第百八十一話 地方都市奪還作戦、エリアボス攻略!
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唸り声さえ、爆音の領域にある凶悪な敵が、轟音の領域の咆哮を上げる。それは開戦の合図であり、敵の宣戦布告でもあった。
「おっしゃー! かかってこい! 返り討ちにしてくれるわー!」
笑屋も負けじと声を張り上げ向かっていく。
最初に仕掛けたのは勿論エリアボスだ。片手で持った巨大なとげ棍棒を両手で持ち直し、思いきり振り下ろす。
しかしそれは笑屋にとっては好都合。わかりやすい攻撃程タイミングを計りやすい攻撃はないのだ。
笑屋はあえて当たるような位置へ行き、両腕を交差させ、バツを作るように身を守る体制を取る。
敵の一撃が両腕に当たる瞬間、笑屋は相手の攻撃に合わせて両腕を弾くかのように前に出す。すると自分の攻撃の衝撃が自分自身に跳ね返ったかのような勢いがとげ棍棒に走り、とげ棍棒が後方に吹き飛ばされそうになる
これこそが笑屋が得意とするもう一つのカウンタータイプの防御スキル、ブロッキングである。
ブロッキングは、敵の攻撃をタイミング良くうまく当てることで、その攻撃を弾き飛ばすことで、敵の体制を大きく崩し、それによって敵の防御を崩す技である。
これは敵の攻撃のタイミングが把握できているととても発動しやすい。現に敵は今、体勢を崩し、思いっきり隙をさらしている。
後方に倒れこみそうになるその隙を見逃さず、奏が追撃を加える!
奏自慢の素早さを活かす攻撃、すなわち高速で行われるドロップキックである。離脱時にも忍刀の攻撃も忘れず加え、その場を離脱する。
そしてダメ押しに真崎が居合切りの構えを取り、遠くから抜刀する。パッと見てもその攻撃は届くはずはない。無いはずだった。
だが、真崎の抜刀は遠くの、しかも打点も上方であるはずのエリアボスの首を捕らえ、首から血を流させた上に転倒させることに成功した。
「二人ともナイスサポート!」
「しかしやっぱすごいね【飛剣】って! 今までなかった遠距離からの物理攻撃だよ!」
「おうさ! 買って良かった風斬りの刃!」
そう、このスキルこそ、疾風切りを体得したことで手に入れた新侍スキルである。
このアクティブスキルの効果は、「剣を振るう事で斬撃物理属性の遠距離攻撃を行うことが出来る」だ。
要するに漫画とかでよくある、剣を振るうと斬撃が衝撃波の様に遠くに飛んでいく現象だ。斬撃を飛ばすとも呼ばれている物である。
これさえあれば物理的に届かない距離からでも刀を使っての攻撃が出来るようになるという、少年時代、男子であれば誰もが夢に見たであろう技を、現実の物にすることが出来るのである。
もとより前衛の弱点とはリーチが武器によって左右されることだ。
剣道三倍段なんて言う言葉もあるように、リーチ、つまり攻撃範囲と言うのは戦闘にとって何より重要視されるものであり、長ければ長いだけ有利と言われている。
だが、これはそれらを一気に打ち崩すスキルだ。なにせ刀が槍並、下手したら銃並の射程を得るのだ。攻撃範囲と言う、武器によって定められた絶対的な武器の優位性を破壊する代物である。
これに対抗するなら弓などの遠距離攻撃武器を持ってくるか、同じく斬撃を飛ばせるようにならねばならない、まさしく剣士にとって革命的な技と言えるだろう。
だがエリアボスも、そんな攻撃を受けてなお、体勢を立て直す元気があるようだ。
「だけど、まだ向こう元気だな……これ本当に戦闘力二万以下な訳?」
「……なんか違う気がする。今の隙にアナライズカメラ使ってみようかな」
笑屋はおもむろに持っていたアナライズカメラで敵を撮影してみる。
探索者たるものアナライズカメラは必需品だ。誰が突然忙しくなるかわからない物である以上、斥候役だけに限らず全員が持っているはずのものだ。
かつては貴重品であったアナライズカメラも、今では普通に妖精商店でも売られている代物だ。エリート探索者達にとって全員所持は基本である。
ともかく、笑屋が撮影した写真に描かれた敵はこの様に出てきた。
名前:パワード・ブラックオーガバーサーカー
レベル35
肉体力:40,000
魔法力:0
戦闘力:50,000
敵の名前や持っているスキルや解説の欄に違いはなかったが、肉体力と戦闘力が段違いだった。正直驚きの数値である。
「あれれ? 何これ?」
「知っている戦闘力と違うな……」
「……都会の特別仕様とか?」
まあパッと見てしまったなら動揺は隠せないだろう。明らかに前情報の戦闘力と違うのだから。
これがサービスエリアと言う狭い範囲で生まれ、生き残った魔物と地方都市と言う競合相手の多く、日々戦いの連続であった魔物との魔物の差なのだろうか?
「なんでもいいわ、もうやるっきゃないんだしね」
「でも、ブロッキングとか通用するし、やれるだけやらせてね?」
「五万の魔物相手にやるの? まあ、いいけどさ。エミーの気が済むまで付き合ってあげる」
「了解、敵が突っ込み始めるまで、魔法力をためて待ってるからねー」
「エミー、油断は禁物ですよ」
「勿論勿論、御霊具、ゲットだぜーってやるまではこっちももう引けねーしな!」
すっかり体勢を立て直したパワード・ブラックオーガバーサーカーが再び咆哮を上げる。すると今度はとげ棍棒を構え、そのまま自分の身体ごと回転させ始めた。
「な、なにを……?!」
思わず笑屋が敵の意図が分からずこぼすがすぐに意図が分かった。
体ごと棍棒を回転させ、体に砂と風を纏って、そのまま回転による遠心力を上乗せした強力な一撃を見舞う気の様だ。
ただでさえ、ぐるぐると回転する様はまるで砂嵐の様だと言うのに、その勢いのままに食らわせる一撃の威力など、もはや想像もできないと言う物だ。
「これは……タイミングも読みづらいし、まともに受けられるか怖い所でもあるなー」
「ど、どうする?!」
笑屋の弱気な声に奏が焦る。
「なーに、台風の弱点っていったらあれしかないでしょ?」
「え……? あ!」
不敵に笑う笑屋が上を指さす。奏はすぐに理解できたようだ。
「流石にあれと勝負は出来ないわ。まさか一撃で終わる訳もないでしょ。他の攻撃ならいくらでも付き合うけどあれはだめだ。まっつん、悪いけどちょい止めてきて?」
「わかった! 任せて!」
奏は素早く笑屋の前に立ち、そして軽くジャンプする。軽くと言っても笑屋の身長を軽く超える程度には高いジャンプだ。
笑屋は両腕を交差させ、ガードの体制に入る。ブロッキングの様に。
「じゃあ、行ってきます!」
「はい、行ってらっしゃい!」
奏は飛び上がったまま、笑屋を踏み台にするかのように、両足で笑屋のガード部分に蹴りを入れる!
笑屋はそれを先ほどの要領でブロッキングで弾き飛ばす!
弾き飛ばされた奏は、その軽い体も相まって笑屋の指定した真上の方向へ高く高く跳んで行った。
これは笑屋と奏の合わせ技、その名も【えみかなブロッキングブースター】である。
奏が笑屋に対して強烈な蹴りを加え、笑屋がそれをブロッキングし、ブロッキングで弾き飛ばされる力を利用して、強烈な跳躍力で敵を蹴り抜く技である。
今回はそれを真上に飛ばす。狙いは勿論砂嵐だけではない、台風の弱点である真上だ。
高々と跳んだ奏は、重力に従い高い空から地面に落ちてゆく。
落ち行く先は、当然回転で砂嵐を作って向かってくる敵の真上だ!
奏は見事着地と同時にパワード・ブラックオーガバーサーカーに落下の勢いで威力の増した強烈な一撃を喰わせ、パワード・ブラックオーガバーサーカーはその一撃を喰らい、倒れた。
倒れたと言っても、死んだのではなくただ単純に倒れただけなのだが。
「イエーイ! ナイス!」
「もう何度もやってるコンボだからね! こんな局面でも安心して狙っていけるってもんよ!」
ハイタッチを決める笑屋と奏。だが死んではない敵がまた起き上がってきた。そう、まだまだ戦いはこれからである。
「おっしゃー! まだまだいけるぜー、来いやー!」
笑屋も勇ましく声を掛ける。あの技以外なら何でも受けられると言う確信がある以上、ここで御霊具は手に入れておきたい所。笑屋はそのチャンスをふいにするつもりはないのだ。
………………………………
「とうりゃあ!」
「これで……終わりです!!」
笑屋がブロッキングで見え見えの攻撃をブロッキングして体制を崩し、言葉が止めを刺し、戦いは終了した。
パワード・ブラックオーガバーサーカー、都市部レベルの戦いはついに終わった。モンスターキラーズの勝利である。
そして、笑屋も無事、御霊具を手に入れることに成功した。笑屋の付けている大型の小手がパワード・ブラックオーガバーサーカーの素材を取り込み、黒く変色していっている。
周りが静かになるころには、笑屋の付けていたガントレットは、すっかり様変わりしていた。新たな御霊具の誕生である。
「……やった、やったぜ……!」
「おめでとうエミー、すごかったよ」
「おめでとうございます、エミー」
モンスターキラーズから、祝福の拍手を受ける笑屋。
「あ、ありがとう。でもまだまだ戦いはこれからだもんね」
「ん、次は僕も御霊具欲しいなー」
「はい、それはあたしもです!」
どうやらやはり羨ましいらしく、石崎と言葉は早く次に行きたい様だ。そして笑屋も、新しい自分の装備と試したくて仕方なくなっていた。
「よっしゃー! じゃあ行っちゃいましょうか!」
笑屋がそういうと、休憩も取らずに全員再び駆け出してしまった。時刻は、間もなく正午である。
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