第二百十一話 終わりの始まり 思い出、振り返り
累計PV数353万突破しました!
これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
とにかく、これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
『このペースだと、最終防衛ラインまであと十分です! 魔物共が来ます!』
「わかった、ありがとう。皆聞いたね。この時の為に敷いた防衛ラインを強さと物量を持って魔物達は突破してきた。間もなくこの関ヶ原に到達するみたいだ」
報告を受けて雨宮は重々しく告げる。だがここにいるメンバーは動揺するどころか待ちくたびれたと言わんばかりに気合の掛け声を入れる。
それはそうだろう。ここにいるのは魔物の到達点で集まってきた魔物達を倒す最後の戦いを任された精鋭、猛者揃いである。
ここにいる人々は、道中にどんなに罠を仕掛けていても、どんなに妨害を仕掛けていようとも魔物達は必ずここまでたどり着くことを予想されたことで最高戦力として集められており、肉体的にも精神的にも並の探索者を超えている。
日本を横断しての長い長い旅路の末に待ち受ける探索者がこのメンバーとあっては魔物の方が少し可哀想にも感じるが、これも生存競争、悪くは思わないでもらおう。
そしてその中にあってもひときわ気合の入っている者もいた。
「やぁーっと戦いでの出番だよおい、待ちくたびれたぜ」
「あ、秋彦気合入ってるね……」
「まあな、正直こんなに戦うことに飢えていたとは自分でびっくりなくらいだ」
秋彦である。あまりの気迫に声を掛けた優太が少し怯えてしまっている。
しかしそれも仕方ない事だろう。秋彦は今回の地方都市奪還作戦においては、最初からサポートに回っており前線にはほとんど出ていない。せいぜい環境結界を解除する際に龍之介と一緒になって戦ったくらいである。ほぼ自分では戦っていない。
元から秋彦は戦いにおいては、前に出て攻撃を買って出るタイプだ。好戦的と言わないまでも、少なくとも戦いを人任せにはしない程度には戦う人である。
それが今回初めて補助を任されて、他の人は戦っていると言うのに自分は戦わないと言う状態が続き、それが知らず知らずにストレスとなっていたらしい。
そこでようやく派手に戦いが出来る場を与えられて、柄にもなく気分が高揚しているのだ。
我慢に我慢を重ねての戦いとは言え、こんなにも戦いに心躍るとは、自分も変わったものだと秋彦は思う。尤も、優太はそうは思っていないが。
「あはは……本当に程々にね? 僕も付いているから」
「お、おう。そうだな」
苦笑しつつも諌めるように声を掛ける。
優太は長い付き合いで知っているのだ。
秋彦は確かに普段は極力争いを避け、むやみに暴力を振るわず平和的な解決を望む穏やかな気性の持ち主である。
だがその反動なのか、一度暴力でしか解決できないと判断した時のどう猛さはそれこそ普段が穏やかなだけあって色濃く出てきてしまう。
特に敵対者には容赦しない所がある。それは魔物が相手だって同じだ。
初級ダンジョンの最初、バルカンと言うボスと戦った時もそうだった。インファイトで戦い合うあの光景はもはやどっちが魔物かわからない程度には恐ろしかった。
今はそれが長い間我慢させられてきた事で強く前に出てきてしまっているだけの事なのだろう。ある意味根っこはどこまでも変わっていないのだ。
ならば上手くストップかけていくのが、親友としての優太の役割だ。思えば二人はいつもそうやって一緒にいた。今までも、これからも変わらないだろう。
それに今は二人だけではない。
「男の子同士の友情、良いわねー。でも私達を忘れちゃやーよ?」
「そうそう、二人だけの空間作んないであたしらも入れてよ」
「……今は五人で一チーム」
ある意味いつも通りな二人に三人の女子が声を掛けて来る。ジュディ、桃子、茜の三人だ。
思えばこの三人との付き合いが始まったのはこの世界にダンジョンが現れ、人間たちがその対処に追われるようになったその最初の時からである。
今となってはすべてが懐かしい。最初の日本魔物大氾濫と呼ばれたこの世に初めて魔物が現れ、世界に牙を剥いたあの事件。あの時から始まっていた。
二人だけでは手数が足りない魔法の属性も足りないで探し始めた仲間だったが、この三人と戦うようになって意外なくらいにしっくりきた。
その後も親交を深めていき、プライベートでも付き合いを持つようにもなり、ジュディと秋彦はとうとう男女交際にまで仲を深めることになる。
一人はイギリスにおいてかなりの発言権を有する巨大企業の社長令嬢。
一人は二世アイドルとして今大ブレイク中のアイドル歌手。
一人は大物政治家の娘で自身も政治の世界に飛び込もうとする政治家の卵。
本来この三人は秋彦達小市民とは住む世界が違う。本来であればこの三人と二人は出会うはずがなかった。
だが、その垣根を超えてこの五人は出会い、仲を深めた。
全てはダンジョンから現れる魔物を一掃し、日本の領土を魔物の手から取り戻すためである。
「お、そうだな。悪かったよ。俺達は五人で1チームだ。この戦いが日本において地上で戦う最後の戦いだろうな」
「そうね、そのはずよ」
「だからこそ! 今のうちに思いっきり顔を売っとかないと!」
「あはは……桃ちゃんぶれないなー」
「……いつもの事」
その戦いがようやく一区切りつこうとしている。
しかしその一区切りは大きな壁でもある。この戦いは最初にして最後、最大の規模で人間たちの前に立ちふさがった。
「さーて、俺らの日常を取り戻すために!」
「私たちの平和を取り戻すために!」
「僕たちの帰る場所の為に!」
「あたしたちのサクセスストーリーの為に!」
「……私達の未来の為に!」
秋彦が言葉と共に手のひらを前に出すとジュディ、優太、桃子、茜の順に続いていく。
「レインボーウィザーズ! 行くぞー!」
「「「「おー!」」」」
号令をかけ重ねた手を押し込んで放す。そしてハイタッチをしあう。決戦は目の前だと言うのに暢気なものである。いや、だからこそいつも通りに振舞い合おうとするのかもしれない。
土煙が遠くから上がっている。地鳴りがする。うめき声のような魔物の雄叫びが聞こえる。
血戦の開始である。
皆様からのご愛顧、誠に痛み入ります。
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次の投稿は9月2日午前0時予定です
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