、日本全土が魔物の血と死体によって汚されたために発生したものらしい。
今回は人の死体が無い事で人間に対する不利益はないのが不幸中の幸いだが、それとは別に問題が発生している。
「どうやらこの環境結界に、大量にまずいものが引っかかってしまってるようなんだ」
秋彦には想像もつかなかったが優太が発言した。
「……ボスの死体ですか?」
「そうだ。認められたうえで倒せば御霊具になるであろうボスクラスの魔物が、御霊具にならないままに死体として引っかかっている。死んだ魔物の魂があの世に行かず、それと共鳴を起こしているのではないかと推測しているようだ」
なるほど、確かに御霊具の元となるような力を持つ魔物の魂が大量に出てきたと言うなら土地に構築されてしまった環境結界とも共鳴できるのかもしれない。
「人間の魂でさえ無念のままに死を遂げれば妖怪とか怨霊とかに変貌してしまう事なんてオカルトの世界ではよくある話だ。今回はそれを魔物の魂が起こしているみたいだ」
そしてこの日本全土を覆う様な強力な環境結界にそれらの妖怪、あるいは怨霊と化した魔物の魂が共鳴して起こりえることなどただ一つだろう。
日本にいる探索者をすべて滅ぼす事。そしてそれが終わったら人間をすべて滅ぼす事だろう。
「ちょ、ちょっと待って、その為に今生きている魔物も死んだ魔物も全部あの水にしてやろうって話ですか!? っていうかあれ何なんですか!?」
「あれは恐らく、魔物をエネルギー化したものだ。本来魔物は倒したら死体はそのまま残る。液状化したりしない。だがあれは何かを起こすために、この環境結界が魔物をエネルギーとして吸収し、何かをしようとしている」
「何かって……何を?」
「……それははっきりとは分からない。だが、御霊具になれる可能性のある様な強い魔物の魂が悪意をもって人を滅ぼそうとするというなら、自分達を強化するのではなく自分達よりも強い物を呼び出そうとする可能性が高い。つまり……」
一瞬沈黙が流れ、枝野は重く告げる。
「悪魔の召喚、大悪魔の降臨だ」
空に浮かぶ巨大な黒い水球が、恐ろしいほどの大きさに膨れ上がった時、黒雲から赤い雷が水球に落ちる。
そして、絶望が降臨てきた。
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