第百八十二話 地方都市奪還作戦、戦場の休息
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
探索者による怒涛の猛攻。
その進撃速度はすさまじく、太陽が真上に来る事には都市の郊外の安全が確保され始めてきた。
正午を告げる放送が聞こえる頃、街の各地にひそかに潜入して備え付けられた、あるいは元あったテレビなどを利用した探索者の強化を行う音楽番組から、音楽が途切れ、雨宮の聞き慣れた声が聞こえてくる。
「よーし! 皆正午だ! 食事の時間だよ! いったん進撃止め! 速やかに各地の後方に設置したテントへ向かってくれ! 今日のお昼はオーク肉のカツカレーだぞ! 迷っている人を見かけたら連れてきてあげてくれ、助け合ってくれ!」
それを聞くと、血気逸る探索者達も我先にとテントへ戻る。無論それはモンスターキラーズも同じである。
「イヤッホー! オーク肉のカツカレー!」
「は、早く戻らなきゃ! オーク肉のカツカレー! 疲れた体にそれは効く!」
「僕らの分がなくなったら大変だ、行こう行こうー」
「ご、ごはん! ごはんーーー!!」
「ああ、あやちゃんってば見たことのないスピードでテントに向かってるわ!」
作戦開始は九時。
かれこれ三時間、ちょくちょく休憩は挟んでいた物の、ほとんどぶっ通しで動きっぱなしであった探索者達はそろそろどっしりと休める時間が必要になっていた。
モンスターキラーズもエリアボスを倒していい加減疲労の溜まりが無視できなくなっていたところである。ちょうどいい食事休憩と言ったところか。
………………………………
モンスターキラーズの最寄りの仮設テントは、避難公園も兼ねたそれなりに大きい公園であった。
探索者が制圧した郊外と都市の合間の場所にある広い避難公園。自衛隊がそこで探索者向けに食事を振舞っていた。メニューは勿論雨宮が言っていたようにオーク肉のカツカレーである。探索者のすきっ腹に魔物を食材にした料理は何よりも染みるご馳走と言う物である。
食事休憩の時間は特に期間自体は設けていないが、一般的な社会人の取る食事休憩に倣って一時間とされた。
すでに公園は探索者でごった返しており、カレーを食べながら話をしている人々が多い。
「そこで、ズバッとな! いやー、スキルが綺麗に決まって気持ちよかったぜ!」
「オーク種36匹、ゴブリン種58匹、ウルフ種22匹だ、どうだ!」
「は! たったそれっぽっちかよ! 俺なんて……」
がなり立てる様な談笑の内容は、もっぱら自分の活躍の自慢であったり己の戦果を競い合う内容が多い様だ。
そこに悲愴な面持ちの人物はいない。みんな一様に、自分達ならばやれると言う確信に近い思いがあるように見える。
「いやー、皆張り切ってるねぇ」
「そうね、興奮が抑えきれていないように見えるわ」
「僕たち探索者はそれでいいんじゃない? 脇は自衛隊の人たちも固めてくれているみたいだし」
そういって真崎は自衛隊の人々を指さす。勿論食事を作ってよそっている人たちとは別のところにいる人たちだ。
真崎が指をさす先では自衛隊の人々はチョークをもってあわただしく走り回っていた。地面に線を書いている人もいる。あれは恐らく聖域チョークだろう。
探索者はただ敵を倒すだけだが、本来はそれ以外にもやらねばならないことがある。
例えば真崎が指さした自衛隊の人たちの様に、聖域チョークを使って安全圏の確立だったり、犠牲者の発見だったり、望みは薄いだろうが、生存者の捜索もそうだ。
探索者が戦いだけに集中できるのは、自衛隊員達が探索者の切り開いたエリアの安全を聖域チョークなどにより、さらに盤石にしているからでもある。
「僕たちがやらないけど必要な所。そういうの全部任せちゃってるもんね今回。頭が下がるってもんさ」
「本当ですね……お疲れ様ですよ」
「……言葉ちゃんカレー貰ったとたんに我に返ったように話に入ってきたね」
「ご飯の確保が最優先でしたので!」
クワッと目を見開いての力強い語彙に、声を掛けた石崎が思わずたじろぐ。本当に言葉は食事のことになると押しが強くなる。
ともかく無事に全員分のカツカレーを確保したので、公園にずらっと並べられたパイプ椅子と机から、空いている場所を探して全員席に着く。
「おっし、んじゃま、いっただっきまーす!」
「「「「いただきまーす!」」」」
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「ふぅ……長かったけど、休憩がもらえるのはラッキーだったわ」
「そうね、流石にこの人数でのローテーションとはいえ、ちょっと骨が折れるわよ」
ところ変わってこちらは桃子達ビューティフルドリーマーのいる舞台裏だ。
舞台裏だからこそ出てきてしまう桃子の疲れたため息とサブリーダーである金雀枝 麗奈のうんざりしたかのような顔。
彼らバード部隊も食事休憩が入るまでの三時間、代わる代わるとはいえ三時間ぶっ通しでの歌である。いくら日ごろから歌を歌うことになれており、喉も普通の人間以上に鍛えられている彼女達であっても相当に厳しいのは確かだ。
しかし泣き言は言っていられない。これこそが自分達が選んだ道であり、今自分達はどのアイドルよりも多くの人に見られている事の代償であり、この一世一代の大舞台にいることの出来ることの証なのだから。
ここは一時間休憩があるだけでもありがたいと思わねばいけない。今はとにかく喉を休めることが第一だ。
そう思い、とりあえず支給されたお弁当を急いで食べ、体力を戻すために、舞台裏でゆっくりと体を休め、喉の腫れを引かせる薬を使い、のど飴を舐める事でのどのケアを行う。
その傍ら聞こえる話はもっぱら前線部隊の話だ。前線部隊はもうそろそろ郊外から都市部へ攻め込む位置にいると言う。
ボスが現れ、いざと言う時になって歌が途切れて負けましたでは話にならない。自分達の責任は重大だ。
そう思うとやはり身が引き締まる。始めこそそうは思えなかったが、ここも立派な戦場だ。戦うだけが辛い戦場ではない。サポートを行う事も立派な戦いだ。
今桃子達は心の底からそう思える。
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しばらくはどこもかしこも探索者達は話をする以外はおとなしかったが、やがてそれも終わりを告げる。
きっかり一時間。再びの侵攻の合図が送られてきた。
「よし、そろそろいいかな? まだ休んでいたい人は休んでいてもいい、無理はしてはいけないからね。けど充分に休めたから、そろそろ攻め入りたい人もいるだろう。そんな人たちの為に指令だ。戦いを再開し、攻め込むんだ!」
雨宮からの指令によるバフがかかると同時に音楽番組も再開される。
一日はまだこれからである。
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次の投稿は6月14日午前0時予定です。
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