第百九十九話 悩みと葛藤
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大阪に戻ってから探索者達は一部の上位陣だけでなく、様々な探索者達にスポットライトが当たるようになった。それ自体は探索者達にとっても本意であるのでとてもいい事ではある。何せ大半の探索者はこれが目当てだったと言っても過言ではないのだから。
組まれるテレビや雑誌の特集。一躍ヒーロー扱いである。そしてほとんどの探索者はそれを享受していた。
自らのツブヤイッターのフォロー数は天井知らずでフォロワー数はステータスとして自慢される始末である。
従魔進化のために与えられたわずかな時間。探索者達は現在ホテルにてその疲れをいやしている真っ最中である。
ある者は観光、またある者は従魔持ちの交流による己の従魔の自慢大会等、皆思い思いに休日を謳歌していた。
モンスターキラーズもその一例にもれずに休日を謳歌していた。
今回の戦いで潜入工作班に参加していた真崎がいた事でモンスターキラーズも一気に注目の新人枠入りである。そしてあのレインボーウィザーズやビューティフルドリーマーと個人的な親交があるとわかってからは猶更の注目株として現在探索者達からさえ一目置かれる存在となっている。
そんな彼らは現在思い思いに休日を過ごしていた。例えば奏は外にランニングをしに行ったり、笑屋はアイドルのライブ映像を見て騒いだり、言葉は食べ歩きをしたりといった具合に、各々が楽しめるように休日を過ごしていた。
だが、モンスターキラーズの中でも普段と違う行動をしていた者はもちろんいた。
「すみません、このまも……じゃない従魔を触ってもよろしいですか?」
「あ、はい、どうぞどうぞ!」
真崎は今、主の許可を取って恐る恐る魔物、否、従魔の頭をなでていた。頭をなでているのはブレードラビットの進化系である【ソードラビット】と言う魔物らしい。
ブレードラビットは、大体耳が刃物のようになっており、切れ味がとても鋭い。それの進化系であるソードラビットは、ウサギの二つの耳が一つの剣のように合わさって、剣のように見えている。実際耳を触れば怪我では済まないだろう。だが、そこにさえ気を付けていれば、ソードラビットは幸せそうに目をつぶり、されるがままになっている。
こうしてみればなんと可愛らしい物か。
今見てみるととても信じられない。これが地方都市奪還作戦においても幾度となく立ちはだかり、人間を窮地に追いやり、ついには都市部を占領してしまったあの魔物と同じなどとは。
真崎は今、一つの重大な決意を決めるためにここへ来ていた。ここ、従魔ふれあいスペースのあるこの公園へと。
真崎剣吾。モンスターキラーズの一員であり、近接戦闘における攻撃を担当するメンバーだ。装甲がめっぽう低いながらも高い攻撃力と機動力を武器に戦場を駆け回る戦士だ。
そしてもう一人。今日は彼もここにいた。
「そうなんです、もう可愛くって可愛くって!」
「そーなんですねー、見てて微笑ましいですー」
別の場所にてニコニコ笑顔で主が繰り広げる従魔の自慢話を聞くのは石崎だ。
石崎茂。彼は真崎の誘いに一も二もなく乗っていた。一見付き合いの薄そうな二人であるが、実はこの二人は親友同士である。
モンスターキラーズ結成の瞬間に親友になったタイプではあるが、実はかなり気が合う二人でもある。結成前はずいぶん衝突もした二人だが、衝突の回数が信頼の厚さを形成したともいえる。
魔物相手にペットを相手にするかのように接することになるこの場において真崎はかなりおっかなびっくりである。
それを見て石崎は悟る。真崎は今必死に葛藤しているのだと。割り切れないものを割り切ろうと必死になっているのだと。
石崎はそんな親友の葛藤する様を見ながら、今朝あった事を思い出していた。
………………………………
「へぇ……んな事がねぇ」
「ああ、正直見るに堪えないっていうか、そこにいるだけで死者の無念や嘆きが身に染みいる様で怖気を振るったっていうかさ……俺はもう遣る瀬無くなっちまったっていうか……もうなんて言ったらいいか……」
「で、それを今俺に言ったのにはどんな理由が?」
ホテルの一室、石崎に用意された部屋だ。そこで真崎は独白のように、あるいは懺悔のように親友にその話をしていた。
「俺だって従魔の事を見れば魔物っていう存在自体が、全部が全部悪いわけじゃねーってのはわかる。でもあんなもん見たからなのか……こう、魔物に対してなんだ、どす黒い感情っていうか……」
「まあそんな現場みりゃ憎悪の一つや二つもするだろうな。あれだけやっておきながら殺したりねーとでも思ったんだろ?」
「流石だぜ、よくわかってくれる」
そう、真崎の懸念はそこにある。募るばかりの憎悪がいつか爆発し、人々の味方であるはずの従魔にさえ向けられるのではないかという恐怖が、そうなったらもはや人の中にさえ居場所がなくなるのではないかと言う恐怖が。両親や死んだ祖父は絶対に臨まない道に進んでしまいかねない今の自分に対しての恐怖の念が渦巻いていたのだ。
このままではその恐怖さえ暴走し、最悪の結末を迎えかねない。こんなことを相談できるのは、仲間の中でも石崎しかない。そう思っての、絞り出すかのような相談だった。
そんな悲しげな表情の親友に対し、石崎は真摯に話し始める。
尚、石崎ののんびりとした口調も、真崎と同じく自分を変えるための物である。素の石崎は今の様にはきはき話す。
「でもさ、従魔に憎悪を向ける以前にさ、俺らは従魔の事について知らなすぎるんじゃね?」
「え?」
「まずは従魔についてもちょっと知ってみようぜって話。あーだこーだ言う前に今のまーちゃんはそこをもっと直接的に知った方がいいと思う。よし、ちょっと行こうぜ」
「え? ど、どこへ?」
「いいから来いって。まずはふれあわなきゃな」
………………………………
そうして、半ば引きずるように石崎は真崎を従魔ふれあいスペースに連れてきた。今まで自分達は見たら殺す以外無い魔物とばかり相対し続けていた。秋彦達が従魔を持っていたことで従魔の事については知っているしみたこともあるが、すべてがすべてああという訳ではないかもしれない。
まずは従魔の存在についてもっと直接的に触れ合う事で真崎がどう感じるようになるか、石崎はそれを少し試そうと思ったのだ。
この二人は今日一日はここにいることを決め込み、従魔とふれあう日とした。この触れ合いが後の為になると考えて。
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