第百八十四話 地方都市奪還作戦、異常な魔力の宿る都市
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
「ど、どういうことですか!? こんな都市部を目の前にして待機なんて……!」
あたりがどよめく。そしてモンスターキラーズも動揺を隠せない。辺り一帯に響くバード部隊の支援の歌だけが場違いに響いており、それがより一層この待機命令の不自然さを表現しているかのようだった。
思わず通信機越しに雨宮に問いかける探索者も多いが、雨宮は冷静に答えた。
『皆忘れていないかい? 今回の戦いはあくまで威力偵察だ。敵とぶつかりはすれど危険な橋を渡らせるわけにはいかないからね、今の都市部に入っていい物なのかを詳しく検証する必要がある』
「検証? 検証って何を検証するっていうんですか!?」
『それは私が答えよう』
答えたのは雨宮ではないギルドマスターだ。
『どうも皆さん。私は北海道ギルド北の試練、ギルドマスターの枝野公人だ』
今通信機で探索者全員に呼び掛けているのは北海道ギルドマスターの枝野氏らしい。
それを聞いて途端に背筋が伸びる。もしかして何の根拠もない話ではないのかもしれないと感づいたのだ。
枝野公人、彼はかつてオカルトの研究……と言うには拙い、どちらかと言うとただの一オカルトマニアだった。ダンジョンが現れなければただの変わり者で終わるはずだった人物である。
しかし、この世にダンジョンが現れてからと言う物、かつて自分が存在を本気で信じた魔法の存在にすっかり魅せられてしまったのだ。
ある意味趣味が高じた結果だが、現在はギルドマスターの傍ら魔法の研究に没頭しているのである。
現代においてもかなりの変わり者であるが、このご時世オカルトに深い教養を持つことはかなり有利だった。
何せオカルト知識と言うのは魔法とも関連がある物がそれなりにあり、また、オカルトの業界にコネクションがあった事や、持ち前のオカルトの知識を利用して独自に解き明かしたことを論文にしたことで、名実ともに魔法の研究者として名が売れているのだ。
現在は自分達が今使っている魔法自体を調べたり、その時明かした魔法の知識に従って魔法の道具を独自に作り出すこともしていたそうだ。
そんな重度の魔法マニアである彼の言い分を探索者は静かに待つ事にした。
『やあありがとう。さて……単刀直入に言おう。その場所、魔法のエネルギーが異常なくらいに充満している』
淡々と事実を報告してくる枝野。誰もが口には出さないが、それがどうしたと言う表情だ。だがまずは話を聞くことにしよう。
『この戦いが始まる前に何名かに私が独自に開発した、機械を使った簡易的な魔法力の計測器を持たせたんだが、計測した数値がまるで人間が魔法を詠唱し、放つ直前レベルにまで増大している。しかもその場一帯がだ』
要領を得ない者も多いが魔法を放つ直前と言うのは魔法力がかなり高まっている状態だ。なにせその魔法力の高まりで魔法の威力が決まるのだからある意味当然だ。
『魔物がいるのだから、魔法力がその一帯にあるのはそうかもしれない。郊外でも魔法力が普通の場所に比べて魔法力が多めに検知された場所はあった。だがそれでもそこまで巨大な魔法力の高まりは検知されていない……はっきり言おう。その都市部は最早異常だ。入った瞬間こそそこまで影響は出ないかもしれないが今回の威力偵察完了までにだれしも影響が出ないとは考えにくい』
つまり都市部はすでに魔物の巣窟として全体的に常に魔法がかかっているかのような状態になっていると言う事のようだ。
それならば確かにその場に対し下調べもなく入るのは危険かもしれない。
『本来であればこれは全員が突撃前に調べを付けておかなければならなかった事なのかもしれないが、実際には偵察部隊も人手などの問題で郊外を下調べするので手一杯の状態だった』
それはある意味仕方のない事だ。レベルの高い探索者や、調査や偵察を専門にする探索者がいてもあまりに人手が足りない。それでもなお短時間で終わらせなければいけないのが大変な所ではあるのだが。
『また、バード部隊による支援の歌を届かせるためのオーディオ機材も実は都市部にはおけていない現状、今日の所は都市部までの道を切り開き、私のオカルト知識と友人たちの知識と知恵の結晶たる我が【魔法解析装置】にて、都市部に発生している異常な魔法力の調査を行い、その場所に立ち入って大丈夫なのか、またそれがまずいのであればどう対策するのかを調べさせてほしい』
そう聞くと、今勢いと興奮のままに都市部に攻め入るのは得策ではない気がしてきた。
幸い今は氾濫が凍結されており、魔物の氾濫は起きない。焦ることはないのだ。時間はまだこちらの味方である。
『という訳で探索者諸君は一時撤退し、我が調査が終わるまではしばし英気を養って置いて貰う。自衛隊の皆様におかれましては聖域チョークなどによる安全圏の確保など、各自のお仕事をお願いしたい』
………………………………
いよいよこれからだと言うタイミングで思いがけずに戦いが止まってしまった。音楽番組も、地方都市奪還作戦を生中継していた番組も一旦は終了し、後はひたすらこの作戦の成功について討論する番組ばかりになっている。
そして都市部への入り始めの部分はもうすっかり大騒ぎだ。
都市部の様子を少しでも移そうとして自衛隊に止められるニュースキャスターとカメラマンに、枝野氏が解析に使う為の機材の運搬。さらには戦いが終わった地区に家にある人が戻って来ようとして自衛隊に止められている様子もあった。
探索者達も反応はそれぞれだ。
折角の戦いに水を差されたと、不貞腐れてさっさと戻ってしまった人もいるし、自衛隊の人々と一緒に倒した魔物の死体を片付けている人もいる。
モンスターキラーズもすっかり暇を持て余してしまった。調査が何日かかるかわからないし、しばらくはここで待機と言う名の待ちぼうけだ。どうしたものか。
「俺たちはどうしよっか? 折角だし、お手伝いでもしていく?」
「そうですね、自衛隊の方ばかりにやらせると言うのもちょっと心苦しいですし……」
「って、まーちゃん、どーしたの?」
笑屋と言葉と石崎が今後の相談をしているとふと、真崎が街を虚ろな目で見ていた。
「いや……何だろうな。俺の刀がざわめいている……」
「どうしたのさ、今頃厨二病発病?」
「そうじゃないよ。大体今の僕らが厨二病っぽいこと言ったって、今やそれが現実じゃない。意味もなく言わないって、しょうもない」
「ま、そらそーだ。で、刀がざわついているってのは?」
真崎がおもむろに刀を引き抜く。すると、頭金の部分にあしらわれた髑髏の目が紫色に光っていた。また、刀身も黒い炎のようなオーラが纏われており、そのオーラは脈打つかの様に揺らめいていた。
「共鳴しているって言えばいいのかな、何というかあの異様な場に対して刀が行きたがっているっていうか」
「そういえばその刀って闇属性だったね……一応報告する?」
「その方がいいかもしれないね。何かの役には立つかも。じゃあちょっと本部まで下がりましょうか」
「本部も今の制圧状態に合わせてこっち来てるってよ」
「ん、了解」
真崎が刀をしまって尚、黒いオーラは鞘ごと包んでいる。
とりあえず今日はそれを本部へ報告し、今日は一旦体勢を立て直すことになった。流石に地方都市部は大きい。一日では終わらなかった。彼らの受難はこれからである。
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次の投稿は6月17日午前0時予定です。
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