第百八十六話 地方都市奪還作戦、解析結果と環境結界
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これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
地方都市奪還作戦、最前線拠点。
普段はギルドマスター達の会議場であり、地方都市奪還作戦においては指令系のスキルを飛ばす本拠地であるその一角には、今大量の機材の前にして不気味に笑う人がいた。北海道ギルドマスターにして魔法研究家でもある、枝野だ。
計器が計測する数値を見ながら驚くとともに興奮している。
「ふっふっふ……これは凄い、これはいずれ我々でも使える可能性があるな……」
そしてノートパソコンに向き合いものすごい勢いでキーボードをタッチして文章を書きだす。正直どう見てもマッドサイエンティストとしか見えない。
そんな異様な雰囲気に他のギルドマスター達も口を挟めないでいた。
が、その場に雨宮が入ってくると、こんなにも一人でエキサイトしている枝野に対してさらっと声を掛ける。
「やあ、オカちゃん。成果はどうだい?」
「おお! タケちゃん! 聞いてくれいろいろ分かったんだ! ほらほら見てみてくれ!」
……どうやら本人としては聞いて欲しくてたまらなかったらしい。あまりの熱中っぷりに話しかけられなかったが。
「まず解析結果だが……あそこは今闇属性の魔法エネルギーが充満している。そしてどうやらあそこの土地自体に魔法が掛けられている状態であることが判明した」
「な、なんだって?!」
「……具体的にはどのような魔法が掛けられているのでしょうか?」
「まあそうは言っても魔法と言うよりは呪いの類の様なものだ。闇属性魔法にカーズという物や場所を呪う魔法があるのは知っているだろう? それをさらに大掛かりに、更に効果を追加されたものと言えるだろう」
闇属性魔法のカーズ。あれは道具を呪い、装備を呪い、人を呪い、場所を呪う事で、それぞれ効果は違えど様々な悪い効果をもたらす魔法だ。そして闇属性に適応できている闇属性魔法使いやアンデッドと言った魔物に対しては良い効果の恩恵を得ることが出来る。
今の都市部はそれと状態は同じ。だが、それ以上に強力で特殊な状態になっていると言う。
「でも、なんでそんなことに……」
「別におかしなことじゃない。ちょっとした道具を使えばこの現象自体はそう難しい事ではない。実験をしてみようか?」
「え?」
「机を片付けてくれ、今からそれを見せてみよう」
言われるがままにギルドマスター達は机を片付ける。そしてその間枝野はテントの外に出ていき、戻ってきたときにはいくつかの道具を持ち込んでいた。
「それは何だい?」
「例えばこの辺り一帯に、一時的に私の使用属性の一つである炎属性の結界を張ってみたいと思う。そのための道具だ」
そういうと枝野は机があった場所にシートの様なものを広げる。そのシートには魔法陣が描かれていた。一見ただの円に魔法文字が書かれ、中心にはさらに紋章の様な絵が描かれている。
そしてその上に持ち込んだ道具を並べ始める。
持ち込んだ道具は木炭にアルコール、素材としても使う魔物の死骸の一部等。それ等を位置に注意しながら並べ、最後に紋章が書かれている場所に炎の魔石を置いた。
「これで結界が張れるのか?」
「私の出来る範囲では小さい物が精いっぱいだがね」
枝野は手を前に伸ばして真剣な顔をした。
「では行くぞ……!
『赤き炎よ、我が身に宿りし力よ、我が呼びかけに答え力を示せ。
焼却に栄光を、燃焼に称賛を。
この場にありし炎に力を与えよ!』
……ふんぬぅ!」
詠唱を終え、掛け声を上げるとシートに書かれた魔法陣が枝野の魔法力の色に光り輝き、大きく広がっていく。
「おおおおおおお?!!」
「こ、これは……!」
赤い光が辺りを包み込む。ギルドマスターの中でも炎魔法を使える者達はすぐに自分の魔法力の高まりが感じ取れた。しかも桁違いなレベルでだ。
だがしばらくすると光は消え、高まった力も元に戻ってしまった。
「ど、どうした?」
「うーん、やはり持続性に問題があるな……まあいくら魔法陣や詠唱による補強があったとしても、触媒がこれではこんなものか」
ため息交じりにシートの上を見る。
そこには先ほどまで枝野が持ち込んだ素材があったのだが、すべてが真っ白に炭化しており、見る影もなかった。
「つまり、都市の魔物がこういう物を使って結界を張っていると言う事かい?」
「そうじゃない、この魔法陣は僕が魔法の効果を強化する目的で僕が独自に考案した炎魔法限定の汎用強化魔法陣だ、これで結界を張っていた訳じゃない。詠唱も、結界を張るための物ではあるが、必須という訳じゃないんだ」
「どういうことだい?」
「そうだな、一から話すか。僕がこれに気付いたきっかけは僕が研究のために道具を集めていた時なんだが」
枝野がこの結界という概念に気付いたのは自分の持つ北海道の研究所において研究の為に道具を集めていた時、様々な道具を乱雑にあちこちに適当に並べていた時、妙な自分の魔法力の高まりと、自分の習得した魔力感知が一定の道具に対して妙な反応を見せていた。
それらは特に何かに使っている訳でもなく、本当にただ適当においてあったわけなのだが、そのことに興味を持った枝野は道具とその並びに意味を見出すべく調べた。
その結果魔法力が大量に籠った道具が一定の場所にあると、そこに結界のような物が生まれるらしい。
「そうだったのか……」
「今回はそれをただの魔力のこもってないもので再現したのさ。魔法陣と詠唱によって効果を高めることによってね」
「成程……しかしそんなことが起こるとは不思議だなぁ……」
「んー、確かに不思議かもしれないけど、実はそれほどおかしな話じゃないのかもしれないよ」
そういうと枝野がテントの外へ行き、そしてギルドマスター達全員出て来るように手招きする。
外に出てみるとあったのは昨日と変わらず、うっすら黒い靄の様なものがかかった都市だった。
「皆はこんな話を知っているかい? 町の中で落書きが一つあると、それをしばらく放置しているだけでたちまち町は落書きだらけになると言う話を。そして、ごみが一つ落ちている場所にはたちまち他のごみも捨てられだし、町はゴミだめのようになる」
「知っている。人の心理的に、一つゴミが落ちているあるいは落書きがあると、ここはゴミを捨てていい場所、落書きをしてもいい場所と思ってしまい、全くきれいな所に比べてごみを捨てたり落書きを書いたりしだしてしまうのだろう?」
「そうそれだ。それはすなわち環境が生み出した物であり、一つの物が環境を作ったともいえる」
「……一つの物が場所として重要な所にあることで環境自体まで変わり出したのではないか、と言いたいのでしょうか?」
「その通りだ、鬼塚女史。特定の方角、特定の場所に特定の物を置くことで物事の運気なども変わってくる。風水にも似たものがあるね」
枝野はそれらの事から、魔力を孕んだ物体が環境を生み出し、場所や土地そのものに魔法がかかる現象を【環境結界】と命名。まだまだ研究段階ではあっても将来は都市部の防衛機構としても役に立つ現象として期待している。
「今回、環境結界が生まれたのは、人の営みが生んだ場所であるビル群などの都市に魔物が侵入。人間の生活圏を侵し、魔物の汚物という自らの縄張りを主張する物をまき散らして場を汚すことで自らの縄張りとして魔物の力を強め、人々の死体をあえてあちこちに転がすことによって人の動きを呪いによって阻害する働きがある物として見ている」
実際先行していた人の中にはすでに都市部に侵入していた人々はあまりのおぞましさに気分が悪くなり、動きが悪くなったりしていたらしい。すでに突入してしまった人に対するヒアリングはすでに済ませている。
「と言う事は……どうすればいい?」
「決まっている。汚された要所を浄化し、要所に積まれているはずの人々の死体を供養していけばいい。そうすれば結界は解かれるだろう。要所に環境を形成する道具を取り払えば効果は格段に落ちるからね」
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