第二話 石動優太
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「はぁ……やっと、教室に入ってこれた」
「よ、お疲れさん」
「改めておはよう秋彦。お勤めご苦労様」
「おお、ドルヲタエミーに親友。おはようございます」
「はっはっは、風紀委員が抜けてねーぞ」
「おっとっと失礼」
友人二人と軽く談笑をして席に着く。
挨拶活動を行う風紀委員は早くに学校に来る割にHR近くにならないと教室に入ってこれない。談笑の時間が短いのは少し寂しい。
秋彦達は高校入学間もなく、一週間前後しか経過していない。部活紹介もまだロクに済んでいないが、委員会だけはクラスの中から必ず一人は選出しなくてはいけないので早くに決まる。
秋彦のデカい図体におびえずに真っ先に話しかけたのは一つ前の席にいる笑屋 健治ドルヲタエミーなんて呼ばれているようにアイドルオタクである。もっとも、昨今たくさんのアイドルがしのぎを削って様々な活動にいそしみ、人気を集めており、アイドル戦国時代なんて呼ばれる今、自分の推すアイドルの一人がいるのはある種当たり前のように思われている節がある。
とはいえ、テレビも見ない秋彦には無縁の話なのだが。
エミーはそれを知ってからと言う物、「君にアイドルのすばらしさを教える!」と言ってしょっちゅう話しかけてくる。この図体を前に怖気づくこともなく、飽きることも無くよくやるものだと思う。そしてそんなに熱中できるものがあることをうらやましくも思う。
そして秋彦が親友と呼ぶ彼の名は石動 優太
昔から優しそうな容姿と細い体。相手に強く出られると怯えてしまう性格から小、中学校ではよくいじめのターゲットにされていた。身長も低く162㎝と小柄だ。容姿と細さから女性と勘違いされることも一度や二度ではない。大柄で筋骨隆々としている秋彦とは真逆だ。
だがそんな彼だが秋彦ととても仲がいい。幼馴染だということもあるが、秋彦の急成長にも驚かず変わらず仲良くしていたことが大きな理由だ。
「親友、そういえば、大丈夫か?」
「え? あ、ああ……ちょっと困ってる……」
この大丈夫かというのは「いじめられてないか?」の事である。
自分のいない間にいじめを受けているのが常である。親友にたびたび聞くのだ。なにか変わった事、困った事は無いかと。
そして困っているという返答。ここで言うくらいだ。このクラスではないのだろうが……一週間もしないうちにもう誰かに目をつけられたのか……
「え? なになにどったのよ?」
「気にすんなエミー。そういやアイドルランキングの話どうなった?」
「ああ! それね! 大丈夫前年度、前々年度のまで持ってきたぜ! 今年度はまだ出てねーんだけど前々年度ランキングトップ10入りした期待の新人、桃坂 桜っていうのがなランキングに更に食い込んでだな!」
「そこまでだ笑屋! HRを始めるぞ! ももちーへの期待は分かったから、さっさとそのアイドル資料をしまえ!」
「げ、タッタクせんせー……うう、また後でな」
エミーの熱の入った講義は、担任の岩田拓郎先生に虚しくかき消された。エミーから話題そらすにはアイドル話が一番だというのは知っているがちょっとかわいそうなことをしたかもしれない。後で詫びを入れておこう。
それにしても優太が目をつけられたか……今日は下校の見回りもあるし、いつもより念入りに見回っておくとしよう。
………………………………
「すみません、下校時刻を過ぎています。部活動で残っている生徒以外は下校してください」
「あ、す、すみません。すぐに帰ります……」
「最近物騒ですので、気を付けてくださいね」
秋彦は現在学校に不要に残っている生徒がいないかを見回り中である。部活動で残っている生徒は部活棟にいるので、教室を見回って、生徒がいないことを確認して風紀委員の仕事が終わる。日中も、風紀委員は何かとトラブルを押し付けられやすいが、そこはしょうがない。そのトラブルを取り締まる立場だからだ。
ある程度教室を見回った所で、秋彦の耳が嫌な声をキャッチした。
下卑た男の笑い声だ。下校時間を過ぎた、人のいない教室でそんな声が聞こえてくるシチュエーションを考えると選択肢は多くない。女の叫び声が聞こえないのが不幸中の幸いか。
秋彦は眉をひそめて声のする方向へ向かう。
人数の関係で使われなくなった教室、男たちの声がする教室の扉を勢いよく開けて大声を上げる。
「コラァ!! 下校時刻はとっくに過ぎているぞ何している!!」
そこに居たのは複数人のひょろっとした制服を着崩した男達と、恰幅のいい男。そしてパンツ一丁であちこち様々な怪我を負った親友の姿だった。顔には青あざを作り、肩が真っ赤になっている。胸に小さな丸い火傷があり、部屋全体がタバコの臭いが充満していることから先ほどまで喫煙が行われていたことが見て取れる。
秋彦の声に、リーダー格と思われる恰幅のいい男が詰め寄って睨みつけてきた。金属バットをもってだ。
「ああ? テメー誰に向かって口きいてんだおいコラ殺すぞ?」
「これだけわかりやすい虐めを見るのは初めてだ。そしてこの臭いは喫煙だな? よくそこまでやっておきながらそんな態度に出れるものだ。この腕章が見えんのか?」
「ああ?! んだとコラ! 風紀委員だからって調子乗るなクソが! 殺してやる!」
手に持った金属バットで秋彦を思い切り殴りつけてきた。
だが秋彦はここであえて手を出さず攻撃を受ける。一応ガードはしたが、バット込みだとなかなか痛い。そしてちらりと親友の方を見る。そしてわざとらしく尻もちをつく。
「なんだこの野郎見掛け倒しじゃねーか! おい! 全員でこいつボコすぞ! 二度と歯向かえないようにな!」
その言葉を聞いて他の取り巻きも床に置いてあった、おそらく部活棟から拝借したのであろう。ゴルフクラブやらなんやらを持ちだし、秋彦を攻撃する。
流石に四方八方からの攻撃はちょっときついものがあるが、恰幅のいい男の攻撃以外はどれもお話にならない位弱い。
これなら大丈夫だ。ある程度攻撃を受けたところで、親友をちらりと見る。パンツ一丁のまま隅っこで怯えていた。この位置ならリーダー格倒せば人質に取られる前に無力化出来る。
それを確信し、反撃に出る。
即座に立ち上がり、バットを振りかぶって踏み込もうとした足を蹴る。体勢が崩れ、膝をついた瞬間に顔に思い切り回し蹴りを食らわせる。
鍛えある体から繰り出される一連の動きは相手を倒すには十分だったようで、恰幅のいい男は既に気絶していた。倒れていなかったら丁度いい位置に頭があったし、かかと落としでも入れようと思ったのだが。
「ひ、ひいいいい!!?」
リーダー格がやられたことで戦意喪失。下っ端の一人が盛大に悲鳴を上げた。
「……お前ら今から警察に電話されるのとこれから生徒指導室に行くのどっちがいい?」
結果は言うまでもなかった。