第百九十七話 地方都市奪還作戦、暗き情念
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
「やった! やったあああああ!!!」
「勝ったああああああああああ!!」
勝利の余韻は探索者達がバスに乗って尚、留まることを知らなかった。
歓声と口笛、割れんばかりの拍手を以って、酒もないのに宴会の空気だ。実時間わずか三日ではある物の、この長い戦いの中で死者を出さずに戦い抜けた達成感と、この後に待つであろう自らの力量を称賛する声や、勝者への報酬が昂る思いとなり、探索者をはしゃがせるのだ。
「まずは大阪戻って会議!」
「宴会もあるってよ!」
「MVPインタビューとかももう待ちきれないぜ!」
様々な人が騒ぎ立てている。中にはスマホを使ってこの状況を生配信している人々もいる様だ。スマホを様々な方に向けて、実況の様にスマホに語り掛けている人は少数ながら結構いたりもする。気分が高揚してしょうがないのが目に見えてわかる状態である。
大騒ぎのバスの中だが、その中にあって真崎は静かだった。
今は他のモンスターキラーズの面々さえ喜びに声を上げ、笑顔で語り合っていると言うのに。
真崎はにこりともせずに、刀を抱き込むように座っていた。
「……まだ刻み足りねぇ」
はっきり言って危険人物の言動としか言いようがないが、正直に言うと、あの惨状を築き上げた元凶を前に自分が十全と剣を振るえたかと言えば首をひねらざるを得ない。
あの人間の魂が魔物の作った場所にとらわれ、死んでなお苦しめられるその惨状を見た自分だからこそ、その責務として敵の止め位貰いたい。真崎はそう思っていた。
だが、実際はどこの誰とも知れない者にとどめを持っていかれ、この戦いもどこかあっけなく終わってしまった。
勿論真崎だって、戦闘はもっとドラマティックな物などと言う様な感性は持ち合わせていない。
だがそれでも真崎は真崎なりにこの戦いには思う所があって盛大に挑んだのだ。それをあんな形で終わってしまったと言うのには、正直思う所がある。
実は真崎はバスに乗る前、勝利に喜ぶ人々をしり目に倒れたボスモンスター相手に攻撃をひたすらしていた。まさに死体蹴りである。死体斬りともいえるがそこはどうでもいい。
あんな惨状を生み出した魔物が最後の一つになって生まれた超絶的な化け物相手に、あの現場を見た真崎がとどめを刺せなかったのがたまらなく悔しかったのである。あそこにいた人々は死んでなお苦しんだと言うのに、こいつは死んではい終わりさようならと言うあっけなさに、真崎は憤りを爆発させていたのである。
しかしそれですでに死んでいる魔物が反応するわけもなく。一人で勝手にへとへとになって、悔し紛れに本当に蹴りを入れて終わりにしたのだ。
許せなかった。憎らしかった。出来れば己の手でとどめを刺したかった。そう思うだけで真崎の心はどうしようもなくざわつく。
真崎の魔物に対する憎悪は深くなる一方だ。勿論従魔は別であるにしても、このままでは本当に魔物を根絶やしにするその時まで止まれなくなってしまうかもしれない。
それは両親も、自らが敬愛する祖父も望まないだろう。どこかで折り合いをつけなければいけないが……
そう思うと思わずため息が出ると言う物である。
刀をふと見ると、自分の憎悪に反応するかのように、しかしこの勝利の雰囲気を壊さないように静かに暗く光っているかのように見えた。まるで持ち主を慰めるかのように。
その光を見ると、どこか平静を取り戻せるかの様な不思議な感覚を覚える。そして一つ新たに決意する。
「……もっと強くならなきゃ……」
思わずぽつりと声に出してしまう。自分はさらに強くならねばいけない。その、人に仇名す魔物に対する憎悪を膨らませていると……
「おーう! マーちゃんどーしたよ? そんなに丸まっちゃって!」
笑屋が真崎に声を掛ける。この一人決意を新たにしていた所で、である。
いつもの様な輝く笑顔だ。自分達が出会った時の様な悲しそうな笑顔ではない、太陽のような笑顔だ。
その笑顔を見ると、どことなく自分も嬉しくなるのだから不思議な物だ。
「……いや、何でもない。せっかくのめでたい状況だもんな、ここはきっちり祝わないとな!」
「そうそう! そうこなくっちゃ!」
この暗い怨念のような思いから現実に引きずり出してくれた友人に、真崎はちょっと感謝する。
折角なのだ。はしゃがなくては損と言う物。ようやく真崎も、この喜びの場に自らをさらすことが出来た。
都市部の歓迎はきっとこんなものではないだろう。正直に言うとそこはワクワクするところではある。
真崎はようやくこの現実に喜ぶことが出来たと言える。笑屋のおかげでだ。
そうしてこの宴会ムードのバスは一度大阪へ戻り、人類に戦果を報告しに戻ることになる。その時に受けるであろう称賛の声や報酬に期待しながら。
………………………………
都市部ではもう探索者の想像を超えるお祭り気分であった。
バスに乗っていると言うのに、まるで祭の神輿にでも乗ったかのような気分にさせられる。示し合わせる時間があったわけでも無かろうに紙吹雪が宙を舞い、太鼓の音が響き、歓声は探索者が上げたそれの比ではない。
誰もかれもが探索者に称賛の声をバスの中にいると言うのに呼びかけ、称賛の声を送り続けていた。
人だかりどころではない人の山である。
まるで今この場には全日本人が押しかけてきているのではないかと言う、そんな錯覚さえしてしまう程であった。
元々最終的な報告をするために大阪に戻ってきたのだが、それがまさかこんな騒ぎになろうとは思わなかった。
「いやー、なんつーかすごいな!」
「本当にね!」
「いよいよ始まる人間たちの反撃が成功しそうとあったらテンションも上がるって」
「そらそうだわな!」
バスの中にもその歓声が届いたのかバスの中の探索者も楽しげである。間もなく探索者会議、第六回目の開催である。
皆様からのご愛顧、誠に痛み入ります。
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次の投稿は7月26日午前0時予定です。
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