第二百十話 終わりの始まり 見守る人々2
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
とにかく、これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
場所は再び戻って日本。仲町商店街の一角の中華料理店、赤龍。今や優太の実家としてだけでなく数少ない魔物の料理を出すことでも有名な店である。
昼時を少し過ぎてもいまだに列がなくならないこの店でも開戦の狼煙が上がったニュースは報道されていた。
この店は小さいテレビが天井付近に置いてあるのだ。普段は国営放送を垂れ流しにしているだけのテレビだが、今日はいつ始まってもおかしくないこの時の為に探索者の動向を報道する番組にチャンネルを変えていたのだ。
「うわぁ! た、大将! テレビ見ろよ! は、始まっちまっちまったよ!」
「わあああぁぁぁ! た、大変だあああ!!」
その時客として店にいた人は大騒ぎである。
尤も、この場にいる人々は探索者としては日が浅かったり、そもそも探索者ではないのが少し滑稽と言えなくもないが。
そんな中でも割といつも通りの営業を行っている石動夫妻。
「おー、本当だ。優坊の奴、また活躍しちまうのかねぇ」
「本当、私達の息子も立派になったわねぇ」
優太の父、陽介が面白がるように声を上げれば、優太の母、静香はしんみりとした声を出す。
何というか凄まじく暢気に話をしている。この辺りは魔物の通り道にはならないとはいえだいぶ悠長である。
「大将落ち着いてんな!?」
「そらもう優坊が探索者になるって言ってどんどん強くなってからっていう物驚くことばっかりだからな。もう今更ちょっとやそっとの事じゃ驚けねぇってんだよ」
「本当ね。いつもおどおどしていたあの子が本当に立派になっちゃって」
思わず客に突っ込みを入れられてもどこ吹く風である。
まあそれも仕方ない事なのだろう。何せこの夫婦、優太と言う今では探索者達の頂点レベルにいる探索者を生み育てた親なのだ。
今ではあり得ないが、当時は殺し合いどころか喧嘩さえまともにできず、悪ガキ相手によく泣かされて、代わりに秋彦が喧嘩してを繰り返しており、いつも秋彦の陰に隠れてばかりいた頃をよく知っているのだ。
それが今では人を率いて魔物相手に争い事の日々である。人はどうなるかわからないものだ。
「これも優ちゃんの成長と思うとたくましい反面少し寂しい気もするわね……」
「なーに感傷的になってんでぃ! 優坊達はまだまだこれからだってーの! 優坊達が帰ってきたら盛大に祝うぜ! あ、そうだ! この戦いが無事人間側の勝ちで終わったらうちの店その日に限って全品タダで飯出してやるよ!」
「え?! 本当かい大将!?」
「漢に二言はねぇ! そんなめでてぇ時に金なんぞ取らねーよ! だからみんな呼んで来いよな!」
「また勝手に決めちゃって……まあいいけどね。確かにこんなおめでたい時に商売とか言ってる場合じゃないわね!」
その言葉に一気に祝勝ムードが漂う。さっきまで大慌てで騒いでいたのが、今度は早すぎるお祭り騒ぎになりそうだ。
「うし、宣言しちまったことだし、今日はまだまだ頑張るぜ母ちゃん!」
「はいよ、まだまだこんなんじゃへこたれてらんないよ父ちゃん」
そうして赤龍はいつもと違う騒ぎの中、いつも通り営業がされるのであった。
………………………………
『……とうとう始まったか……』
『はい、旦那様。お嬢様は勿論参戦なされておいでです。400年前に有名な戦いのあった事で有名な場所にて集う魔物どもの迎撃を担当されるとの事です』
『そう、分かったわ。ありがとう』
大阪のとある喫茶店にて、マクベス夫妻とメイドのセリーヌはティータイムを楽しんでいる最中だった。
しかしここに来て最終戦の勃発である。薄々そうなるのではないかと思っていたので、わざわざ帰国を遅らせたのだ。
何せこれは新たな歴史の節目と言える瞬間だ。魔物を一つの国からすべて掃除しきり、再び人間の手に秩序を取り戻せた瞬間など、誰が見ても偉業と言えるだろう。
そんな歴史の節目に立ち会えるかもしれないと思ったら、つい予定を変更して日本に長居していたのだ。
だが、いざその局面に日本にいるとやはり緊張してしまう物だ。自分達が戦うわけではないのに心臓の音がやたらとうるさく感じる。
緊張を紛らわせるためだったのか、ふと思い出したジュディの過去。少しでも生きて帰ってくる根拠が欲しくて、つい話してしまう。
『まあ今回もあの子はなんだかんだ大丈夫だろう。あの子は不思議な子だしな。知らず知らずに最善手を選ぶと言うか、いざと言う時に力を発揮すると言うか』
『ああ、あの子は結構そういう所があるわよね』
子供の頃から活発で、何にでも首を突っ込みたがるジュディ。それ故に結構トラブルには巻き込まれたり自ら首を突っ込んだりしがちだったのだ。
探検しようとして森の中で迷子になったり、子供同士言い合いになって喧嘩になったり等、トラブルの元を上げればきりがないほどであった。
しかしジュディはどこか一線をわきまえていると言うべきなのか、超えたら取り返しのつかない部分をなんとなく分かっていると言うべきなのか、いかにやんちゃしていても自分だけは最悪の事態を必ず避けている節がある。
今回の探索者騒動にあっても世界がこれだけ酷いことになって、死者、負傷者が多い事態になってもジュディ達は成り行きだろうと強くなって、探索者として成功してしまっている。
正直に言えば結果だけ見れば自らが強くなることが最善手であることをジュディはなんとなく分かっていたのではないかとさえ思ってしまう程だ。
『そうですね、周りをひやひやさせるようなことも多いですが、お嬢様は案外効率よく事を進めていることが多い気がします』
『そうだろうセリーヌ? だからまあ、今回もたぶん大丈夫さ』
『そうですわね、今はあの子の悪運の強さを信じましょう。セリーヌ、紅茶のお替りを頼んで』
『かしこまりました奥様』
マクベス夫妻の優雅なティータイムは、まだ始まったばかりである。
皆様からのご愛顧、誠に痛み入ります。
これからも評価、ブックマーク、感想など、皆様の応援を糧に頑張って書いていきます。
次の投稿は8月30日午前0時予定です
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