第二百六話 罠魔法
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
とにかく、これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
「今日も一つ、地方都市を解放したな」
「……ああ……」
地方都市奪還作戦も後半に差し掛かり、折角地方都市をまた一つ取り返したと言うのに勝利のムードとは違う一つの緊張感がそこに漂っていた。
「本部、魔物どもの動向は?!」
『……今回も魔物達に動きはない。お疲れ様、そろそろ油断できないけれど、今回も無事を喜ぼう!』
その言葉を聞いてようやく辺りには弛緩した空気が流れ始める。
現在、地方都市奪還作戦は後半を過ぎ、終盤に差し掛かっていると言える。それはつまり、奪われた都市の奪還数が半分を超していると言う事である。
それはつまり、起こるとすればそろそろなのだ。現在人類が最も危険視している現象。国単位でのボスチェンジ現象が。
正確には現在は5割から4割と言ったところなので、まだ起こるかどうかは未知数だが、もういつ始まってもおかしくはない。
折角都市を奪還できたとしても緊張感が出ると言う物である。
それは勿論探索者だけではない。日本中の人々、海外の人々でさえこの現象が起こるかもしれないその瞬間を緊張と恐怖を持って見届けている。
『まあでもそろそろ一都市奪還ごとに作業を行わないといけない時期になってきている。工作班、速やかに準備を!』
指示を受けた工作班が荒廃した都市に魔物用の罠を仕掛けるべく動き出す。
ここはすでに魔物の支配から解放した都市だ。今ここに魔物はもういない。それなのに都市に罠を仕掛けるのは、ここが魔物の通り道になることが予想される都市だからだ。
最近は都市の制圧自体は早く済んでいても、Xデーのための備えに時間がかかって一日一都市の進行速度になっているともいえる。
都市も荒れ果てているのであえてそのままにして罠を仕掛けることで、日本中の魔物が集結する際に罠を通過してダメージを与えて倒すようにする。そうすることで少しでも魔物の数を削り、ボスチェンジによるボスモンスターを弱体化させるのだ。
効果があるかは未知数とはいえ、少しでもやる事で、探索者達の死傷者を減らすことが出来るなら、それをやるのがギルドの務めらしい。
今は自衛隊と連携して罠を用意し、仕掛けるための下準備を進めている。
「じゃあここにも炎の魔法石を置いてくださいね。侵入したら爆破するように仕掛けます。あ、そこにも横道がありますね。潰してしまいましょう」
罠設置班の陣頭指揮を執っているのは中部ギルド、ウィッシュ・オン・ザ・スターのギルドマスターである立川だ。
ちなみに西側でも罠設置班はあり、そちらは四国ギルド、こんぴらさんのギルドマスター、水無月が陣頭指揮を執っているようだ。
彼らは枝野が考案した魔法陣と魔法石などを使っての魔法式の罠をあちこちに仕掛けている最中だ。
通常の罠ももちろん仕掛けてはいる物の、正直ここまで強くなった魔物相手に効果は疑問なうえ、ボスチェンジの為に集まる魔物は他のすべてにわき目も振らずに向かうため、単純に威力を重視した罠を設置する必要がある。
そうなったときに、科学的な爆弾なども使用はするが、魔法的に効果がある魔法陣と魔法石を使用しての罠は効果が高いとして、現在は積極的に設置をされている。
この魔法的な罠、昨今では【罠魔法】として枝野の手によって考案され広められている。効果は高く、自然を破壊する様な物質も出ないことで注目を集めている。
が、この魔法陣自体がそれぞれの属性魔法をレベル15にしないと描けないので使い手がかなり少ないのが悩みの種だ。
要は魔石を魔法石に加工するときに使う魔法文字を刻む自分の魔法力で作るペンで魔法陣を書かないといけないのだ。
あのペン、現在では【魔筆】と呼ばれるのだが、主にそれを作り出せるのは属性補助魔法を使えるレベルの人たちの事なので、補助部隊に所属する人たちが総出で駆り出されている状態である。
実働部隊ではないとはいえ、補助部隊は最近少々働かされすぎなような気もするが、そこは報酬を期待したい所ではある。
「さて、こんなもんか……西組の制圧も終わったんだよな?」
「いやいや、とっくだって。今日も無事に終わりだよ」
「そう、だよな。うん。よかった」
改めて確認すると思わず気が緩むと言う物だ。
現在は中国ギルド、瀬戸の戦士のギルドマスターである千田率いる斥候部隊が各地を見張って魔物の動向を注視しているが、今や気が気でないらしく、千田曰くこんなおっかない監視任務は初めてだとの事。
とにかくいつ動くかわからない現状に備える事は必要だろう。人類側は着々と準備と用意を進めており、Xデーは目の前に迫っている。決戦の瞬間、その時に勝つのは人類であると信じて。
………………………………
日本の行く末は現在世界中が注目しており、誰もが話題にあげる物となっている。そしてそれは、彼らにとってもそうだった。
薄暗い部屋の中、彼らは自分の行っている作業の手を止め、一堂に会して日本の行く末を見守っていた。
ダンジョンウォッチのディスプレイのように宙に浮かぶ映像からは、日本のニュースや探索者達などの状態が写っている。
『いやしかし、まさか日本が一番乗りとはね』
『てっきりイギリスかギリシャだと思ってたんだけど。あそこら辺は神秘の度合いがかなり高いから』
赤髪の女性と青髪の男性が楽しげに会話をしている。彼らは魔法言語にて会話をしており、ここでの会話の言語は魔法言語のみの決まりに従っている。
『はー、景気のいい話だ。こっちなんて苦戦も苦戦、大苦戦だってーのにさー』
『不貞腐れちゃだめよ、私の所も思うようにいかなくてやきもきしてるんだから』
ぶすっとした様子で話す黒髪の男と諭すように、あるいは同調、同情するかのように声を掛ける金髪の女性。
『はっはっは、私は本当に運がよかった。秋彦君と優太君。あの二人に出会えたことが最大の幸運だったな』
そしてその中で愉快そうに笑い、あるいは自慢するのはライゾンだ。そう、この場所はライゾンが所属するダンジョンを世に作り上げ、世界中を混乱に陥れた人類救済組織ノアズアークの本拠地だ。
『でもまだまだ気は抜けないよね。我々の目的はさらに先だ。こんなところで躓いてはいけないよ日本の諸君、いや、人類の皆様、と言った所かな』
棘がある言い方をする、その中にいる人々の中でも一際背が小さい人。
『何、大丈夫だとも。待っているがいい×××よ、我々は決してお前たちの思うようにはならないぞ!』
ライゾンが声高に宣言する。それは、人類が彼らの目的に一歩近づいた宣言ともいえるだろう。
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