第百八十九話 潜入工作チーム、潜入ルートと潜入道具
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
魔物が跳躍跋扈する都市。闇に包まれ様々な物が破壊されたそこは、人が動くにはあまりにも息苦しく、辛いものになっていた。
「う……ゴホッゴホッ!」
「真崎殿、気持ちはわかるがあまり大きな声で咳き込んではならぬ」
「す、すみません……」
「でもまさか闇属性魔法使いである私達でもここまで息苦しいとは思わなかったです」
そう、ある程度この結界に対して耐性のある闇属性魔法使いであってもこの環境は過酷だった。
かつて茜は初級ダンジョンの三階層のボス戦において瘴気という形でだが、場を呪い、その場の力を持って自らを強化した敵を体験したことがあった。別の形とはいえ、場を呪う事で強化する敵。今探索者はその恐ろしさを改めて実感していた。
増して今回は自分達の側に弱体化も入っている。もしこの都市の惨状を見た時、何もなく突っ込んでいたら恐らく一も二もなく敗走していたはずだ。それも、多くの犠牲を出しながら。
そのあたりはギルドマスター達の采配に感謝しなくてはいけない。
「まだまだここは入り口も入り口にござる。いざ参らん!」
始まると素早く行動を行う影丸。残りの四人は慌ててその後を追いかけるが、やはり本職だけあって影丸の動きは早く、洗練されていた。影丸は、垂直に立っているビルを何と駆け上がって屋上まで到達した。
超人じみた身体能力を持つ他のメンバーもこれには驚いたし、困惑した。
「あ、あれ俺らもやれって?」
「で、出来なくはないかもしれないけど……」
実際はやれるのかもしれないが、いきなりこんな未体験、未経験の事をやらせてお前らもやれと言うのはちょっと横暴ではないのだろうか?
ビルを前にしてメンバーは少し困惑していたが、影丸自身はそんなことは考えていないらしい。
影丸が頂上からロープを落としてきた。そして下にいるメンバーに向かってくるようにジェスチャーをする。探索者の身体能力ならばこのロープがあれば確かに苦はないだろう。
全員とりあえず安心した。一応何も考えずに無茶ぶりをする人ではないことが分かったのは良かった。
ロープを使い、ササッと上がってくる。腕力だけのロープ上りだが、苦はない。
「うむ、やはり隠密行動の鉄則は上を取る事でござるな。人は目の前やその下を注視はしても、上を注視すると言う事はあまりない。そしてそれは魔物も同じでござる」
「な、成程……だからわざわざ俺たちにロープ使わせてまでビルの上に登らせたんですね」
「然り。今のこの都市では魔物が建物の中にいてもおかしくない。鉢合わせたら後が面倒でござる。普通は使えぬ道ではあっても忍びとして鍛錬した我らや、探索者ならば行ける道。ここからはビルの屋上を跳んでわたっていくでござるよ」
「……了解。でも警戒は怠らない」
「うむ、この道とて絶対に見つからない保証がある訳ではござらん。拙者も引き続き警戒するが、各々方生命力感知や魔力感知等、引き続き油断されぬよう」
全員頷くと、五人は影丸の先導の元、ビルとビルを跳んで目的地を目指す。その様はまさしく忍者のように映るだろう。
………………………………
「さて、何度も諄くて申し訳ないが今一度確認を。我らの目的はズバリ結界の解除でござる。我々はそれを目的とし、第一に考えなくてはならぬ」
「はい、その為に不要な戦闘、敵に見つかることはやめましょうって話ですよね?」
「然り」
今回の任務では最も気を付けなければいけないのは、すなわち魔物に見つかることだ。もし魔物に見つかって、まして敵にそれを知らされたらどうなるか。あっという間に強力に強化された敵に囲まれて、弱体化された探索者達はひとたまりもないだろう。
今の探索者なら数匹程度なら何とか倒せるかもしれない。しかしそれで敵を倒したとしても、その騒ぎによって他の魔物に見つかってしまったら、結局ひとたまりもない。
それに、仮に敵を倒しても、戦闘の跡が見つかったら、まず間違いなく敵は警戒するだろう。
そうなったらどうなるか? 答えは容易に想像がつくだろう。
その場所全体の警戒水準が上昇することは、潜入後の工作活動に支障が出ることにつながる。
勿論、死体をマジックバッグの中にいれ、戦闘の痕跡をその場の洗浄なり、更に派手に散らかすことでごまかす事は出来るが、それをやるとただでさえ戦闘で時間がとられているのに、更に時間を取られることになる。時間が勝負の潜入工作にそれはかなりのタイムロスになる。
なので「敵には極力見つからない」と「敵とうかつに戦わない」と「戦う他無いとしても用意なく敵を倒さない」と言う3か条を【隠密の3無い】として、影丸は潜入工作班にしつこい位に言い聞かせていた。
「拙者たちがわざわざ隠密用の装備を持ってきたのでござる。わざわざ見つかるようなことをせねば恐らく問題はないと思われる」
「ええ、これ結構いいですね。音も静かだし、隣にいるのに生命力感知とかの感知系でかなり引っ掛かり辛くなっている」
「……これって買い取れませんか?」
「お望みとあらば、いくつか融通するでござる」
「……ありがとうございます」
顔に付けた黒いマスクと靴に後付けするタイプの滑り止めの様なバンドを見ながら影丸に要望を出す茜。実際効果がある。
影丸は隠密的に行動するに当たって、隠密行動初心者のメンバーの為に物音を出さないために、わざわざ伊賀忍軍が使用している道具を持ってきていたのだ。
それが【サイレントスパイク】と【隠密マスク】である。
サイレントスパイクは、スパイクと言う名前ではあるが棘などはなく、要は滑り止めだ。これを靴につけて履くと歩いても物音が全くしなくなると言う代物である。茜はこれをみて、かつて秋彦が履いていたサイレントシューズの能力をどの靴にも付与する様なものだと感じられた。実際サイレントシューズ並みに足音が全くしない。
そして隠密マスクはつけていると、感知系のスキルがかなり効きづらくなると言う効果だ。
茜はかつて自分が秋彦とジュディのデートを出歯亀した時に尾行サングラスを付けていたことを思い出した。あれは尾行対象に対しては絶対に見つからないようにする効果を持っていたが、尾行対象以外には普通に気付かれる。
だがこれは特定の相手ではなく、誰に対してもすごく見つかり辛くなる。勿論完全に見つからなくなるわけではないが、これも隠密行動向けの装飾品と言えるだろう。
正直とりあえずでも持っておくに足る代物と言える。
「されどこれがあると言って油断してはならぬ。これがあっても見つかるときは見つかることを忘れてはならぬ。とはいえ、そろそろ目的地周辺。勝負はここからでござるよ」
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次の投稿は7月2日午前0時予定です。
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